安倍政権の重要課題である安全保障関連法案の成立を優先し、自民党が一致結束する姿を内外に示したと言えよう。
自民党総裁選で、安倍首相が無投票で再選された。
首相は、「党内が一丸となるべきだという考えが大勢となった。結果を出すことで責任を果たしたい」と強調した。10月上旬に内閣改造と党役員人事を断行し、新たな体制を発足させる意向だ。
首相は国政選に3連勝し、自民党が突出した「1強多弱」体制を築いた。内政・外交で実績も上げた。党内の全7派閥が支持を表明したのは、常識的な判断だ。
野田聖子前総務会長は、推薦人20人を集められず、出馬を断念した。明確な対立軸を立てず、「開かれた議論の中で我々の多様性を訴える」との主張だけで同調者を広げることには限界があった。
首相が3年の任期を全うできれば、安倍政権は2018年9月まで継続する。長期政権が視野に入ってきたのは事実である。
しかし、今の政権基盤が盤石だと見るのは早計だろう。
安保法案審議が進むにつれて、内閣支持率は徐々に低下し、一時は不支持率を下回った。来夏に参院選を控える中、党の結束を重視し、総裁選を無投票で乗り切ろうとする力学が働いたのは、政権の危機感の裏返しでもある。
首相はまず、長期のデフレからの脱却を完全なものにし、経済を再生することを最優先するべきだ。国民の支持を広げつつ、財政再建、人口減対策、憲法改正など、困難な中長期的課題に挑み、成果を上げることも求められる。
経済政策「アベノミクス」の現状について、首相は「道半ばだ。全国津々浦々に景気回復の好循環を届けたい」と語った。
確かに、アベノミクスの効力も息切れ気味のように見える。
中国経済の変調や世界的な株安という外的要因に加え、第3の矢である成長戦略が十分な成果を出していない。社会保障制度改革の先送りに伴う国民の将来不安も、消費拡大を鈍らせている。
日本経済を安定した回復軌道に乗せるには、農業、労働、医療分野などで民間活力を引き出す規制緩和を推進し、成長戦略を強化することが欠かせない。
環太平洋経済連携協定(TPP)交渉を再開し、新薬データ保護など、残された課題を詰めて、早期妥結を目指すことも大切だ。
8月中旬の川内原発1号機に続き、安全性が確認された原発は順次、再稼働させ、安価で安定した電源を確保する必要がある。
東京一極集中を是正し、地方を活性化させる地方創生は、経済再生の重要な柱だ。官民で知恵を大いに絞らねばなるまい。
17年4月に予定される10%への消費税率引き上げに伴う国民の痛税感を和らげるには、食料品などの軽減税率の導入が不可欠だ。
20年度までに基礎的財政収支を黒字化する財政健全化目標の実現にも、着実に取り組みたい。税収増を安易に当てにせず、歳出の効率化を図ることが肝要である。
外交・安全保障分野では、参院審議が大詰めを迎えている安保法案を確実に成立させねばならない。法案の意義を訴え、国民の理解を広げる努力を粘り強く続けることも重要だ。
自衛隊と米軍などとの共同訓練や防衛協力の拡充が、切れ目のない事態対処を可能にする。
今秋は、外交日程が目白押しだ。今月下旬に国連総会、10月末にも日中韓首脳会談、11月には主要20か国・地域(G20)、アジア太平洋経済協力会議(APEC)の首脳会議などが予定される。
首相が4月の公式訪米を通じ、日米同盟を大幅に強化したことは評価できる。中韓両国との関係も改善し、外交の幅を広げたい。
8月の戦後70年談話が歴代内閣の歴史認識を踏襲したことで、中韓両国も批判を抑制している。関係修復の環境は整いつつある。
ロシアとの北方領土交渉や、北朝鮮の日本人拉致問題といった困難な課題にも、今後3年間の任期を生かし、戦略的に挑みたい。
憲法改正は、17年の通常国会前後に改正案を発議し、国民投票を行う日程が浮上している。まず改正テーマの絞り込みが大切だ。
より多くの党が賛成しやすいテーマとして、大規模災害時などの緊急事態条項や、環境権など新たな人権が想定される。与野党は今、安保法案を巡り対決姿勢を強めているが、そろそろ憲法論議も本格的に深める時ではないか。
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