豪雨災害 命を守る機敏な対応を

朝日新聞 2015年09月12日

豪雨災害 命を守る機敏な対応を

記録的な大雨が東日本各地に甚大な被害をもたらした。茨城県と宮城県では、河川の堤防が決壊した。濁流が家を押し流し、田園や街が泥に沈んだ。

行方不明者の安否が気遣われる。長時間にわたり自宅などに孤立し、助けを待つ人たちもいる。政府はあらゆる組織を動員し、人命救助と物資・医療の支援に全力をあげてほしい。

栃木県では、数日間に1カ月分の2倍を超える雨が降った。地球温暖化との関連が疑われる極端な気象現象はもはや想定外とはいえない。あらゆる事態を念頭におき、社会の備えを不断に見直す努力が必要だ。

今回、とりわけ広範な災害を生んだのは河川の決壊である。地元当局者らからは「あまりの水量で堤防が耐えきれなかった」「まさかあそこが切れるとは」などの発言が聞かれる。

確かに日本各地の主要河川流域は、長年の治水工事の積み上げで安全度が高まったが、そこに過信はないか。過去になかったような雨量や水量が起こりえる今、むしろ河川は常にあふれたり、堤防が崩れたりしかねないものと考えるべきだろう。

国土交通省は、2012年の米国でのハリケーン被害で効果があったとして、関係者が事前にとるべき対応を時系列でまとめた行動計画(タイムライン)づくりに取り組んでいる。

例えば、風水害の発生を「0時」として、「96時間前/ホームレスへの注意喚起」▽「24時間前/休校の決定」▽「決壊直前/職員の退避」。今は東京都の荒川下流域などでの限られた試行だが、全国に広げたい。

今回、避難指示のタイミングや対象地域は適切だったのか。検証も必要だろう。

鬼怒川が決壊した茨城県常総市は未明に一部地区に避難を指示した。早めの対応だった。

ただ、肝心の決壊地区への指示は午前10時半だった。別の場所で川があふれたのは午前6時過ぎ、気象庁の特別警報は午前7時45分だ。どんな判断の流れで現地への指示が遅れたのか。

市東部は鬼怒川と小貝川の1級河川に挟まれ、かねて水害が多い。地元の記憶は防災に役立つ。住民の中には、避難勧告が出ていなくても、自主的に避難した人もいたようだ。

いざ災害が起こりかねない事態では、できるだけ自分の命を自分で守る基本動作が大切だ。

そのためにも、テレビやラジオ、自治体の防災メールなどで情報を集め、家族らとともに機敏に避難する心の備えをもっておく。台風シーズンが続く今、その原則を再確認したい。

読売新聞 2015年09月13日

東日本豪雨 政府を挙げて救援と復旧急げ

頻発する豪雨に、どう対処すべきなのか。教訓を今後の対策に生かさねばならない。

東日本を襲った記録的な大雨は、各地に大きな被害をもたらした。死者や多数の行方不明者が出ている。茨城県や宮城県では河川から濁流があふれて、広い範囲で住宅街が水没し、避難所に身を寄せる人も多い。

とりわけ鬼怒川が決壊した茨城県常総市の被害は甚大だ。現地を視察した安倍首相は、行方不明者捜索や被災者の生活再建に「全力を挙げる」と述べた。

政府は自治体などと連携し、早急に対策を講じてもらいたい。被害が拡大した経緯の徹底的な検証も必要である。

今回、警察、消防、自衛隊、海上保安庁が速やかに出動し、逃げ遅れた住民をヘリコプターも使って救助した。政府の総力を挙げた対応は評価できよう。

だが、課題は少なくない。

鬼怒川の堤防には、「10年に1度」程度の大雨で越水する箇所が多い。国土交通省は、決壊現場付近のかさ上げ工事などを計画し、昨年度から用地買収を始めたが、着工に至っていなかった。

流域の住民に、洪水の危険性は十分に周知されていたのか。

気象庁は10日午前0時過ぎ、鬼怒川上流の栃木県を対象に、大雨の特別警報を出した。間もなく常総市も流域の一部地域に避難指示を発令した。ただし、浸水が及んだ全域に指示を広げたのは、決壊した後だった。

結果として、避難指示発令の在り方に教訓を残した。

今回の大雨は、積乱雲が帯状に連なる「線状降水帯」が長時間、被災地域にとどまったことが原因だ。台風18号から変わった低気圧と台風17号により、湿った空気が関東、東北地方に流れ込み、積乱雲が次々に発生した。

地球温暖化の影響もあり、近年、豪雨災害が各地で相次ぐ。9月に限ってみると、大雨の発生日数が20世紀初頭より3割増えた。

どの河川でも、同様の事態は起きると考えるべきだろう。

国交省は、全国の河川で堤防改修などに取り組んでいる。首都圏の荒川などでは、200年に1度の増水にも耐え得るというスーパー堤防の建設が進んでいる。

予算上の制約を考えれば、全河川の堤防を直ちに強化するのは現実的ではない。優先度を見極めることが大切だ。

住民の避難が迅速かつ円滑に進むよう、自治体が日頃の備えを再点検することも不可欠である。

この記事へのコメントはありません。

この社説へのコメントをどうぞ。
お名前
URL
コメント

この記事へのトラックバックはありません。

トラックバックはこちら
http://shasetsu.ps.land.to/trackback.cgi/event/2287/