地域再生に向けた着実な歩みにつなげたい。
東京電力福島第1原発事故に伴う、福島県楢葉町の避難指示がようやく解除された。
原発事故から4年半になる。約7400人の楢葉町民は、30都道府県でそれぞれ避難生活を送ってきた。
帰還できる日を待ちわびた人も、避難先での定住を決断した人もいる。解除に対する思いはさまざまでも、故郷が「帰れる場所」になった意義は大きい。
解除は、田村市の都路地区、川内村の東部に続いて3例目で、全域避難の自治体では楢葉町が初めてである。
すぐに町に帰ってきた人数は町も把握していないが、帰還にむけた「準備宿泊」の登録者は人口の1割強の780人にとどまり、その多くは高齢者だった。
病院はまだない。買い物も不便だ。学校も働く場所も、再建はこれからだ。
少子高齢化と過疎の極限状態からの復興は容易ではない。国と自治体、そして国民が心を一つにして、再生への長い道のりを支え続けていく必要がある。
政府は当初、お盆前の解除を提示したが、住民の反発で9月に延期された。除染作業が終わり、道路、電気、水道などのインフラは一応整ったものの、「そんなに簡単に帰れるか」という思いを町民の多くが抱いている。
復興を加速させるためには、大胆な施策を打ち出すべき局面もあるだろう。一方で、性急に結果を求めると施策が空回りし、かえって住民の心が離れてしまう恐れもある。
国と自治体には、住民の声を聞き、復興状況に合わせた柔軟で息の長い支援を求めたい。
放射線への不安と風評は、帰還や定住を妨げる大きな要因だ。福島の被災者だけの問題とせず、全ての国民が、風評の根絶に取り組むことが大事だ。
楢葉町を拠点とする福島の復興と再生は、少子高齢化が進む多くの地域が直面していく課題を、逆向きに一つ一つ解消していく道のりでもある。
「福島の復興なくして、日本の再生はない」。安倍晋三首相は、こう繰り返してきたが、かけ声倒れになりかけてはいないか。
福島が、日本の再生の道しるべとなることを、今一度、胸に刻まなければならない。
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