参院審議、大詰めへ 「違憲」法案に反対する

朝日新聞 2015年09月19日

安保法案と国会 熟議を妨げたのはだれか

つかみ合いと怒号。委員長の姿は見えず、声も聞こえず、現場にいた者も何が起きたかわからない中での「可決」。

参院特別委での混乱と内閣不信任決議案などをめぐる攻防の果てに、憲法違反だと考えざるを得ない安全保障関連法案の審議が大詰めを迎えている。

国権の最高機関とされる立法府が無残な姿をさらしたのは、極めて遺憾である。

この責任は一体どこにあるのか。いろいろな見方はありうるだろう。

それでも、抵抗する側には理があると考える。

安倍首相は14日の特別委で、「熟議の後に、決めるときには決めなければならない。それが民主主義のルールである」と語った。

衆参で200時間を超える審議で熟議はなされたか。とてもそうは思えない。

審議の意味は確かにあった。

広範な国民が法案に反対の意思を示すようになったのは、その成果だろう。一方で、国会での与野党の質疑が熟議の名に値したとはとても思えない。

その責任の多くは、政権の側にある。

安倍内閣は、集団的自衛権は行使できないとしてきた歴代自民党内閣の憲法解釈を正反対にくつがえす閣議決定をもとに、法案化を進めた。その結果出てきたのが、自衛隊法など10本の改正案をひとつに束ねた一括法案と1本の新法だ。

多岐にわたる論点を束ね、丸ごと認めるか否かを国会に迫る。これでは熟議などできはしない。衆院特別委の浜田靖一委員長(自民)でさえ、衆院での採決後に「法律10本を束ねたのはいかがなものか」と内閣に苦言を呈したほどだ。

一括法案の中核にあるのは、違憲の疑いを指摘されてきた集団的自衛権の行使容認である。個々の改正点が政策的に妥当であるかを検討する前に、まずは憲法に適合しているのか判断すべきなのはあたりまえだ。

国民を守るための安全保障政策や、世界の平和と安定に寄与するための国際貢献策は、極めて重要な政策テーマだ。

政権を担った経験のある民主党など野党にも、安全保障に詳しい議員は多い。「集団的自衛権ありき」でなく、安倍内閣がまっとうなやり方で新たな安全保障政策を提起していれば、もっと冷静で、実のある論戦の土壌はつくれたはずだ。

それなのに国会審議で見せつけられたのは、「安全保障環境は変わった」といった説明の繰り返しと、矛盾を突かれるとそれまでの答弁をくつがえす政府側の一貫性のなさだ。

その典型は、自衛隊による中東・ホルムズ海峡での機雷除去だ。首相は当初から集団的自衛権行使の具体例として挙げ続けていたのに、採決の直前になって「現実問題として想定されていない」と認めた。

問題点を指摘する議員に「早く質問しろよ」。閣僚答弁の間違いについての指摘に「まあいいじゃない、それくらい」。議場での首相のヤジも驚くべきものだった。

「決めるべき時には決めるのが民主主義のルール」というのも、常に正しいのだろうか。

国会議員には、憲法を守り、擁護する義務がある。憲法に違反する立法はできない。

選挙で多数を得たからといって、何をしてもいいわけではない。それは民主主義のはき違えであり、憲法が権力をしばる立憲主義への挑戦にほかならない。「民主主義のルール」だと正当化できる話ではない。

野党議員が議会の中で認められるあらゆる手段を駆使して、こうした政権側の動きを止めようと試みたのは当然だ。

もちろん、暴力的な行為は許されない。しかし、参院での採決をめぐる混乱の責任を、野党ばかりに押しつけるのはフェアでない。

「違憲」の法を成立させようとする国会の前で、憲法学者の樋口陽一・東京大学名誉教授はこう訴えた。

「憲法だけでなく、日本社会の骨組みが危ない」

この危機感を共有する。

今回のようなやり方で新たな法制をつくったとしても、残るのは政治への不信である。

いつか現実に自衛隊が他国軍の兵站(へいたん、後方支援)に出動することになれば、国民の幅広い理解も後押しもないまま、隊員たちは危険な任地に赴くことにもなる。

安倍首相は「法案が成立し、時が経ていく中で間違いなく理解は広がっていく」と述べた。「のど元過ぎれば」とでも言いたいのだろうか。

内閣の行き過ぎをとめる責任は、与党にもある。

一連の経緯は国会への信頼も傷つけた。この法制を正すことでしか、国会は失った信用を取り戻すことはできまい。

読売新聞 2015年09月19日

安保法案成立へ 抑止力高める画期的な基盤だ

◆「積極的平和主義」を具現化せよ

日本の安全保障にとって画期的な意義を持つ包括的法制が制定される。高く評価したい。

今国会の焦点の安全保障関連法案が19日に成立する見通しとなった。

歴代内閣が否定してきた集団的自衛権の行使を限定的ながら、容認する。日米同盟と国際連携を強化し、抑止力を高めて、日本の安全をより確実なものにする。

自衛隊の国際平和協力活動も拡充する。人道復興支援や他国軍への後方支援を通じて、世界の平和と安定を維持するため、日本が従来以上に貢献する道を開く。

この2点が法案の柱である。

◆国際情勢悪化の直視を

日本は今、安保環境の悪化を直視することが求められている。

北朝鮮は、寧辺の核施設の再稼働を表明した。衛星打ち上げを名目とする長距離弾道ミサイルを来月発射する可能性も示唆した。中国は、急速な軍備増強・近代化を背景に、東・南シナ海で独善的な海洋進出を強めている。

大量破壊兵器と国際テロの拡散も深刻化する一方である。

北朝鮮の軍事挑発や中国の覇権主義的な行動を自制させ、アジアの安定と繁栄を維持する。それには、強固な日米同盟による抑止力の向上と、関係国と連携した戦略的外交が欠かせない。

安保法案は、外交と軍事を「車の両輪」として動かすうえで、重要な法的基盤となろう。

戦後70年の節目の今年、安倍政権は、法案の成立を踏まえ、「積極的平和主義」を具現化し、国際協調路線を推進すべきだ。

この路線は、米国だけでなく、欧州やアジアなどの圧倒的多数の国に支持、歓迎されていることを忘れてはなるまい。

220時間にも及ぶ法案審議で物足りなかったのは、日本と国際社会の平和をいかに確保するか、という本質的な安全保障論議があまり深まらなかったことだ。

◆国民への説明は続けよ

その大きな責任は、野党第1党の民主党にある。安易な「違憲法案」論に傾斜し、対案も出さずに、最後は、内閣不信任決議案などを連発する抵抗戦術に走った。

多くの憲法学者が「違憲」と唱える中、一般国民にも不安や戸惑いがあるのは事実だ。

だが、安保法案は、1959年の最高裁判決や72年の政府見解と論理的な整合性を維持し、法的安定性も確保されている。

日本の存立が脅かされ、国民の権利が根底から覆される明白な危険がある――。そうした存立危機事態が発生した際さえも、憲法が武力行使を禁止している、と解釈するのには無理がある。

政府が長年、集団的自衛権の行使を禁じる見解を維持してきたのは、今回の「限定的行使」という新たな概念を想定しなかったためだ。従来の解釈が、むしろ過度に抑制的だったとも言える。

安倍首相は、第1次内閣の2007年に有識者懇談会を設置し、解釈見直しに着手した。13年に懇談会を再開し、昨年5月の報告書を踏まえ、行使容認に慎重だった公明党や内閣法制局も交えた協議を経て、法案を作成した。

国論の分かれる困難な政治課題に、ぶれずに取り組めたのは、3回の国政選に大勝し、安定した政権基盤を築いたことが大きい。選挙公約にも平和安全法制の整備を掲げており、「民意に反する」との批判は当たるまい。

無論、今後も、安保法案の意義や内容を分かりやすく説明し、国民の理解を広げる努力は粘り強く継続しなければならない。

安保法案が成立しただけで、自衛隊が効果的な活動を行えるわけではない。法案は、自衛隊法95条の「武器等防護」に基づく平時の米艦防護や、海外での邦人救出、「駆けつけ警護」など、多くの新たな任務を定めている。

◆防衛協力を拡充したい

まず、自衛隊が実際の任務にどう対応するか、自衛官の適切な武器使用のあり方を含め、新たな部隊行動基準(ROE)を早急に作成しなければならない。さらに、そのROEに基づく訓練を十分に重ねることが大切である。

平時の米艦防護が可能になることで、自衛隊と米軍の防衛協力の余地は大幅に広がる。米軍など他国軍との共同訓練や、共同の警戒・監視活動を拡充すべきだ。機密情報の共有も拡大したい。

新たに必要となる装備の調達や部隊編成の見直しなども、着実に進めることが重要である。

それらが、安保法案の実効性を高めるとともに、様々な事態に切れ目なく、かつ機動的に対処する能力を向上させるだろう。

産経新聞 2015年09月18日

安保関連法案 採決こそ議会制の根幹だ

安全保障関連法案は参院特別委員会で可決されたが、審議の終局段階を迎え、反対する野党の採決阻止行動によって国会の混乱が続いている。

採決にあたり、民主党議員らは国会の一部を占拠し、鴻池祥肇特別委員長の移動を封じようとするなど、物理的妨害を重ねた。

他の反対勢力ともども「民意に反した強行採決は許されない」などと批判しているが、まったく的外れだ。審議を経た法案を採決するのは立法府として当然だ。

国会議員やその集まりである政党は、国民の負託を受けて、法案採決を通じた政策的判断を求められる。それを否定するなら、議会制民主主義は成り立たない。

とくに問題なのは、審議の終盤から、民主党などが国会周辺で法案に反対するデモ隊と連動するように、同様のスローガンを叫び続けていたことである。

学生グループ「SEALDs(シールズ)」の行動を称賛し、「採決は民主主義に反する」といった主張にまで同調している。

国民には当然ながらデモをする権利がある。だが、一部のデモ隊が国民の声を代表しているかのように、民主党が位置付けているのは大きな誤りだ。

国民が「正当に選挙された代表者を通じて行動」する議会制民主主義の考え方は、憲法前文の冒頭に出てくる。デモ隊の下請けのような活動は、政党としての役割を放棄するものではないか。

岡田克也代表は「私たちの後ろには1億人がいる」などと、法案に関する説明が不十分な点を強調している。政府の説明が的確さを欠いてきた面はある。

だが、自らの安保政策を確立しないまま「違憲法案」などと決めつけてきた。深みのある論戦を展開できなかった大きな要因は民主党にある。「1億人」のうち、民主党の政策を支持する国民がどれくらいいると考えているのか。

参院での関連法案の審議は100時間を上回った。衆院の116時間を加え、戦後の安全保障分野の法案審議としては最長だ。

採決では、国会の事前承認について政府と同意した日本を元気にする会、次世代の党など野党3党も賛成した。与党単独採決にはあたらない。現実の脅威を踏まえて行うべき安保政策の論議に、もっぱら抵抗の姿勢を見せる目的のパフォーマンスは不要だ。

朝日新聞 2015年09月18日

安保法案、採決強行 日本の安全に資するのか

与野党の激しい対立と市民の反対デモのなかで、新たな安全保障関連法案が、自民、公明の与党などの賛成多数で参院の特別委員会を通過した。政権は成立を急いでいる。

この法案は、憲法9条の縛りを解き、地球規模での自衛隊の海外派遣と対米支援を可能にするものだ。

成立すれば、9条のもと、海外の紛争から一定の距離をとってきた戦後日本の歩みは大きく変質する。

法案がはらむ問題は、その違憲性だけではない。

政権が強調するように、新たな法制で日本は本当により安全になるのか。そこに深刻な疑問がある。

確認したいのは、安全保障政策は抑止力だけでは成り立たない、ということである。

軍事的に一定の備えは必要だが、同時に、地域の緊張をやわらげる努力が欠かせない。

無謀な戦争への反省から、戦後日本は近隣国との和解を通じて地域の安定に貢献してきた。その歩みこそ「9条がもたらした安全保障」である。専守防衛はそのための大原則だ。

中国の軍拡や海洋進出にどう向き合うかは日本の大きな課題だ。だがそれは、抑止偏重の法案だけで対応できる問題ではない。仮に南シナ海での警戒・監視に自衛隊を派遣したとしても、問題は解決しない。

これからの日中関係を考えるカギは「共生」であるべきだ。日中は経済はもとより、環境、エネルギー問題など、あらゆる分野で重要な隣国同士だ。

必要なのは協力の好循環である。対立の悪循環に陥ることはお互いの利益にならない。

もし東シナ海や南シナ海で日中が衝突すれば、米国を含む世界の悪夢となる。抑止と緊張緩和のバランスをとりつつ、アジア太平洋をより安定させる外交努力こそ、日本がなしうる最大の貢献である。

日米同盟を考えるうえでも、法案の問題は大きい。

戦後の日本政府は、米国の数々の戦争に対して、真っ向から批判したことはない。

イラク戦争という誤った戦争を支持し、復興支援のため自衛隊を派遣した。日本政府はまともな検証をしていない。法案にも、自衛隊の派遣に事後の検証を義務づける規定はない。

米国が大義なき戦争に踏み込んだ場合、自衛隊の海外活動の縛りを解く日本が一線を画していけるか。これまで以上に難しい判断と主体性が問われる。

安倍首相は審議でこう強調してきた。「日本が戦争に巻き込まれることはあり得ない」「自衛隊のリスクは高まらない」

新たな「安全神話」である。

法案が成立すれば、自衛隊は海外での戦闘を想定した組織に変質する。米軍などとともに、より踏み込んだ兵站(へいたん、後方支援)に参加し、発進準備中の航空機への給油や弾薬の提供も請け負えるようになる。リスクが高まらないはずがない。

首相は過激派組織「イスラム国(IS)」に対する軍事作戦には「政策判断として参加する考えはない」と述べた。だが、法案では可能になっており、将来的に兵站で戦闘に巻き込まれる可能性は排除できない。

海外で一人も殺さず、殺されないできた自衛隊が、殺し殺される可能性が現実味を帯びる。

それなのに、自衛官が人を殺した時に対応する法制に不備がある。拘束された時に捕虜として遇される資格もない。そんな状態で自衛隊を海外の紛争地に送り出してはならない。

国際社会における日本の貢献に対しても、軍事に偏った法案が障害になる恐れがある。

貧困、教育、感染症対策、紛争調停・仲介など、日本が役割を果たすべき地球規模の課題は多い。いま世界が直面している喫緊の問題である難民対策も、日本がどう貢献していくかの議論が迫られている。

こうした活動に世界各地で携わる日本のNGO(非政府組織)には、自衛隊の軍事面での活動が拡大すれば、日本の平和イメージが一変し、NGOの活動が危険になるとの声がある。

混乱が続く中東では「戦後、海外で一人も殺していない」という日本の平和国家ブランドへの評価が根付いてきた。海外での武力行使に歯止めをかけてきた9条の資産といえる。

法案によって、かえって日本の貢献の手足が縛られるとすれば、政権が掲げる「積極的平和主義」とは何なのか。

法案には、国連平和維持活動(PKO)の拡充など検討に値するテーマも含まれる。ところが11本を2本にまとめた法案の一括成立にこだわる政権の姿勢で、議論は未消化のままだ。

安全保障政策の面からも、この法案には危うさがある。広範な「違憲」との指摘に耳を貸さず、合意形成の努力も欠いたまま、成立させてはならない。

読売新聞 2015年09月18日

安保法案可決 民主の抵抗戦術は度が過ぎる

安全保障関連法案が参院特別委員会で、自民、公明両党などの賛成多数で可決された。

鴻池祥肇委員長の不信任動議を否決した直後の法案採決では、与野党議員が委員長席に殺到し、混乱した。与党は18日までに、法案を参院本会議で可決、成立させる方針である。

これに対し、野党側は、中谷防衛相の問責決議案などを参院に提出した。衆院への内閣不信任決議案の提出も含め、法案成立に抵抗し続ける構えだ。

看過できないのは、民主党が主導して、国会内で連日、度を越した審議妨害・引き延ばし戦術を展開していることである。

委員会室前の通路で、多数の女性議員らを「盾」にして、委員長や委員の入室を邪魔する。委員長らの体を激しく押さえつけたり、マイクを奪ったりする。

どんな理由を挙げても、こうした物理的な抵抗や暴力的な行為を正当化することは許されまい。

言うまでもなく、国会は審議・言論の場である。国会議員には、一定のルールに基づく、品格と節度のある行動が求められる。

民主党議員らの言動は、国会外のデモとも連動し、法案成立をあらゆる手段で阻止する姿勢をアピールするための政治的パフォーマンスだと言うほかない。

安保法案は、日米同盟を強化し、抑止力を高めて、切れ目のない事態対処を可能にするものだ。できるだけ早期に成立させる必要がある。審議が尽くされた法案を粛々と採決するのは、民主主義の基本原則に合致している。

特別委の採決では、与党に加え、元気、次世代、改革の野党3党も賛成した。この意義は大きい。

3党が賛成したのは、自民、公明両党との協議で、自衛隊の海外派遣に対する国会の関与を強化することで合意したためだ。

中東での機雷掃海など、日本攻撃が差し迫っていない存立危機事態時の防衛出動は、例外なく国会の事前承認を求める。重要影響事態でも、国民の生死に関わる場合を除き、事前承認を求める。これらが5党の合意の柱である。

3党は、法案修正を求めたが、付帯決議や閣議決定で合意を担保することで歩み寄った。与党も、より緊急な事例を除き、3党の主張する事前承認を受け入れた。

双方が協議を重ね、現実的な妥協を図ったことは評価できる。安全保障に関わる法案は、より多くの政党の賛成で成立させることが望ましい。成立した法律の安定的な運用を可能にするからだ。

産経新聞 2015年09月17日

北の核と安保法案 日米の抑止力強化を急げ

北朝鮮が4回目となる核実験の強行を示唆し、10月10日の朝鮮労働党創建70年に合わせ、長距離弾道ミサイルを発射する構えも見せている。

核とミサイルをちらつかせた国際社会に対する恫喝(どうかつ)を断じて許してはならない。日米を軸に関係国は結束し、北に何ら果実を与えない姿勢を鮮明にすべきだ。

南北軍事境界線付近で起きた南北の応酬も記憶に新しい。地域の安定を乱しつづける危険な国は、すぐ近くに存在している。

日本の平和と安全を守るには、日米同盟の強化が欠かせない。成立が急がれる安全保障関連法案にはそのための役割がある。

国連安保理決議は、平和への重大な脅威として、北朝鮮の核・ミサイル開発を禁じている。核実験やミサイル発射を強行すれば、国際社会は速やかに追加制裁に踏み切るべきだ。

北朝鮮が核などで挑発を繰り返すのは、そうする以外に体制を維持するすべがないと考えているからだろう。後ろ盾だった中国との関係が冷却化し、孤立の度合いを深めている。

9、10月には米中、米韓の首脳会談が予定されている。各国は会談を通じ、核放棄を求めるメッセージを打ち出してほしい。

核の恫喝で米国を直接、交渉に引き出す狙いもあるとみられるが、もう瀬戸際外交は通用しない。国際社会との対話に真摯(しんし)に応じ、非核化への道を歩み出す以外に、未来を描くことはできないと知らしめるべきだ。

なによりも北朝鮮は拉致被害者の再調査結果を報告するという日本との約束を果たしていない。

拉致被害者の支援組織「救う会」は、北朝鮮側が「8人死亡、2人未入国」とする13年前と同じ結論の報告書を準備しているとの情報も得ているという。そのような内容なら、時間の引き延ばしを図っただけであり、到底、受け入れることはできない。

北の核兵器とその運搬手段であるミサイルの脅威への直接的な対応としては、日本は米国の核抑止力に依存するしかない。

強固な同盟を構築することが、その前提といえよう。新たな安保法制の下で、日米共同の抑止力を高める。それは、北の恫喝に屈せず、国家と国民の安全を守るために急がなければならない課題そのものである。

朝日新聞 2015年09月15日

安保法案 民意無視の採決やめよ

安倍政権は、新しい安全保障関連法案を週内に成立させようとしている。国会の会期末が、秋の大型連休をはさんで27日に迫っているからだ。

ところが、衆参両院を通じ200時間もの審議で、集団的自衛権行使の違憲性をはじめ様々な問題の指摘に納得できる答弁はなされていない。国民の多くが不信と不満を抱いている。

こうした民意をかえりみぬ採決は、してはならない。

最新の朝日新聞社の世論調査では、法案に賛成29%に対し、反対は54%に達した。

注目すべきは「今の国会で成立させる必要はない」が68%、「国会での議論は尽くされていない」が75%に上ったことだ。

法案に賛成と答えた人の中でも、議論が尽くされていないと答えた人が57%もいる。法案の趣旨には賛成でも、政府の答弁ぶりには納得がいかないということだろう。

参院の特別委員会は15日に中央公聴会、16日に横浜市で地方公聴会を開く。自民、公明の与党は、地方公聴会が終われば直ちに採決に踏み切る構えだ。

中央公聴会には過去10年で最多の95人が、意見表明する公述人に応募した。野党によれば、全員が法案に反対だという。

今回に限らないが、有識者や市民から意見を聞く公聴会は、重要法案の採決に向けた条件整備と位置づけられ、形骸化しているのが実情だ。

だが、この法案は平和国家としての日本の針路を左右する重要法案だ。違憲の疑いも濃い。世論調査での不満や公述人への多数の応募を考えれば、公聴会は「いま現在の民意」を国会につなぐ回路として重要な意義を持つ。アリバイづくりですませるわけにはいかない。

いまの国会は、戦後最も長い95日間延長された。首相は「徹底審議」をアピールしたが、与党には法案を受け取ってから60日以内に参院が議決しない時、衆院が再議決できる憲法59条の適用も念頭にあった。

安倍首相はきのうの参院特別委で、世論の反対を認めたうえで「選挙で選ばれた議員で審議を深め、決めるときには決めていただきたい」と語った。

与党幹部は先週、「参院で決着をつけるべきだ」として、衆院での再議決はしない方針を確認している。当然のことだ。一院の議決だけで成立させるなど言語道断である。

首相が強調した徹底審議の結果が、世論の反対だ。27日の会期末までに参院で採決できなければ、いさぎよく廃案にするのが筋である。

読売新聞 2015年09月15日

安保法案審議 国際協力活動も拡充したい

世界の平和と安定を確保するには、各国の連携と協調が不可欠である。日本も、その一翼を担い、国力に見合った責任を果たさねばならない。

参院特別委員会で、安全保障関連法案の集中審議が行われた。

自民党の佐藤正久氏は、自衛隊の海外派遣について、「事前に準備した以上のことは出来ない。備えが大事だ」と強調した。イラク復興支援で陸上自衛隊の先遣隊長を務めた経験に基づく発言だ。

安倍首相は、「自衛隊活動の法的根拠を明確に定め、平素より計画を作り、訓練を行っていくことが極めて重要だ」と同調した。

安保法案は、自衛隊の国際平和協力活動を拡充する。その柱が、恒久法の国際平和支援法案に基づく他国軍への後方支援活動だ。

湾岸戦争や米同時テロのような危機が発生した際、その都度、特別措置法を制定しなくても、機動的な派遣を可能にするものだ。

自衛隊には、他国軍と違って、法律に規定された活動しか行えないという制約がある。平時から、様々なシナリオを想定した訓練を重ね、情報収集や他国との調整を行える利点は極めて大きい。

それが自衛官の活動のリスクを極小化することにもつながる。

「平和と唱えるだけで平和は実現できない。各国が安定した世界を作ろうと協力し合っている」との首相の指摘はもっともだ。

国際社会が一定の秩序を保ち、安定的に発展することは、日本の平和と繁栄にも資するだろう。

後方支援活動では、発進準備中の航空機への給油が可能となる。大森政輔・元内閣法制局長官は、戦闘行動と一体化するという憲法上の疑義を内閣法制局が過去に示していたことを明らかにした。

だが、こうした従来の憲法解釈は過度に抑制的で、国際的な常識と乖離かいりしていると言えよう。

もう一つの柱は、国連平和維持活動(PKO)協力法改正案に基づき、自衛隊の任務と武器使用権限を広げることである。

武装集団などに襲われた民間人らを自衛隊が助ける「駆けつけ警護」や、現地住民の保護などの安全確保活動が規定されている。

緊急時に民間人らの生命を救うことは、人道的観点でも必要だ。憲法が禁じる海外での武力行使とは本質的に異なる活動である。

大量破壊兵器の拡散、国際テロの横行などで、今はどの国も1国のみでは平和を保てない時代だ。脅威を封じ込める国際協調行動に日本は、憲法の範囲内で積極的に関与、貢献する必要がある。

産経新聞 2015年09月13日

安保法制と政治 脅威への備えは怠れない

現実の脅威をしっかり認識し、国の守りに努めることなくして国民の負託にどう応えるのか。安全保障関連法案の国会審議を通じて浮かび上がった国政の一面である。

集団的自衛権の限定行使を認め、日米同盟の抑止力を強めなければ、日本の平和と安全を守りきれない時代になった。安倍晋三政権が安保関連法案の成立を急いでいるのはそのためだ。

「戦争ができる国」になるなどとレッテル貼りに終始する、反対派の発想とは全く無縁だ。必要なのは、日本の危機をいかに減じるかという現実の政策論である。

法案が5月15日に国会提出されてから約4カ月のうちにも、日本を取り巻く安保環境は悪化してきたことを、与野党の議員は直視してほしい。

最大の懸念要因は中国である。日米を射程に収める弾道ミサイルや米空母攻撃用の対艦弾道ミサイルを披露した、先の軍事パレードを警戒するだけでは足りない。

中国海軍の5隻からなる艦隊が今月初旬ごろ、アラスカ沖で米国領海に進入した。オバマ大統領がアラスカ州を訪問中だった。

軍艦は他国の領海でも平和や安全を害さなければ通過できる無害通航権を持つ。だが、習近平政権が米国の出方を試した可能性が高いと日本政府もみている。

南シナ海では、中国は人工島の軍事拠点化を進めている。米国に対して、中国が一層挑戦的になっているのは明白である。

朝日新聞 2015年09月10日

参院審議、大詰めへ 「違憲」法案に反対する

新たな安全保障関連法案の参院審議が大詰めを迎える。自民党総裁選で再選された安倍首相は来週、法案の採決に持ち込み、成立させる構えだ。

だが、法案に対する世論の目は相変わらず厳しい。

朝日新聞の8月下旬の世論調査では法案に賛成が30%、反対は51%。今国会で成立させる必要があると思う人は20%、必要はないと思う人は65%だった。

多くの専門家が法案を「憲法違反」と指摘し、抗議デモが各地に広がる。国民の合意が形成されたとはとても言えない。それなのに政府・与党が数の力で押し切れば、国民と政治の分断はいっそう深まるばかりだ。

改めて安倍政権に求める。

「違憲」法案の成立を強行することは許されない。法案は廃案にし、出直すべきだ。

安倍政権は中国の台頭などを念頭に、日本を取り巻く安全保障環境が変化したのだから「集団的自衛権の限定的な行使容認が必要だ」と主張する。これに賛同する国民も多い。

一方で印象深いのは、護憲論から改憲論にまで広がる、反対論の多様性である。

「先の大戦を反省し、戦後日本が守ってきた平和主義を捨ててはならない」という指摘。

「中東などで自衛隊の活動を拡大すれば、かえって敵対感情を招きかねない」と懸念するNGO(非政府組織)関係者。

「憲法を改正すべきだ。解釈改憲で集団的自衛権を認めるのは、憲法が権力を縛る立憲主義に反する」との意見もある。

これらの反対論に、政権は耳を傾けようとはしない。

法案を「違憲」と断じた最高裁の山口繁・元長官の指摘に対し、中谷防衛相が「現役を引退された一私人の発言」と語ったのは象徴的だ。「専門知」への敬意が決定的に欠けている。

政策上、集団的自衛権の行使を認める必要がある。それが政権の主張だ。だとすれば国民に正面からその必要性を説き、憲法改正を問うのが筋である。

事実、首相が「憲法を国民の手に取り戻す」と訴え、憲法改正の発議要件を下げる96条改正を訴えた時期があった。視線の先には9条改憲があった。

これが立憲主義に反すると批判を浴びるや、首相は解釈改憲にかじを切る。

少人数の閣僚だけで閣議決定し、圧倒的な与党の数で法案を通し、実質的な改憲をはかる。国民の合意形成という手順を省き、政府・与党の閉ざされた合意だけで事を済ます。

いま、憲法は国民の手から奪われようとしている。

その結果、二重三重の意味で法的安定性が揺らいでいる。

政府が国会でどんな答弁をしても、覆される疑念がぬぐえない。首相がいくら否定しようと、いつか徴兵制が導入されるのではという国民の不安が消えないのは、そのためだ。

法案成立後は違憲訴訟が相次ぐ公算が大きい。政権交代があれば、憲法解釈が再び変わる可能性もある。政権は、集団的自衛権の行使ができる「存立危機」の概念すらあいまいなまま押し通す構えだ。恣意(しい)的な運用に対する歯止めが欠落し、政府の裁量を広げている。

こうした不安定な状況で、自衛隊を危険な海外任務に送り出すことがあってはならない。

もう一つ、法案が揺さぶっているのは憲法9条の重みだ。

自衛隊の海外展開の任務と範囲を拡大し、米軍など他国軍との連携を強め、中国への抑止力を高める。憲法9条を安全保障上の阻害要因とみてその意味を小さくし、国際社会での軍事的な役割を拡大する――。

安倍政権の掲げる「積極的平和主義」がそうした方向性だとすれば、海外の紛争への直接的な関与から一定の距離をとってきた戦後日本の平和主義とは、似て非なるものだ。

もう一度、9条のもつ意味を考えてみたい。

時に誤った戦争にも踏み込む米国の軍事行動と一線を引く。中国や韓国など近隣諸国と基本的な信頼をつなぎ、不毛な軍拡競争に陥る愚を避ける。平和国家として、中東で仲介役を果たすことにも役に立つ。

現実との折り合いに苦しむことはあっても、9条が果たしてきた役割は小さくない。

確かに、米軍と自衛隊による一定の抑止力は必要であり、その信頼性を高める努力は欠かせない。そうだとしても、唯一の「解」が、「違憲」法案を性急に成立させることではない。

国際貢献についても、自衛隊派遣の強化だけが選択肢ではない。難民支援や感染症対策、紛争調停など多様な課題が山積みである。9条を生かしつつ、これらの組み合わせで外交力を高める道があるはずだ。

数の力で、多様な民意を一色に塗りつぶせば、国民が将来の日本の針路を構想する芽まで奪うことになる。

読売新聞 2015年09月13日

安保法案審議 今国会で確実に成立させたい

安全保障関連法案の参院審議が、いよいよ大詰めを迎える。

過去最長の95日間の延長をした通常国会も、27日に閉幕する。会期中に確実に成立させねばならない。

特別委員会での法案採決の前提となる中央公聴会が15日に設定された。与党が来週後半の特別委と本会議の採決・成立を目指すのに対し、民主など野党6党は、法案の成立阻止に向けて「あらゆる手段を講じる」ことで一致した。

民主党などは、安保法案を「違憲」と決めつけている。しかし、この批判は当たらない。

法案は、集団的自衛権の行使の要件を、あくまで日本の存立が脅かされ、国民の権利が根底から覆される明白な危険がある「存立危機事態」に厳しく限定した。日本周辺有事における米軍艦船の防護などを想定したものである。

過去の最高裁判決や政府見解の基本的論理を踏襲し、法的安定性も確保されている。

「違憲」論者は、存立危機事態という極めて限定的かつ重大な危機を脱する目的であっても、武力行使を否定するのだろうか。

日本の安保環境の悪化を踏まえれば、同盟国の米国や友好国の豪州などと防衛協力を強め、抑止力を高める必要性は増している。

参院審議は既に、80時間を超した。審議を尽くし、最後は採決で法案の可否を決するのは、議会制民主主義の基本ルールである。

疑問なのは民主党の対応だ。

4月に、将来の集団的自衛権の行使容認に含みを残す党見解をまとめた後、どんな状況なら容認するかの党内論議を回避し、ひたすら法案反対を唱え続けている。

非現実的な「徴兵制の復活」への国民の不安をあおるようなパンフレットを作成したことには、党内からも批判が相次いだ。

岡田代表は10年以上前から、米艦防護を可能にすることに前向きだったのに、なぜ反対一辺倒になってしまったのか。

維新の党と、日本を元気にする会など3党は、それぞれ政府案の対案や修正案を参院に提出し、与党と協議を重ねている。

民主党は、領域警備法案を維新と共同提出しただけで、集団的自衛権などの対案は出していない。細野政調会長は「安保政策は本来、与野党が対立すべきでない」とし、対案作成にも前向きだったが、党全体の方針にはならなかった。

3年以上も政権を担当した野党第1党として、無責任ではないか。政府案に反対するだけでは、「抵抗野党」のそしりを免れない。

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