岸田外相がモスクワを訪問し、ロシアのラブロフ外相と会談した。
とりわけ目立ったのはロシア側の強硬姿勢である。
ラブロフ氏は会談後の共同記者会見で「日本が国連憲章を含む第2次大戦後の歴史的現実を受け入れて初めて、問題を前進させられる」と語った。
第2次大戦の結果、北方四島はロシアのものとなり、敗戦国の日本には異を唱える権利がないという主張だ。
岸田氏は会談で、8月22日のメドベージェフ・ロシア首相の北方領土訪問など最近のロシア側の強硬な動きに対し、「極めて遺憾だ」と抗議した。共同記者会見では「双方に受け入れ可能な解決策を作成するため、対話を続けていかなければならない」と呼びかけた。
だが、この時期の訪ロが適切だったか、疑問がぬぐえない。
メドベージェフ氏が択捉島を訪問した時、領土問題で日本に譲歩する考えはないと発言していた。今月2日には、ロシアで対日関係を担当するモルグロフ外務次官が、北方領土問題について「日本側といかなる交渉も行わない。この問題は70年前に解決された」と述べた。
それでも岸田氏が訪ロに踏み切った背景には、北方領土交渉を加速するため、プーチン大統領の年内訪日をめざす首相官邸の意向があるようだ。だがロシア側の強硬姿勢を見るにつけ、年内訪日が実現できる環境にあるとはとても思えない。
ロシアは米欧主導の制裁の影響などで経済苦境が続き、領土問題での譲歩が難しい国内事情がある。それが日本への強硬姿勢が際立つ要因でもあろう。
もちろん、ロシアとの対話のパイプを維持することは重要だ。北方領土問題の打開はもとより、北東アジアの秩序づくりやエネルギー確保の多角化を考えても、日ロ関係を長期的に安定させ、強化していくことは欠かせない。
一方で、守るべき原則を忘れてはならない。ウクライナなどでのロシアの「力による現状変更」は決して容認できない。この理念をともにする国際社会と協調してこそ、日本の主張の正当性も高まっていく。
日本政府がいまなすべきことは、当面の成果を急ぐことより、米欧と緊密に連携しつつ、ロシアに対して、国際法の順守と国際秩序への復帰を強く促すことだ。
長い目で見れば、そのことこそがロシアとの対話の環境を育て、北方領土をめぐる日本の立場を強めることになる。
この記事へのコメントはありません。