クラスター条約 8月発効を歓迎する

朝日新聞 2010年02月19日

クラスター爆弾 非人道兵器もう使えない

クラスター爆弾は、地上の戦車部隊などを攻撃する。ひとつの爆弾から多いものだと何百個もの子爆弾をばらまくが、不発のまま地上に残るものが少なくない。戦火が去った後も住民に悲惨な被害をもたらし、「第2の地雷」とも言われる。

そのクラスター爆弾の禁止条約(オスロ条約)が、8月に発効することになった。これを機に、多くの文民を巻き添えにするこの非人道兵器を追放する外交に一層、力を込めていきたい。

条約では、爆弾の使用、生産、移譲を禁止し、不発弾除去、貯蔵分の廃棄を進めなければならない。犠牲者だけでなく、その家族、地域社会への支援も義務づけている。こうした規定を速やかに実行に移し、痛ましい「戦後被害」の撲滅へ手段を尽くすべきだ。

オスロ条約にはすでに104カ国が署名し、日本やフランス、ドイツなどの主要国も批准済みである。だが、大量のクラスター爆弾を保有する米国やロシア、中国、イスラエルなどが署名さえしていない。今後、締約国を増やすことが大きな課題となる。アジア諸国の署名が少ないのも実情で、参加を促していかなければならない。

ただ、米国などがすぐには参加しなくても条約の力は大きい。締約国を増やして、クラスター爆弾の使用は非人道的との考えを国際社会の通念にしていけば、実際には保有国も使用しにくくなるからだ。

1999年に発効した対人地雷禁止条約(オタワ条約)にも米国は参加していないが、アフガニスタン、イラク戦争では対人地雷を使わなかった。背景に、対人地雷への国際的な批判の目があったのは明らかだ。

この先例にならい、締約国を増やしながら、クラスター爆弾は人道に反するという考えを広め、根付かせることが大事だ。

オスロ条約はオタワ条約の時と同様に、中堅国家と国際NGOネットワークの連携が原動力となって成立した。日本では地雷廃絶日本キャンペーン(JCBL)が積極的に活動してきた。今後とも、締約国の拡大や犠牲者支援などでNGOの協力は欠かせない。日本政府も11月にラオスで開催予定の第1回締約国会議の政府代表団にNGOを加えるなど、連携の強化をさぐる必要がある。

クラスター爆弾については、生産にかかわる企業への投融資規制を求める運動を国際NGOネットワークが進めている。ベルギー、アイルランドなどではすでに、規制の法律ができている。英国、ニュージーランドなどでも政府や議会が規制を検討している。

投融資規制は、締約国以外にも禁止を促す有効な手段だろう。日本でも政府、金融界、NGOが対話を進め、規制のあり方を検討していきたい。

毎日新聞 2010年02月19日

クラスター条約 8月発効を歓迎する

1発の爆弾から多数の子爆弾が飛び散り、不発弾(第2の地雷)となって市民を殺傷するクラスター爆弾。その使用や開発、生産などを禁じる条約(オスロ条約)が8月に発効することが決まった。「第2の地雷」から市民を守り、被害者を支援する条約の意義は大きい。まだ条約に参加していない国々、とくに米国、ロシア、中国、イスラエルなどの早期批准を求めたい。

この条約を積極的に後押しした日本は昨年7月、世界で14番目の批准国になった。発効に必要な30カ国に達した条約批准国は、アジアでは日本とラオスだけ。米州ではメキシコなど3カ国で、主に欧州とアフリカの国々が占める。主要国は日本、フランス、ドイツの3カ国だけというのはさびしい。

条約は、備蓄弾の原則8年以内の廃棄や10年以内の不発弾除去を求めている。米露中やイスラエルなどが参加しない主な理由は、対人地雷禁止条約(オタワ条約)に続いて、クラスター爆弾も禁止となれば抑止力が低下すると考えるからだろう。海岸線の長い日本でも、敵を水際で食い止めるにはクラスター爆弾が効果的という意見は根強かった。

しかし、殺傷力や抑止力のみに固執するなら、人類がかつて生物兵器や化学兵器の禁止を決意することもなかった。兵器は進化しつつ多様化している。「クラスター爆弾なしの軍事作戦は不可能」と言い切るのも難しかろう。代替兵器として精密誘導弾などを導入する日本としては、防衛力の維持に万全の注意を払いつつ、「脱クラスター」は歴史のとどめがたい流れと考えたい。

クラスター爆弾は米国が約550万個保有し、子爆弾の総計は7億発以上にのぼるという。米国は03年のイラク戦争以降使っていないが、ロシアとグルジアは08年の交戦時に使用し、イスラエルもレバノンなどで使ったとされる。発効が決まったのは大きな成果だが、大量保有国たる米露中と、紛争を抱えるイスラエルやインド、パキスタンなどの参加がないと条約の趣旨は生かせない。

それでも、使用・製造・備蓄のほか「持ち込み」も禁止対象とされるのは意義深いことだ。たとえばクラスター爆弾を積んだ航空機は、条約批准国では燃料補給などの協力を受けにくくなるという。条約参加国の「包囲網」により、米露中などを批准に導く展望も開けるわけだ。

8月発効について外務省は岡田克也外相の「歓迎」談話を発表した。日本はクラスター爆弾の保有数や廃棄計画を明確にしていないが、この際、公表を考えるべきだろう。米国など未加盟国の参加を促すのも、もちろん日本の務めである。

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