安倍総裁再選 経済再生に最優先で取り組め

朝日新聞 2015年09月09日

安倍総裁再選 民意とのねじれを正せ

自民党総裁選は、安倍首相の無投票再選で終わった。立候補をめざした野田聖子氏は、必要な20人の推薦人を集めることができなかった。

野田氏は党総務会長だった昨年春、集団的自衛権の行使を認める閣議決定を前に、政府の憲法解釈変更で進めようとする首相のやり方に「違和感」を訴え、党内議論の場をつくったことがある。

きのうの出馬断念の記者会見でも「自民党には多様な意見があるんだと言ってもらえる舞台を作りたかった」と述べた。

情けないのは、400人を超す国会議員がいるのに、こうした政策論争の場づくりを後押しする議員がたったの20人も集まらなかったことである。

野田氏の推薦人集めに対し、安全保障関連法案の審議への影響を避けたい首相周辺や派閥からの締めつけがあった。

右から左まで多様な民意をくみ取り、党内の議論に反映させる。今の自民党はそんな姿勢を失いつつある。かつての派閥全盛時代を懐かしむわけではないが、論争を封じ込め、それでよしとする政権党のあり方には大きな危惧を抱かざるを得ない。

対立候補を封じた安倍氏の政権基盤は盤石にも見えるが、必ずしもそうではない。

政権復帰時から上向いた経済とそれに裏打ちされた内閣支持率の高さが安倍政権を支えてきた。だが、世界経済の先行きにかげりが見え、歩調を合わせるように支持率が不支持率を下回るようになった。

なによりも、大きな政策で民意の支持が得られていない。

8月下旬の朝日新聞社の世論調査では、戦後70年の首相談話は「評価する」の40%が「評価しない」の31%を上回ったが、安保法案を今国会で成立させる「必要はない」が65%。川内原発の再稼働も49%が「よくなかった」と答えた。

とりわけ安保法案には、国会審議が進むほど民意の反対のうねりが起きている。これを数の力で抑え付ければ、政権と民意の溝は広がるばかりだ。

安倍氏はきのう、引き続き経済成長に力を尽くす決意を語った。そのことに異論はないが、経済の好調を推進力に、民意が割れる政策を強引に進める手法は限界に近づいている。

総裁選が無投票で終わったことで、安倍政権は来週にも安保法案を成立させる構えだ。

その前に、まずは民意とのねじれを正すことに、首相は心を砕くべきだ。どんなに党内を固めても、民意を顧みない政治はやがて行き詰まる。

読売新聞 2015年09月09日

安倍総裁再選 経済再生に最優先で取り組め

安倍政権の重要課題である安全保障関連法案の成立を優先し、自民党が一致結束する姿を内外に示したと言えよう。

自民党総裁選で、安倍首相が無投票で再選された。

首相は、「党内が一丸となるべきだという考えが大勢となった。結果を出すことで責任を果たしたい」と強調した。10月上旬に内閣改造と党役員人事を断行し、新たな体制を発足させる意向だ。

首相は国政選に3連勝し、自民党が突出した「1強多弱」体制を築いた。内政・外交で実績も上げた。党内の全7派閥が支持を表明したのは、常識的な判断だ。

野田聖子前総務会長は、推薦人20人を集められず、出馬を断念した。明確な対立軸を立てず、「開かれた議論の中で我々の多様性を訴える」との主張だけで同調者を広げることには限界があった。

首相が3年の任期を全うできれば、安倍政権は2018年9月まで継続する。長期政権が視野に入ってきたのは事実である。

しかし、今の政権基盤が盤石だと見るのは早計だろう。

安保法案審議が進むにつれて、内閣支持率は徐々に低下し、一時は不支持率を下回った。来夏に参院選を控える中、党の結束を重視し、総裁選を無投票で乗り切ろうとする力学が働いたのは、政権の危機感の裏返しでもある。

首相はまず、長期のデフレからの脱却を完全なものにし、経済を再生することを最優先するべきだ。国民の支持を広げつつ、財政再建、人口減対策、憲法改正など、困難な中長期的課題に挑み、成果を上げることも求められる。

経済政策「アベノミクス」の現状について、首相は「道半ばだ。全国津々浦々に景気回復の好循環を届けたい」と語った。

確かに、アベノミクスの効力も息切れ気味のように見える。

中国経済の変調や世界的な株安という外的要因に加え、第3の矢である成長戦略が十分な成果を出していない。社会保障制度改革の先送りに伴う国民の将来不安も、消費拡大を鈍らせている。

日本経済を安定した回復軌道に乗せるには、農業、労働、医療分野などで民間活力を引き出す規制緩和を推進し、成長戦略を強化することが欠かせない。

環太平洋経済連携協定(TPP)交渉を再開し、新薬データ保護など、残された課題を詰めて、早期妥結を目指すことも大切だ。

8月中旬の川内原発1号機に続き、安全性が確認された原発は順次、再稼働させ、安価で安定した電源を確保する必要がある。

東京一極集中を是正し、地方を活性化させる地方創生は、経済再生の重要な柱だ。官民で知恵を大いに絞らねばなるまい。

17年4月に予定される10%への消費税率引き上げに伴う国民の痛税感を和らげるには、食料品などの軽減税率の導入が不可欠だ。

20年度までに基礎的財政収支を黒字化する財政健全化目標の実現にも、着実に取り組みたい。税収増を安易に当てにせず、歳出の効率化を図ることが肝要である。

外交・安全保障分野では、参院審議が大詰めを迎えている安保法案を確実に成立させねばならない。法案の意義を訴え、国民の理解を広げる努力を粘り強く続けることも重要だ。

自衛隊と米軍などとの共同訓練や防衛協力の拡充が、切れ目のない事態対処を可能にする。

今秋は、外交日程が目白押しだ。今月下旬に国連総会、10月末にも日中韓首脳会談、11月には主要20か国・地域(G20)、アジア太平洋経済協力会議(APEC)の首脳会議などが予定される。

首相が4月の公式訪米を通じ、日米同盟を大幅に強化したことは評価できる。中韓両国との関係も改善し、外交の幅を広げたい。

8月の戦後70年談話が歴代内閣の歴史認識を踏襲したことで、中韓両国も批判を抑制している。関係修復の環境は整いつつある。

ロシアとの北方領土交渉や、北朝鮮の日本人拉致問題といった困難な課題にも、今後3年間の任期を生かし、戦略的に挑みたい。

憲法改正は、17年の通常国会前後に改正案を発議し、国民投票を行う日程が浮上している。まず改正テーマの絞り込みが大切だ。

より多くの党が賛成しやすいテーマとして、大規模災害時などの緊急事態条項や、環境権など新たな人権が想定される。与野党は今、安保法案を巡り対決姿勢を強めているが、そろそろ憲法論議も本格的に深める時ではないか。

産経新聞 2015年09月10日

安倍総裁再選 「拉致」を忘れていないか

自民党総裁再選に際して、安倍晋三首相の発言に拉致問題についての言及がないのは、どうしたことか。

総裁選は行われず、拉致問題の党内議論もなかった。安全保障関連法案をめぐる国会審議でも、「拉致」は重要課題とはならなかった。恐れるのは、この問題が風化することである。

安倍政権で拉致被害者を救出するのだという決意を強く発信し続け、国民の怒りを結集して問題の解決に結びつけてほしい。

岸田文雄外相は1日、拉致被害者らの再調査報告について「全ての拉致被害者の帰国を目指すという意味で期限を設けない」と述べた。北朝鮮による時間稼ぎを容認することにつながる、看過できない発言だが、これが安倍政権の基本姿勢なのか。党内から批判の声も聞かれない。

北朝鮮は「1年程度」とした調査期限の今年7月、報告の先送りを一方的に通告し、その後も約束の履行を果たそうとしない。

被害者家族らは報告に期限を設け、一部解除した制裁の復活や、新たな制裁を科すことを求めてきた。北朝鮮との交渉における原則は、「対話と圧力」と「行動対行動」だ。家族らの要求は原則にかなう当然のものだが、外相は顧みようとしない。

こうした政府のあいまいな姿勢が国民の関心を遠ざけ、例えばこんな事態を生じさせる。

TBSはこの夏、放送したドラマで、贈収賄事件で逮捕される政治家役にブルーリボンバッジをつけさせた。バッジは拉致被害者の救出を祈るシンボルである。

TBS側は「他意はなく、政治家っぽい雰囲気を出せると思った」と説明したのだという。あまりの無神経、お粗末さにあきれるが、拉致被害者の救出運動が国民的盛り上がりをみせていれば、起き得なかった演出だろう。

安倍首相はこれまで、繰り返し「拉致問題を解決しないと北朝鮮は未来を描くことが困難だと認識させる」と述べてきた。だが、報告をただ待つばかりの交渉では、北朝鮮は動かない。

昨年5月、北朝鮮が拉致被害者らの再調査を約束したストックホルム合意に、被害者家族らはいちるの望みをかけた。それだけに現状への怒り、失望は大きい。報告に期限を切り、北朝鮮に制裁強化を突き付けるべきだ。

産経新聞 2015年09月09日

安倍総裁再選 日本の立て直し加速せよ 脱デフレへ「継続」では足りぬ

無投票で自民党総裁に再選された安倍晋三首相は、「継続は力」としたうえで「結果を出すことで責任を果たす」と語った。

首相は内外の懸案解決を通じて日本を立て直す路線を推し進め、一定の成果を挙げてきた。

その方向性について党内に大きな対立点はなく、国民の根強い支持も維持している。首相の再選それ自体は当然のことといえる。

さらに3年の任期を見据え、経済再生など道半ばにある課題への取り組みを強めてほしい。

その際、首相が個々の政策課題への取り組みを単に「継続」するだけでは、必ずしも目的は達成しえない。

≪政策の見直しを迷うな≫

再生を加速するには、必要な政策の再調整、見直しに果断に着手することが肝要である。長期政権に臨む首相は、日本をどうするのか。国民に改めて語る機会を設け、理解を求めるべきだ。

引き続き経済再生は最重要課題となる。首相は昨年11月に消費税の再増税延期を表明した際、これに耐え得る強い経済の実現を約束した。その後の衆院選でも経済が大きく問われた。

しかし、足元の経済はマイナス成長だ。8日に発表された4~6月期の国内総生産(GDP)の改定値は、速報値の年率1・6%減からは上方修正されたものの、1・2%減である。

第2次政権発足後、円安の後押しもあって企業業績は好調で所得・雇用環境も改善した。だが、消費の伸び悩みは脱していない。

企業も家計も、成長を裏付ける底上げが十分とはいえない。そのために、中国経済の鈍化などの海外要因で景気が揺さぶられる構図がある。長期デフレの後遺症から抜けきれない現実を、どう打開するかが問われている。

アベノミクスの修正すべき点を見つけ、具体的な強化策を講じることが急務である。

なかでも成長戦略は、これまで羅列した政策を厳しく検証し、確実に効果が得られるよう規制緩和などを徹底すべきだ。

環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉の妥結は、成長戦略の根幹にあたる。合意が目前で見送られた状況を打破するため、首相が自ら動くことも必要だ。

成長の基盤である電力の安定供給を図る上で、安全性を確認した原発の再稼働を進めていくべきなのは言うまでもない。

人口減少に伴う変化に対応するため、社会保障改革や地方創生の推進も急がれる。

安全保障政策では、現在、国会で審議中の安全保障関連法案を早急に成立させることをはじめ、国や国民を守り抜くために必要な抑止力の強化に引き続きあたることが必要だ。

中国は東・南シナ海で「法の支配」を無視して海洋覇権を追求し、北朝鮮は核・ミサイル開発をやめていない。

≪憲法改正の行程を示せ≫

集団的自衛権の限定行使容認などを通じ、新たな日米防衛協力の指針(ガイドライン)の実効性を確保しなければならない。

外交面では、首相が希望してきたロシアのプーチン大統領の訪日が実現困難になっている。力による現状変更を認めない観点から欧米と協調すべきであり、仕切り直しが必要な状況だ。

中国や韓国が、過去の事実を歪曲(わいきょく)して日本を攻撃する「歴史戦」がなお続いている。開催が予定される日中韓3カ国首脳会談も、日本非難の場としてはなるまい。

首相が政治課題に掲げてきた憲法改正について、強い使命感をもって取り組んでほしい。来夏の参院選で改憲案発議に必要な3分の2の勢力確保をめざすなど、改正の行程を明らかにし、党側に行動を指示してもらいたい。

改正の是非は、最終的に国民投票で決める。国民的議論を深める多くの機会を首相や自民党は現実に設定し、なぜ改正が必要かを説いていくべきだ。

総裁選で本格的な政策論争を行う機会が失われたことは軽視できない。とくに、景気回復の足取りを確かなものにするため、どのような政策が効果的かについて、徹底論戦が期待された。

首相の無投票再選によって、自民党は今後の政策遂行を政府に白紙委任したわけではない。政権与党として、政策のチェック機能など重い責任を果たさなければならない。

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