日露外相会談 領土なき条約交渉認めぬ

朝日新聞 2015年09月25日

日ロ外相会談 当面の成果を急ぐより

岸田外相がモスクワを訪問し、ロシアのラブロフ外相と会談した。

とりわけ目立ったのはロシア側の強硬姿勢である。

ラブロフ氏は会談後の共同記者会見で「日本が国連憲章を含む第2次大戦後の歴史的現実を受け入れて初めて、問題を前進させられる」と語った。

第2次大戦の結果、北方四島はロシアのものとなり、敗戦国の日本には異を唱える権利がないという主張だ。

岸田氏は会談で、8月22日のメドベージェフ・ロシア首相の北方領土訪問など最近のロシア側の強硬な動きに対し、「極めて遺憾だ」と抗議した。共同記者会見では「双方に受け入れ可能な解決策を作成するため、対話を続けていかなければならない」と呼びかけた。

だが、この時期の訪ロが適切だったか、疑問がぬぐえない。

メドベージェフ氏が択捉島を訪問した時、領土問題で日本に譲歩する考えはないと発言していた。今月2日には、ロシアで対日関係を担当するモルグロフ外務次官が、北方領土問題について「日本側といかなる交渉も行わない。この問題は70年前に解決された」と述べた。

それでも岸田氏が訪ロに踏み切った背景には、北方領土交渉を加速するため、プーチン大統領の年内訪日をめざす首相官邸の意向があるようだ。だがロシア側の強硬姿勢を見るにつけ、年内訪日が実現できる環境にあるとはとても思えない。

ロシアは米欧主導の制裁の影響などで経済苦境が続き、領土問題での譲歩が難しい国内事情がある。それが日本への強硬姿勢が際立つ要因でもあろう。

もちろん、ロシアとの対話のパイプを維持することは重要だ。北方領土問題の打開はもとより、北東アジアの秩序づくりやエネルギー確保の多角化を考えても、日ロ関係を長期的に安定させ、強化していくことは欠かせない。

一方で、守るべき原則を忘れてはならない。ウクライナなどでのロシアの「力による現状変更」は決して容認できない。この理念をともにする国際社会と協調してこそ、日本の主張の正当性も高まっていく。

日本政府がいまなすべきことは、当面の成果を急ぐことより、米欧と緊密に連携しつつ、ロシアに対して、国際法の順守と国際秩序への復帰を強く促すことだ。

長い目で見れば、そのことこそがロシアとの対話の環境を育て、北方領土をめぐる日本の立場を強めることになる。

読売新聞 2015年09月23日

日露外相会談 領土対立打開へ対話を重ねよ

北方領土問題に関するロシアの強硬姿勢がより鮮明になった。それでも、日露関係の改善には、政治家間の対話を粘り強く重ねるしかあるまい。

岸田外相がモスクワで、ラブロフ外相と会談し、ロシアの首相や閣僚の相次ぐ北方領土訪問について「極めて遺憾で、受け入れられない」と抗議した。ラブロフ氏は「ロシアにはロシアの立場がある」などと反論した。

一方で、「双方に受け入れ可能な解決策を模索する」ことでは一致した。来月上旬に次官級の平和条約交渉を1年9か月ぶりに再開することでも合意した。今後は、国際会議などの場で首脳や外相の対話を継続するという。

平和条約交渉は、ウクライナ情勢に基づく日本の対露制裁や露側の対抗措置に伴い、中断していた。すぐに成果は期待できないが、交渉再開自体は評価したい。

訪露を延期してきた岸田氏は会談で、「問題があるからこそ、対話を重ねていくことが重要だ」と強調した。理解できる主張だ。

ただ、領土問題を巡る日露の立場の隔たりは大きい。

ラブロフ氏は会談後の共同記者会見で、「北方領土については協議しなかった。議題は平和条約の締結だった」と語った。

看過できないのは、ラブロフ氏が「戦後の歴史の現実を認識すべきだ」と述べ、70年に及ぶ北方領土の不法占拠を正当化し、既成事実化しようとしていることだ。

安倍首相とプーチン大統領による2013年の日露共同声明は、北方4島の帰属問題解決を明記した「イルクーツク声明」など、両国が採択した全合意に基づき、条約交渉を進めるとうたっている。ラブロフ氏の発言は筋違いだ。

露側には、日本を硬軟両様で揺さぶり、制裁解除や経済協力を引き出したい思惑があるようだ。

米欧の経済制裁や原油価格下落などの影響で、国内経済は悪化している。経済担当のシュワロフ第1副首相が岸田氏と会談したのも露側の期待の表れと言えよう。

当面の焦点は、プーチン氏の年内来日の行方である。

日本側は前向きだが、来日が実現しても、中身のある会談ができなければ、意味がない。対露制裁に関する先進7か国(G7)の結束を乱すだけになりかねない。

プーチン氏は、対日関係の修復と領土問題の前進に本気で取り組む意思と能力があるのか。日本政府は、露側の出方を見極めつつ、慎重に対処しなければなるまい。戦略的な交渉力が求められる。

産経新聞 2015年09月23日

日露外相会談 領土なき条約交渉認めぬ

ロシアが歴史の歪曲(わいきょく)を続ける限り、北方領土問題を解決して平和条約を締結することにはつながらない。

モスクワで開かれた岸田文雄外相とラブロフ外相との会談で、中断していた日露外務次官級協議を来月、再開することが合意された。

だが、会談後にラブロフ外相が「北方領土は協議していない。平和条約締結問題が議題だった」と会見で語ったのは聞き捨てならない。領土交渉を拒否すると表明したに等しいからだ。

ロシア側は経済関係の強化などは求めつつ、領土問題の棚上げを図ろうとしている。

安倍晋三首相はこのような時期のプーチン大統領の年内訪日は見送るべきだ。大統領訪日を前提とした事務レベル協議も、安易に進めるべきでない。

ラブロフ氏は、不法に占拠した北方四島について「第二次大戦の結果」などと歴史を歪曲する発言を繰り返している。次官級協議の担当者であるモルグロフ外務次官も、領土問題について「70年前に解決済みだ」と強調している。

1993年の「東京宣言」は択捉、国後、色丹、歯舞と北方四島の名前を明記し、帰属の問題を解決して平和条約を早期に締結することで当時のエリツィン大統領と細川護煕首相が確認した。

こうした基本事項さえ確認できないなら、協議のテーブルにつくのは難しい。日本側がモルグロフ氏の発言撤回などを求めるのは当然である。

岸田外相はメドベージェフ首相が8月下旬に北方領土・択捉島を訪れた暴挙に抗議し、月末の訪露予定を延期した。それからわずか1カ月で、なぜモスクワに足を運んだのか。一通りの抗議はしたのだろうが、本題は大統領訪日の地ならしだと、相手側に主導権を握られたのではないか。

ロシアはウクライナのクリミア半島を一方的に併合し、同国東部の親露派への軍事支援を続けている。「力による現状変更」という国際秩序の根幹への挑戦だ。だからこそ、日本は欧米と歩調を合わせ、対露制裁を科してきたのだろう。北方領土の不法占拠も同根だと忘れてはならない。

プーチン政権は北方四島の軍事拠点化の加速も指示している。今の安倍政権の対露接近という方針について、国民の広い支持が得られるとも到底思えない。

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