辺野古移設工事 知事の承認取り消しは乱暴だ

朝日新聞 2015年09月15日

辺野古移設 既成事実化は許されぬ

沖縄県の翁長雄志知事はきのう、仲井真弘多(ひろかず)・前知事による名護市辺野古の埋め立て承認を取り消す手続きを始めた。

米軍普天間飛行場の移設計画をめぐって、この1カ月、政府と沖縄県の集中協議が続いたものの、物別れに終わった。

政府は間髪を入れず、中断していた移設作業を再開。県の埋め立て承認取り消しは、これに対抗してのことだ。

政府と県がこれほど泥沼の対立に踏み込むのは異常事態である。承認が取り消されれば、さらに法廷闘争に発展する可能性が高い。

政府は埋め立てを既成事実化しようとする動きを直ちにやめ、改めて県と話し合いのテーブルにつくべきだ。

作業を続ければ、県民の反発は増幅する。辺野古の米軍キャンプ・シュワブゲート前では連日座り込みが続き、大浦湾ではカヌー隊や抗議船の海上抗議行動が続く。不測の事態を招くことは避けなければならない。

国会前では先週末、主催者発表で2万2千人が「辺野古の新基地反対」を訴えるなど、沖縄への共感は広がっている。

対立が激しければ、それだけ強いしこりが残る。在沖米軍幹部はしばしば「良き隣人として」と発言するが、県民の理解がなければ日米同盟の基盤は危うくなる。

翁長氏は21日、ジュネーブの国連人権理事会で演説する。戦後、日米両政府によって沖縄が過重な基地負担を背負わされた経緯を国際社会に訴える。安全保障の問題とは別に、人権や自己決定権の視点を強調する。

米議会には数年前まで、辺野古移設の実現を疑問視する声があった。だが、前知事の埋め立て承認もあって移設支持が強まった経緯がある。

普天間返還の答えを探るためには、米国を議論に巻き込み、ハワイやグアム、豪州なども含め、海兵隊全体の巡回配置の中で在沖海兵隊のあり方を再検討する必要がある。

政府と県は、基地負担軽減や振興策を話し合う場を設けることでは合意した。翁長知事の当選後しばらくのように、政府が協議を拒否する状態よりはましだが、この対立の中で、うまく機能するとは思えない。

やはり政府が埋め立てを中止し、率直に県と話し合える場をつくるべきだ。その中で、米国や東アジアの国々との関係まで視野を広げ、過去の歴史から将来の関係までを見据えた安全保障思想を生み出せないか。

そのための新たな議論のテーブルづくりこそ求められる。

読売新聞 2015年09月15日

辺野古移設工事 知事の承認取り消しは乱暴だ

法律の手続きにのっとり、政府とも十分に調整した自治体の正当な決定を一方的に覆すのは、あまりに乱暴ではないか。

米軍普天間飛行場の辺野古移設を巡り、沖縄県の翁長雄志知事が、仲井真弘多・前知事による移設先の埋め立て承認を取り消す考えを表明した。防衛省からの意見聴取を経て、10月上旬にも正式決定する。

翁長氏は、7月に私的諮問機関がまとめた報告書を根拠に、「取り消すべき瑕疵かしが認められた。あらゆる手段を駆使し、辺野古に新基地は造らせない」と語った。

報告書は「(県の)審査に欠落がある」「生態系の(影響)評価が不十分だ」などとし、「法的瑕疵がある」と結論づけている。

だが、瑕疵の認定では、公平性や客観性を十分に考慮したのか。「辺野古移設に瑕疵があるとするなら、他の全部の埋め立て工事も『瑕疵あり』となってしまう」との指摘は県庁内で少なくない。

行政の継続性の観点からも問題だ。「結論ありきの承認取り消し」と言われても仕方あるまい。

報告書が在沖縄米海兵隊の抑止力を疑問視し、代替施設整備に伴う埋め立ての必要性について「合理的な疑いがある」と主張していることも、説得力を欠く。

中国軍の東シナ海での活動活発化や軍備増強により、海兵隊の機動力の重要性は高まっている。報告書の認識は甘すぎよう。

疑問なのは、辺野古移設の主眼である普天間飛行場の危険性除去に関して、報告書がほとんど言及していないことだ。

仲井真氏は、埋め立て承認の理由について「普天間の人々の不安を解消し、子や孫たちのために(問題を)解決することが一番重要だと考えた」と強調する。

菅官房長官が記者会見で、「今日までの危険性除去の努力を無視するものだ」と述べ、翁長氏側を批判したのは理解できる。

政府は、県との集中協議の終了を受け、移設作業を再開した。10月以降に埋め立て本体工事を開始したい考えである。

防衛省は、埋め立て承認が取り消された場合、行政不服審査法に基づき、国土交通相に不服審査を請求する。同時に、取り消しの執行停止も申し立てる構えだ。

県は、工事差し止めを求めた提訴も検討している。最終的に法廷闘争になる公算が大きい。

翁長氏には、柔軟な対応が求められる。今は、辺野古移設に反対すれば、地域振興策を引き出せるという時代ではあるまい。

産経新聞 2015年09月15日

承認取り消し 沖縄の安全損なう判断だ

米軍普天間飛行場の辺野古移設をめぐる前知事の埋め立て承認に瑕疵(かし)があったとして、翁長雄志(おなが・たけし)沖縄県知事が承認の取り消し手続きに入った。

移設が頓挫すれば、普天間周辺の危険性を取り除くことはできない。何より、軍事力を誇示する中国の脅威に直面する沖縄の安全、ひいてはアジア太平洋地域の安定に必要な抑止力を保てない。

翁長氏は10月中に正式に取り消し処分を通告するという。辺野古移設を拒む「理想論」を掲げてきたが、それにより損なわれるものの重大性を考えるべきだ。

翁長氏の意思表明に対し、安倍晋三首相は移設工事を進める考えを明らかにした。菅義偉官房長官も仲井真弘多(なかいま・ひろかず)前知事の承認について「法的瑕疵はない」と断言した。いずれも当然といえる。

政府は今後も移設の必要性について沖縄県民を説得する努力を続けつつ、行政不服審査などの対抗措置をとることも含め、移設に万全を期していかねばならない。

政府と県の辺野古移設に関する5度の集中協議は物別れに終わった。翁長氏は「私としては意を尽くしたが、議論にならなかった」などと語った。

県民の暮らしに責任をもつ自治体のトップとして、移設阻止が最優先との判断には疑問を持たざるを得ない。現実的な「次善の策」をとる姿勢をみせてほしい。

翁長氏は会見で、7月提出の第三者委員会の報告書を受けて「承認には取り消し得るべき瑕疵があると認められた」と語った。

だが、具体的にどのような点に大きな法的問題点があったというのかはよく分からない。

最終判断を下したのは前知事だが、その行為に誤りがあったというなら、行政機関としての沖縄県の責任も大きい。当時の担当者について、県庁内で処分などを行う予定はあるのだろうか。

翁長氏は今月下旬にジュネーブで開かれる国連人権理事会に出席し、辺野古移設中止について演説を行うという。

国際世論を喚起する狙いだろうが、国家の安全保障に関し、海外で異論を唱えるのは国益を損なうものだ。政治家としてとるべき行動といえるだろうか。

米軍基地の配置を含む安全保障政策は、政府が責任をもって米政府と協議する。根幹政策が揺らぐ印象を与えてはならない。

この記事へのコメントはありません。

この社説へのコメントをどうぞ。
お名前
URL
コメント

この記事へのトラックバックはありません。

トラックバックはこちら
http://shasetsu.ps.land.to/trackback.cgi/event/2288/