強大な軍事力の誇示は中国の軍拡路線を象徴するもので、地域の安定を脅かす。習近平政権は戦後の国際秩序に挑戦する行動を自制すべきだ。
「抗日戦争勝利70年」の記念行事と軍事パレードが3日、北京の天安門広場周辺で行われた。習国家主席は「この偉大な勝利で、日本の軍国主義のたくらみを徹底的に粉砕した」などと演説した。
中国は、記念行事は「今日の日本を標的にしていない」と説明してきたが、対外的な「反日宣伝」活動の一環であるのは明白だ。
過去に過度に焦点を当て、和解や未来志向の要素を排することは日中関係の改善に逆行する。
安倍首相が行事への出席要請を断ったのは、妥当である。
中国は、日本が降伏文書に署名した1945年9月2日の翌3日に祝賀行事を開いた。習政権は昨年、法律でもこの日を「抗日戦勝記念日」と定めた。軍事パレードは建国60年の2009年10月以来で、抗日行事では初めてだ。
習氏は、「戦勝国」や「強軍」をアピールすることを通じて国民の愛国心を煽り、政権の求心力を維持したいのだろう。
パレードには、将兵約1万2000人が参加した。最新の早期警戒機や戦闘機など航空機約200機、巡航ミサイルや弾道ミサイルなど国産兵器も続々と登場した。過去最大規模とされる。
注目すべきは、米本土を射程に収める新型の大陸間弾道ミサイル(ICBM)を初公開したことだ。演説で、第2次大戦で米国が果たした役割を無視したのと合わせ、アジア秩序から米国を排除しようという意図もうかがえる。
習氏はまた、台湾与党・国民党の連戦・元主席との会談で、共産党と国民党が「ともに抗日勝利に重要な貢献をした」と述べ、国民党の役割を認めた。
日中戦争当時の中国は、主として国民党の統治下にあった。中華民族全体の勝利と位置付けることにより、共産党政権の正統性を強調するつもりなのだろう。この論理は歴史の歪曲ではないか。
行事とパレードには、ロシアのプーチン大統領や韓国の朴槿恵大統領ら20か国余の元首・首脳が出席した。日本のほか、欧米主要国首脳は参加を見送った。
パレード出席は、中国の軍備増強を容認したと解されかねない。会場が民主化運動を弾圧した天安門事件の現場である点も、不参加の背景にあろう。
国連安保理常任理事国の首脳ではプーチン氏しか参加せず、かえって中露の異質さが際立った。独裁体制を一段と強めている国が「反ファシズム戦争勝利」を標榜しても、共感は得られまい。
問題なのは、潘基文・国連事務総長が出席したことである。ロシアの「対ドイツ戦勝70年記念式典」にも参加した潘氏は「終戦70年を記念する様々な行事に出席している」などと正当化している。
これでは、東・南シナ海とウクライナで一方的な現状変更を図る中露の行動を容認するメッセージにならないか。菅官房長官が「国連は中立であるべきだ」と懸念を示したのは、当然だろう。
朴氏のパレード出席には、韓国の最大の貿易相手で、経済依存を強める中国を重視せざるを得ない事情があろう。
朴氏はパレードに先立って習氏と会談し、「前世紀、両国は困難な歴史を共にした」と語った。両国民が日本の侵略と闘ったという習氏の発言を肯定するものだ。
歴史問題を巡る韓国の中国傾斜が改めて印象づけられた。
朴氏は上海で、独立運動の拠点とされる「大韓民国臨時政府」庁舎の記念行事にも出席する。
韓国は日本と戦っていないという事実に目をつぶり、独立運動で植民地支配からの解放を勝ち取ったという独善的な歴史認識を強調したいのだろうか。
韓国は米国の同盟国でありながら出席した。同盟の原点は、中国が北朝鮮側に立った朝鮮戦争で米国が韓国と共闘したことだ。最近の南北の緊張緩和に力を貸した中国に揺さぶられ、安全保障分野でも迷走しているのではないか。
日米韓の連携にくさびを打とうとする動きに、日米は改めて警戒を強めねばならない。
習、朴の両氏は、10月末にも韓国で日中韓首脳会談を開くことで一致した。その際には、安倍首相と朴氏の初の会談も行われる可能性が大きい。日本は、戦略的かつ生産的な首脳外交を展開することが大切である。
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