2020年東京五輪はつつがなく開催できるのだろうか――。そんな不安を禁じ得ない。
大会組織委員会が、東京五輪・パラリンピックの大会エンブレムの使用をとりやめることを決めた。
アートディレクターの佐野研二郎氏のデザインによる大会エンブレムには、盗用疑惑が持ち上がっていた。使い続ければ、東京五輪の大きなイメージダウンにつながる恐れがあった。
白紙撤回は、お粗末だが、やむを得ない措置だろう。
騒動の発端は、7月下旬にエンブレムが発表されて間もなく、ベルギーの劇場のロゴマークに似ていると指摘されたことだ。マークのデザイナーは、国際オリンピック委員会(IOC)に使用差し止めを求める訴訟を起こした。
佐野氏は「オリジナルの作品だ」などと、盗用を全面否定した。組織委も8月28日、エンブレムのデザインが、原案から2度の修正を経たことを明らかにした上で、「原案は全く似ていなかった」と反論したばかりだった。
この間、佐野氏が手がけたビール会社のキャンペーン賞品のデザインが、他人の作品と酷似していることなどが判明した。
佐野氏がエンブレムの活用イメージとして提出した風景画像は、無断流用だった。エンブレムの原案にさえも、新たに盗用の疑義が生じた。これらが、白紙撤回の決定打となった。
一連の騒動により、佐野氏の信用は失墜している。佐野氏の作品であることが理由で、東京五輪のシンボルに不信の目が向けられるのは、不幸な事態だ。
佐野氏がエンブレムの取り下げを申し出たのは、当然である。組織委としても、事態収拾のためには、エンブレムを差し替えるしか選択肢はなかったと言えよう。
佐野氏の作品を選んだ組織委の責任は重い。デザインの権利に対する認識とチェックが甘かったと言わざるを得ない。選考過程についての徹底検証が必要だ。
大会のスポンサー企業は、テレビCMなどで既にエンブレムを使い始めている。撤回による混乱は避けられまい。
五輪ムードを盛り上げるために、エンブレムの役割は重要だ。組織委は、新たなデザインを迅速かつ慎重に選ばねばならない。
東京五輪を巡っては、新国立競技場の建設計画のやり直しに続く大きな失態である。政府や組織委は、気を引き締めて準備の遅れを挽回してもらいたい。
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