大学入試改革 思考力を判定できるテストに

朝日新聞 2015年08月31日

大学入試改革 本当に実現できるのか

大学入試センター試験にかわる新しい「大学入学希望者学力評価テスト」が、2020年度から始まる。

その制度設計を検討する文部科学省の有識者会議が、中間まとめ案を了承した。

スタートまで5年だが、具体像は見えてこない。

本当に実現できるのか。問題の中身や実施方法を、できるだけ早く詰めてほしい。

今回の改革は高校、大学教育、それをつなぐ大学入試を三位一体で変えるのを目指す。入試を変えない限り教育も変わらないとの声が強いためだ。

狙いは知識を覚え込むだけでなく、問いを自ら立て、多様な人々と対話しながら答えを探る力を育てることだ。

小中高の教育内容を決める学習指導要領も同時に改訂する。

まれにみる大改革である。

まとめ案は新テストについて最初の4年を試行期間とし、その間に試験内容や体制を詰めるという。後ろ倒しにも見えるが、着実に進めるために助走を設けるのはやむを得ない。

心配なのは、案が生煮えなことだ。肝心な出題のイメージを示せず、採点や成績提供の方法もまだ具体化できていない。

今回の改革は、一発勝負で知識の量を一点刻みで問う日本の入試への批判から出発した。

そこで掲げたのが、複数回の受験を可能にし、思考力を問う「合教科・科目型」「総合型」や記述式の問題を出し、成績を段階別に表示することだった。

ところが、売りだった「合教科・科目型」「総合型」について、まとめ案はふれていない。

難しいと判断したのなら、きちんと説明してほしい。既に教育産業は新タイプの問題を試作し、講座を設けるなど走り出している。

まとめ案は実施に際して、いくつもの課題を挙げた。

記述式問題は採点に大勢の人が必要で、時間がかかる。多様な力を測るのにコンピューターでのテストを導入すると、端末の整備にお金がかかる。試験中に故障すると、混乱を招く。

複数回の試験では、難易度を調整するのに全問題の予備調査が要る……。

いずれも前提条件の問題だ。一つひとつ実現可能な道を探らなければ、理念倒れに終わる。

そもそもすべてを新テストに背負わせるのは無理がある。記述問題は大学の個別試験に任せるなど切り分けが必要だろう。

今回の改革は日本の試験風土を大きく変えるものだ。高校や大学と議論し、生徒や保護者に説明を尽くして進めてほしい。

読売新聞 2015年08月28日

大学入試改革 思考力を判定できるテストに

大学入試制度は2020年度から抜本的に変わる予定だ。

不安を抱く子供たちや保護者、学校関係者も多いだろう。政府は丁寧な議論を重ね、社会全体の理解を得ていく努力が欠かせない。

文部科学省の有識者会議が、現行の大学入試センター試験に代えて導入する「大学入学希望者学力評価テスト」の制度設計に関する中間報告をまとめた。

昨年末の中央教育審議会答申を具体化したものだ。歴史であれば、年号などの暗記力を問うのではなく、年表や資料を示して、歴史的事象が起きた原因や背景を考えさせる問題を出すという。

日本の子供たちは、知識の活用に課題があると指摘されてきた。思考力のレベルを測る新テストの方向性は妥当である。

だが、実現性を考えた場合、不透明な点は少なくない。

中間報告は、新テストに記述式問題を盛り込むよう提言した。確かに記述式は、表現力を判定する手法としては適している。

ただ、現在のマークシート方式に比べ、採点に多くの人員が必要だ。新テストは年に複数回の実施が検討されており、迅速な採点も要求される。採点基準を明確化し、公正さを担保せねばならない。

24年度以降を目途めどに、コンピューター画面で出題・解答する方式の導入も提案された。大量の問題を蓄積できるほか、採点を補助する機能を使えば、試験の効率化が期待できるという。

大規模試験にコンピューター方式を使用した例はない。端末の整備には巨額の費用がかかる。試験中に機器が故障すれば、混乱は避けられない。導入の長所と短所を吟味してほしい。

中間報告は、各大学に対し、新テストの成績に加え、高校の調査書、論文や集団討論などの結果を総合的に考慮して、入学者を選抜するよう求めている。

各大学が筆記テスト中心の個別試験を、労力を要する選抜方式に転換できるかが問われよう。

今回の入試改革は、高校教育の見直しと連動して進められる。

高校の次期学習指導要領は、議論を通じて答えを探究するアクティブ・ラーニングを取り入れる。新テストはこの学習の成果を見極める内容にすることも重要だ。

学力の底上げを図るため、高校2、3年生を対象にした「高校基礎学力テスト」の導入も予定される。テストが増えることに伴う生徒の負担に留意しつつ、適切な実施方法を検討したい。

産経新聞 2015年09月03日

新しい大学入試 「ゆとり」二の舞い避けよ

見直しを余儀なくされた「ゆとり教育」のように、理念先行の改悪にならないか。

大学入試改革について文部科学省の有識者会議が「中間まとめ」を出したが、具体性に欠け、狙い通りにいくのか不安が拭えない。

高校、大学を通して、しっかり学び、知識と教養を高める教育につなげるよう考えてもらいたい。

改革では、大学入試センター試験に代わり年複数回受験可能な新たな共通テストを導入し、各大学の2次試験では高校時代の部活動、社会活動を評価するなど選抜方法に工夫を促す。

「一発勝負、1点刻み」の入試を見直すものだ。中央教育審議会答申を受け、有識者会議が詳しい実施方法などを検討している。

中間まとめでは、新共通テストについて、平成36(2024)年度以降に本格実施する日程が示された。しかし、肝心の出題内容や年何回行うのかなどは明確にされなかった。

出題のポイントについて「情報を整理・統合し推論する」といった例示はあるが、そうした観点の出題は小中学生の学力テストを含め、すでに入試で取り入れられてきたことではないのか。

記述式問題のほか、コンピューターを使って出題、解答する方式も提案されているが、本当に実現できるのか不明だ。

大学入試は、小中高校の教育への影響が大きい。とくに日本の子供たちの学力は受験に支えられてきた面があることは否めず、入試に出ない科目は勉強しないという弊害も解消されていない。

2次試験で筆記試験以外の能力を重視するというのは、選考する大学側の力が問われる。地道な勉学を嫌い、面接テクニックにたけた学生ばかり増えても困ろう。

思考力重視の名の下に知識軽視を招いた「ゆとり教育」の失敗について文科省は責任を明確にしていない。有識者会議を含め教育関係者は、確かな知識があってこそ、その先を考える創造力が生まれるという教育の本質を忘れずに的確なメッセージを発信してもらいたい。

学力以外の能力も重視する選抜は米国がモデルだが、米国では入学後、大量の予習が課されるなど厳しい授業が行われている。入学後の教育内容を高める改革にこそ力を注ぐべきだ。

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