消費税10%対策 国民への配慮を欠く財務省案

朝日新聞 2015年09月11日

消費税の還付 案の利点生かす論議を

2017年春に予定する10%への消費増税をにらみ、自民、公明両党の協議会が「日本型軽減税率」の検討を始めた。与党が財務省にたたき台を作るよう求めた経緯があり、それを基に具体的な制度を考えていく。

お店での飲食料品の購入や外食の際、これから国民に配られるマイナンバーカードを代金支払い時にかざし、金額に応じたポイントをためる。そのポイントに基づいて支払った消費税の一部を還付し、税率引き上げに伴う負担増を和らげる。財務省案はそんな内容だ。

与党、とりわけ公明党が主張してきたのは、飲食料品などの消費税率を今の8%にとどめる形での軽減税率だ。しかし、それでは負担減の必要性が乏しい高所得者も恩恵を受け、その分社会保障に充てる財源が目減りしてしまう。どんな商品やサービスに軽減税率を適用するかの線引きも難しい。

財務省案では、還付の対象を酒類以外の飲食料品に限った。一人あたりの還付額に上限を設けながら、還付の対象者から所得の多い人をはずす選択肢にも触れており、軽減税率の問題点を意識した内容と言える。

が、これはあくまで論議の出発点だ。問われるのは、与党の見識と姿勢である。

今後、還付の対象分野を飲食料品以外に広げるのかどうか。還付の対象者や水準について、必要な人に必要な支援をする仕組みにできるのか。

この機に改めて社会保障と税の一体改革の目的と議論の過程を思い出してほしい。

社会保障費の増加などで財政難が深刻さを増すなか、消費税を増税し、国債発行という将来世代へのつけ回しを抑えつつ社会保障制度も支えていく。これが一体改革だ。ただ、消費税には低所得者ほど負担が重くなる逆進性があるため、その対策も講じる必要がある。

それが与党協議の出発点だった。低所得者対策と言いながらその目的を離れて過度に膨らみ、社会保障財源に響くようでは本末転倒である。

財務省案にも、課題はある。

買い物や飲食をするたびに、支払金額に関する情報を行政に送ることについては、個別の品目と価格など内訳に触れないとはいえ、プライバシーの観点から心配する消費者もいるだろう。小売店などに新たに端末を置いてシステムを築く手間とコスト、情報管理のあり方など、実務や運用上の懸念もある。

国民が納得できる制度に仕上げられるかどうか、与党の協議を注視したい。

読売新聞 2015年09月11日

消費税10%対策 国民への配慮を欠く財務省案

◆自公両党は軽減税率の導入貫け

消費増税に伴う痛税感を和らげる効果に乏しい上に、国民に無用の負担を強いる。欠陥だらけの制度を、採用するわけにはいかない。

財務省が、消費税率を10%に引き上げる際の負担緩和策の原案を、与党税制協議会に示した。全品目に10%の税率を課したうえで、酒類を除く飲食料品については、税率2%相当額を後日、国民に給付する仕組みである。

これでは、購入時の支払額は減らず、消費の落ち込みを防ぐ役割は果たせまい。与党は財務省案を退け、食料品など生活必需品の税率を低く抑える本来の軽減税率を導入するべきだ。

◆みっともないバラマキ

財務省は負担緩和策を「日本型軽減税率」と称している。

これに対し、協議会のメンバーから、「軽減税率もどきではないか」などと、疑問の声が相次いだ。全品目に同じ税率を適用し、後からお金を配るのでは、給付金制度にほかならないからだ。

財務相経験者で、税制に詳しい伊吹文明・元衆院議長も自民党二階派の会合で、「財務省にしては、みっともない案だ。福祉給付金のようなバラマキになる」と、厳しく批判した。

自民、公明両党は2014年12月の衆院選共通公約で、消費税10%時に軽減税率を導入することを明記した。財務省案を採用し、軽減税率だと強弁すれば、国民を欺くことになる。

財務省案では、所得制限は設けず、高所得者も含めて広く薄く給付金を支給する。一方で、給付額には1人当たり年5000円程度の上限を設ける方向だ。

政府は14年4月に消費税率を8%に上げた際、低所得者に1万~1万5000円を支給する「簡素な給付措置」を実施したが、景気下支え効果はなかった。今回はさらにインパクトが弱い。

所得が低い人の負担感を緩和する効果も期待薄である。

◆低所得者への恩恵薄く

協議会では、飲食料品の消費税額を把握するためにマイナンバー(共通番号)カードを活用することについても、実現性を危ぶむ声が多数上がった。

買い物の時、店頭の読み取り機にカードをかざすと、新設の「還付ポイント蓄積センター」にデータが集約される。消費者は、税務署などに出向くか、インターネットなどで給付金を請求する。

消費税10%が予定される17年4月までに、全国に約80万もあると見られる小売りや外食の事業者すべてに、読み取り機を設置できるだろうか。マイナンバーカード自体の配布も間に合うまい。

1台数万円とされる設置費や、全国にシステムを張り巡らせるコストもかかる。センターの維持・管理費や給付金の振込手数料、担当職員の人件費なども新たな財政負担となる。

協議会では、新国立競技場の建設費増大の原因となった工法になぞらえて、「第2のキールアーチになってはいけない」と危惧する意見も自民党から出た。

このほか、「全国民が買い物のたびにマイナンバーカードを持ち歩くことは、現実味があるのか」と、消費者が制度を利用するために強いられる煩雑さの指摘もあった。

カードの紛失や盗難で、個人情報の流出や悪用による被害が出ることを懸念する向きは多い。

麻生財務相は記者会見で、「カードを持っていきたくなければ、持っていかないでいい。その代わり、その分だけの減税はない」と述べた。家計のやりくりに苦心する国民の実情を、全く理解していないのではないか。

給付を受けたくても、パソコンやスマートフォンを使いこなせない高齢者などもいる。余計な手間のかからない軽減税率の方が、全ての国民にとって公平かつ優しい制度である。

◆欧州の先例を見習おう

財務省は、軽減税率の導入を避ける理由として、対象品目の線引きの難しさや、複数税率化によって、取引ごとに税額を記入するインボイス(税額票)作成にかかる事務負担の重さを挙げる。

確かに対象品目の選定は手間がかかるが、税制を巡る利害を調整し、実現を図ることこそが、政治本来の責務である。

欧州各国では、半世紀も前から軽減税率を導入している。

食料品をはじめ、活字文化の保護に欠かせない新聞や書籍が対象だ。インボイスも、商取引の障害とはなっていない。

今の日本で、実施できないわけがあるまい。

産経新聞 2015年09月12日

消費税の「還付」 負担も手間も強いるのか

痛税感の緩和につながらず、何よりも仕組みが煩雑で国民に手間を押しつけるばかりである。

平成29年4月に消費税率を10%に引き上げる際の負担軽減策として、酒を除く飲食料品を対象に増税分の一部を還付するとした財務省案は、あまりに問題が多く、導入は現実的でない。

とりわけ、税と社会保障の共通番号(マイナンバー)カードを買い物時に持ち歩き、パソコンなどで自ら還付を受ける手続きをしなければならないことが問題だ。納税者は増税負担だけでなく事務手続きまで強いられる。

食料品など生活必需品の税率を低く抑える軽減税率の導入こそが本筋である。それが増税の負担軽減に最も有効だ。

財務省から還付案の提示を受けた自民、公明両党の税制協議会は、この案をたたき台に議論を進め、年末までに具体的な制度設計をまとめる予定という。

重大な懸念は、還付方式では消費への影響を抑える効果が見込めないことだ。購入時には10%分の消費税を支払う必要がある。軽減税率が設けられないことで消費意欲が大きく減退しかねない。

マイナンバーカード利用もどれだけ真剣に考えたのか疑問だ。

買い物時に店頭の読み取り端末にカードをかざし、購入データを記録する。後日、増税分の還付を受ける作業が必要だが、高齢者を含めた国民に複雑な手続きを求めるのは現実味に欠ける。そもそも増税までの限られた時間でカードを普及させ、すべての食料品店などに端末を設置できるのか。

税や社会保障などの個人情報が記録されるカードを日常的に持ち歩くことにも不安が残る。

麻生太郎財務相は「カードを持っていきたくなければ、持たなくてもいい。その分だけ減税はない」と述べた。還付の申請が少ないに越したことはないという発想が露骨だ。

軽減税率に慎重な政府・自民党は、複数の税率が混在すれば、取引ごとに税額を記すインボイス(税額票)が必要となり、事業者の負担が重くなるとしてきた。

だが、還付方式では国民全体の手間が増える。それなら欧州などと同様にインボイスを採用し、軽減税率を導入した方が国民負担も抑制できる。与党が急ぐべきは、還付方式ではなく、軽減税率の具体策である。

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