◆自公両党は軽減税率の導入貫け
消費増税に伴う痛税感を和らげる効果に乏しい上に、国民に無用の負担を強いる。欠陥だらけの制度を、採用するわけにはいかない。
財務省が、消費税率を10%に引き上げる際の負担緩和策の原案を、与党税制協議会に示した。全品目に10%の税率を課したうえで、酒類を除く飲食料品については、税率2%相当額を後日、国民に給付する仕組みである。
これでは、購入時の支払額は減らず、消費の落ち込みを防ぐ役割は果たせまい。与党は財務省案を退け、食料品など生活必需品の税率を低く抑える本来の軽減税率を導入するべきだ。
◆みっともないバラマキ
財務省は負担緩和策を「日本型軽減税率」と称している。
これに対し、協議会のメンバーから、「軽減税率もどきではないか」などと、疑問の声が相次いだ。全品目に同じ税率を適用し、後からお金を配るのでは、給付金制度にほかならないからだ。
財務相経験者で、税制に詳しい伊吹文明・元衆院議長も自民党二階派の会合で、「財務省にしては、みっともない案だ。福祉給付金のようなバラマキになる」と、厳しく批判した。
自民、公明両党は2014年12月の衆院選共通公約で、消費税10%時に軽減税率を導入することを明記した。財務省案を採用し、軽減税率だと強弁すれば、国民を欺くことになる。
財務省案では、所得制限は設けず、高所得者も含めて広く薄く給付金を支給する。一方で、給付額には1人当たり年5000円程度の上限を設ける方向だ。
政府は14年4月に消費税率を8%に上げた際、低所得者に1万~1万5000円を支給する「簡素な給付措置」を実施したが、景気下支え効果はなかった。今回はさらにインパクトが弱い。
所得が低い人の負担感を緩和する効果も期待薄である。
◆低所得者への恩恵薄く
協議会では、飲食料品の消費税額を把握するためにマイナンバー(共通番号)カードを活用することについても、実現性を危ぶむ声が多数上がった。
買い物の時、店頭の読み取り機にカードをかざすと、新設の「還付ポイント蓄積センター」にデータが集約される。消費者は、税務署などに出向くか、インターネットなどで給付金を請求する。
消費税10%が予定される17年4月までに、全国に約80万もあると見られる小売りや外食の事業者すべてに、読み取り機を設置できるだろうか。マイナンバーカード自体の配布も間に合うまい。
1台数万円とされる設置費や、全国にシステムを張り巡らせるコストもかかる。センターの維持・管理費や給付金の振込手数料、担当職員の人件費なども新たな財政負担となる。
協議会では、新国立競技場の建設費増大の原因となった工法になぞらえて、「第2のキールアーチになってはいけない」と危惧する意見も自民党から出た。
このほか、「全国民が買い物のたびにマイナンバーカードを持ち歩くことは、現実味があるのか」と、消費者が制度を利用するために強いられる煩雑さの指摘もあった。
カードの紛失や盗難で、個人情報の流出や悪用による被害が出ることを懸念する向きは多い。
麻生財務相は記者会見で、「カードを持っていきたくなければ、持っていかないでいい。その代わり、その分だけの減税はない」と述べた。家計のやりくりに苦心する国民の実情を、全く理解していないのではないか。
給付を受けたくても、パソコンやスマートフォンを使いこなせない高齢者などもいる。余計な手間のかからない軽減税率の方が、全ての国民にとって公平かつ優しい制度である。
◆欧州の先例を見習おう
財務省は、軽減税率の導入を避ける理由として、対象品目の線引きの難しさや、複数税率化によって、取引ごとに税額を記入するインボイス(税額票)作成にかかる事務負担の重さを挙げる。
確かに対象品目の選定は手間がかかるが、税制を巡る利害を調整し、実現を図ることこそが、政治本来の責務である。
欧州各国では、半世紀も前から軽減税率を導入している。
食料品をはじめ、活字文化の保護に欠かせない新聞や書籍が対象だ。インボイスも、商取引の障害とはなっていない。
今の日本で、実施できないわけがあるまい。
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