楢葉町避難解除 住民帰還のモデルにしたい

読売新聞 2015年09月06日

楢葉町避難解除 住民帰還のモデルにしたい

福島第一原子力発電所の周辺地域の再生に向けた一つの節目である。

原発事故により、町の大半が避難指示解除準備区域に指定されていた福島県楢葉町の避難指示が解除された。自治体ぐるみで避難した区域では、初の解除だ。

第一原発周辺では、なお9市町村で避難指示が続いている。楢葉町のケースが本格的帰還のモデルとなるよう期待したい。

楢葉町内では生活圏の除染が完了し、電気や水道などのインフラも復旧した。それでも、帰還に備えた長期宿泊の登録者は、解除直前で約780人にとどまった。町の人口の1割強に過ぎない。

多くの住民が戻ろうとしないのは、不自由なく暮らせる環境が整っていないためだ。買い物ができるのは仮設スーパーとコンビニだけで、小中学校も当面は再開しない。帰還を軌道に乗せるには生活環境の整備を急ぐ必要がある。

雇用創出も不可欠である。

昨年秋に行われた町民の意向調査では、高齢者には帰還の希望が強いが、40歳代以下では「戻らない」「今は判断できない」が7割以上を占めた。働き口がなければ、震災前からの高齢化や人口減に拍車がかかるのは避けられまい。

政府は、補助金を出して企業の進出を促すといった支援策を講じてきた。避難中の商工業者の相談に乗る政府や県の職員らによる合同チームも発足したが、帰還の進捗しんちょく状況次第では、対策の再検討を迫られるだろう。

原発関係の仕事に就く人が多かったこの地域で、雇用創出のカギを握るのが第一原発の廃炉だ。関連する事業所や研究施設の集積を図り、若者を呼び戻したい。

政府は、放射線量が極めて高い帰還困難区域を除く全域で、2017年3月までに避難指示を解除する方針を掲げる。8月末には南相馬など3市町村で長期宿泊が始まっている。

一方で、第一原発が立地する双葉町や大熊町には帰還困難区域が広がる。古里の近くに戻りたいと願いながら、帰還時期を見通せない住民の受け皿となることも、楢葉町などには求められよう。

復興庁が設けた有識者検討会は7月、第一原発周辺自治体の将来像に関する提言を公表した。行政機関や商業施設を各自治体の復興拠点に集めるコンパクトな街づくりや、市町村の枠を超えた公共サービスの提供などが柱だ。

各自治体が別々に取り組むのではなく、連携して地域の再生を図る視点が大切だろう。

産経新聞 2015年09月10日

楢葉町の避難解除 柔軟で息の長い支援策を

地域再生に向けた着実な歩みにつなげたい。

東京電力福島第1原発事故に伴う、福島県楢葉町の避難指示がようやく解除された。

原発事故から4年半になる。約7400人の楢葉町民は、30都道府県でそれぞれ避難生活を送ってきた。

帰還できる日を待ちわびた人も、避難先での定住を決断した人もいる。解除に対する思いはさまざまでも、故郷が「帰れる場所」になった意義は大きい。

解除は、田村市の都路地区、川内村の東部に続いて3例目で、全域避難の自治体では楢葉町が初めてである。

すぐに町に帰ってきた人数は町も把握していないが、帰還にむけた「準備宿泊」の登録者は人口の1割強の780人にとどまり、その多くは高齢者だった。

病院はまだない。買い物も不便だ。学校も働く場所も、再建はこれからだ。

少子高齢化と過疎の極限状態からの復興は容易ではない。国と自治体、そして国民が心を一つにして、再生への長い道のりを支え続けていく必要がある。

政府は当初、お盆前の解除を提示したが、住民の反発で9月に延期された。除染作業が終わり、道路、電気、水道などのインフラは一応整ったものの、「そんなに簡単に帰れるか」という思いを町民の多くが抱いている。

復興を加速させるためには、大胆な施策を打ち出すべき局面もあるだろう。一方で、性急に結果を求めると施策が空回りし、かえって住民の心が離れてしまう恐れもある。

国と自治体には、住民の声を聞き、復興状況に合わせた柔軟で息の長い支援を求めたい。

放射線への不安と風評は、帰還や定住を妨げる大きな要因だ。福島の被災者だけの問題とせず、全ての国民が、風評の根絶に取り組むことが大事だ。

楢葉町を拠点とする福島の復興と再生は、少子高齢化が進む多くの地域が直面していく課題を、逆向きに一つ一つ解消していく道のりでもある。

「福島の復興なくして、日本の再生はない」。安倍晋三首相は、こう繰り返してきたが、かけ声倒れになりかけてはいないか。

福島が、日本の再生の道しるべとなることを、今一度、胸に刻まなければならない。

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