辺野古集中協議 政府と県の溝をどう埋めるか

朝日新聞 2015年09月08日

辺野古協議 工事再開に反対する

政府と沖縄県が1カ月にわたって続けてきた米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設をめぐる集中協議は、物別れに終わった。

これを受け、政府は近く、中断していたボーリング調査を再開する方針だ。

しかし、政府が一方的に工事を再開すれば、政府と県の間にようやく開いた「対話の窓」が再び閉ざされ、政府と県の亀裂はいっそう深まりかねない。

政府に求める。

工事再開は断念し、より幅広い観点から改めて県と協議を続けるべきだ。

日米両政府による普天間返還合意から19年。条件付きとはいえ名護市が受け入れを容認したり、辺野古沖の海上案とした閣議決定が取り消されたり、複雑な経過をたどってきた問題だ。

わずか5回の協議で解決案が見つかるほど単純な話ではないことは、そもそも双方とも分かっていたはずだ。

それなのに、目立ったのは、政府のあまりにかたくなな姿勢である。最初から「普天間か辺野古か」の二者択一の議論から踏み出そうとはしなかった。

県は辺野古移設に反対の立場から具体的な疑問をぶつけた。なぜ狭い沖縄に米軍基地が集中するのか、在沖海兵隊の「抑止力」は本当に必要なのか、長く米軍統治下に置かれた沖縄の歴史をどう見るか――。

こうした問いに答えを出すためには、政府と県だけの議論では足りないことは明らかだ。

中国と安定的な関係を築くために、どんな外交戦略が必要なのか。そのなかに米軍や自衛隊をどう位置づけるか、米国をも巻き込んだ議論が欠かせない。

本土の米軍基地も含めたすべてを見渡したうえで、沖縄の基地負担を分かち合えないか、全国的な議論も必要だ。

話し合うべきことは、まだたくさんあるのだ。

そこに踏み込もうとせず、政府がこのまま工事を再開するなら、沖縄の声を聞く姿勢をアピールすることで、安保法案審議による内閣支持率の低下を食い止めようという意図があった、と指摘されても仕方ない。

政府が工事を再開すれば、翁長雄志知事は対抗して埋め立て承認の取り消しに向けた作業を始めるとみられる。

双方が対抗策を繰り出す対立の果てに、司法の場でぶつかり合う。そんな不毛な道しか見いだせず、地元の反感のなかで辺野古に新基地が造られたとしても、日米安全保障の基盤は強まることはない。かえって弱まることになる。

読売新聞 2015年09月08日

辺野古集中協議 政府と県の溝をどう埋めるか

沖縄との率直な対話を今後も重ねつつ、移設作業を遅滞なく進めることが肝要である。

米軍普天間飛行場の辺野古移設を巡り、政府と沖縄県は集中協議の最終会合を開いた。初めて出席した安倍首相は、「一刻も早く危険性除去を進める必要がある」と述べ、移設への理解を改めて求めた。

翁長雄志知事は、辺野古移設について「全力を挙げ、あらゆる手段で阻止する」と強調した。

9日には、1か月間の集中協議期間が終了する。政府と県の意見の隔たりは埋まらなかった。ただ、菅官房長官と翁長氏、安慶田光男副知事の信頼関係はある程度、構築され、新たな枠組みで対話を続けることでも一致した。

県は移設先の海域で、サンゴ礁損傷の有無などに関する潜水調査を実施している。政府は月内にもボーリング調査を再開し、年内に移設工事を始める考えだ。

沖縄では今後、台風が調査に影響する恐れがある。着工が遅れれば、2022年度の移設完了目標もずれ込みかねない。現実的な唯一の移設先が辺野古である以上、速やかに調査を再開すべきだ。

政府は、辺野古移設の意義を丁寧に説明し、関係者の理解を得る努力を続ける必要がある。日米地位協定の環境補足協定の締結、県南部の米軍施設返還など、基地周辺住民の負担軽減策も着実に進めることが大切だ。

内閣府は16年度予算の概算要求で、沖縄振興費3429億円を計上した。「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン」の運営会社の沖縄進出を後押しする費用も盛り込んだ。政府の配慮がうかがえる。

翁長氏は、移設作業の再開後、前知事による埋め立て承認を取り消す構えを崩していない。だが、県内にも、翁長氏の硬直的な姿勢に対する批判は少なくない。

翁長氏が集中協議で、普天間問題の「原点」を、「普天間飛行場の危険性除去」でなく、「戦後の米軍による強制収用」と言い放ったことへの反発もその一つだ。

1996年の普天間返還の日米合意以来、多くの関係者が重ねてきた「危険性除去」の努力を無視するかのような発言だ。飛行場がある宜野湾市の佐喜真淳市長は、「違和感を持った」と語った。

石垣市の中山義隆市長は記者会見で、辺野古移設への賛意を示した。「沖縄には、私のような意見もたくさんある」とも訴えた。

複雑で困難な普天間問題を前に進めるため、翁長氏は、現実的な対応を模索する時ではないか。

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