在外被爆者 違法状態に終止符を

朝日新聞 2015年09月09日

在外被爆者 違法状態に終止符を

海外で暮らす被爆者に対し、国が被爆者援護法に基づく医療費を支給しないのは違法だ。

最高裁がきのう、そんな判決を言い渡した。

この問題をめぐっては3件の訴訟があり、下級審の判断は割れていた。最高裁が違法と断じた意義は重い。国はただちに法に従って医療費を支給し、ほかの2件の訴訟についても解決を図るべきだ。

援護法は、被爆者健康手帳を持つ人が病気で保険診療を受けた場合、自己負担分の医療費を国が全額支給すると定める。

ところが厚生労働省は、世界に約4300人いる在外被爆者にこの規定を適用していない。

援護法は日本の医療制度を前提にしているため、医療や公的保険の制度が異なる海外での診療は、治療内容や金額が適切か判断できない、というのが国側の主な言い分だった。

その代わりとして、国は在外被爆者に法の枠外で医療費を助成してきたが、原則として年30万円までという制限がある。

最高裁は判決の中で、被爆者援護法に在外被爆者への支給を拒む明文の規定がない以上、区別するのはおかしい、とした。法の下の平等に照らし、当然の判断だ。

広島、長崎の被爆者は国が起こした戦争の結果、原爆の放射線を浴びた。生涯、後遺症に苦しむ被爆者を救済する責任が国にあるという国家補償的な考え方が、被爆者援護法の根底にある。

旧原爆医療法ができ、国費による被爆者の治療が始まったのは57年だった。その後、94年に同法と旧原爆特別措置法を一本化した被爆者援護法が成立した。条文上、居住国で救済内容に差をつけたことはない。

それなのに国は、通達や法解釈で在外被爆者の救済範囲を狭めてきた。03年にようやく国内の被爆者と同じように健康管理手当の受給を認めるなど、司法に非を指摘されるたびに少しずつ見直す、という対応を繰り返してきたのが実態だ。

在外被爆者の高齢化は進んでいる。今回の判決を最後に、国はその場しのぎの歴史に終止符を打つべきだ。

厚労省によると、昨年度は2960人の在外被爆者が計5億6千万円の医療費助成を受けた。本来なら援護法に基づいて支払われるべきお金だ。日本と制度が違い、給付のための実務的な難しさはあろう。しかし海外の医療機関に照会するなど、個別に対応する方法はある。

「被爆者はどこにいても被爆者」が援護法の基本精神だ。

読売新聞 2015年09月10日

在外被爆者判決 援護法の趣旨重視した最高裁

被爆者の健康被害を救済する被爆者援護法の趣旨に合致した妥当な司法判断と言えよう。

韓国在住の被爆者ら3人が援護法に基づく医療費支給を求めた訴訟で、最高裁が「在外被爆者が日本国外で治療を受けた場合にも支給すべきだ」とする初判断を示した。

判決を受け、厚生労働省は、在外被爆者を支給対象から除外してきた政策を転換する方針だ。

33か国・地域に居住する在外被爆者は、約4200人に上り、高齢化が進む。厚労省は速やかに救済策を具体化する必要がある。

援護法は前文で、「国の責任において、総合的な援護策を講じる」と明記し、被爆者に健康管理手当や、医療費の自己負担分などを支給するよう定めている。

肝機能障害などの疾病を対象にした健康管理手当について、大阪高裁は2002年、「被爆者はどこにいても被爆者だ」と判断し、在外被爆者への支給を命じた。

国は上告を断念し、厚労省は翌03年から、在外被爆者にも健康管理手当を支給してきた。司法判断に促される形で、救済策を拡充した典型例である。

一方で、医療費は、「不正受給の懸念がある」などとして支給してこなかった。医療制度は国によって異なる上、他国の医療機関には調査権限が及ばず、在外被爆者の申請が適正かどうかチェックできないとの理由からだ。

援護法に、在外被爆者を除外する規定は存在しない。最高裁が今回、医療費を支給してこなかった厚労省の政策について、「原爆による特別な健康被害を救済する援護法の目的に反する」と批判したのは、もっともである。

厚労省は04年度以降、援護法の枠外の助成事業で、在外被爆者に年間30万円を上限に医療費を支給してきたが、治療費が高額な人には自己負担が生じていた。

同じ被爆者でありながら、不公平な待遇を受けてきた在外被爆者の不満は理解できる。在外被爆者も、援護法の枠組みの中で救済するのが自然な形だろう。

医療費の支給対象を拡大する際、重要なのは、在外被爆者が利用しやすい制度にすることだ。

現行の助成事業では、在外被爆者が住む国の事情に応じて、医療費の代わりに民間医療保険の保険料を支給したり、日本では対象にならない漢方薬にも支給したりする特例を認めてきた。

厚労省には、医療費の申請に対する適正な審査とともに、柔軟な対応が求められる。

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