新国立競技場 五輪へ失策はもう許されない

朝日新聞 2015年08月29日

新国立競技場 判断できる材料示せ

安倍首相が「計画を白紙に戻す」と宣言してから6週間、見直された新国立競技場の計画概要が28日に示された。

建設費の上限は1550億円、工期は東京五輪・パラリンピックが開かれる2020年の4月末とする。観客席の数は国際オリンピック委員会(IOC)の求めに応じて6万8千とし、屋根は観客席に限られた。一方、構想にあった冷暖房設備や、コンサートを想定した開閉式屋根の設置は見送られた。

新計画は、一時は最大約3462億円まで膨らんでいた旧計画の内容を見直すとともに、過去の五輪競技場の建設費と比べながら必要なコストを積み上げて算定していったという。

政府は、最終的に2651億円となった旧計画から約1100億円を圧縮したと強調。遠藤五輪担当相は「妥当な、皆さんにご理解いただける数字」と言う。

しかし、1550億円が妥当なのかは、判然としない。比較対象の2651億円が適正な額だったのか極めて怪しい。差額だけ強調されても評価は難しい。加えて、IOCが求める20年1月に完成を早めれば、費用は増える見通しだという。それでは、差額も縮んでしまう。

旧計画の問題点や責任の所在などについて、文科省の第三者委員会で検証が続けられている。検証を急いで具体的な反省材料を示し、それを新計画にどう生かしたのか示さない限り、判断のしようがなく、国民の信頼は得られまい。

本来は、検証結果を踏まえて計画を見直すのが筋だ。しかし、残された時間を考えれば、新計画を示して早く作業に着手する必要性は理解できる。

それでも、時間がないからといって、なし崩しで計画を進めてよいはずがない。計画や作業に関する情報を公開し、必要があれば修正を加える柔軟さが必要になる。

新計画では、サッカーのワールドカップを想定して大会後に観客席数を8万に増やす方針も示された。一方で、財源の確保や開催後の維持管理、その後の活用方法も依然、具体的には明かされていない。

旧計画の見直しを先送りしたツケも回って一層、難事業となってしまった。スポーツ関係者の意向を反映させるだけでは済まない。安全性を確保しながらコストも見なければならない。

旧計画と同じ失敗を繰り返さないためには、走りながら考えることが必要だ。カギは、国民の信頼を得ることにある。その点を肝に銘じてほしい。

読売新聞 2015年08月29日

新国立競技場 五輪へ失策はもう許されない

2020年東京五輪までの残された時間を考えれば、もう失策は許されない。

政府が一体となって、建設計画を遅滞なく進めてもらいたい。

政府が新国立競技場の新たな整備計画を決定した。総工費の上限は、1550億円に設定した。関連工事費を加えた旧計画の工費2651億円から、約1100億円削減した計算になる。

今回の上限額も、他国の五輪スタジアムと比べると、決して安価ではない。それでも、旧計画の甘いコスト意識を教訓に、無駄の排除に努めた姿勢はうかがえる。

仕切り直した整備計画は、新国立競技場を原則として競技専用にすることを打ち出した。これが、工費削減の最大のポイントだ。

旧計画では、五輪後のイベント収入を見越し、巨大アーチ構造による開閉式屋根の設置に固執した。今回、工費膨張の元凶をとりやめ、屋根を観客席上部に限ったのは、現実的な判断である。

観客席数は、旧計画から4000席減の6万8000席とした。五輪後に、陸上トラック部に席を増設すれば、8万席になる。

国際サッカー連盟がワールドカップ(W杯)決勝の会場の条件としている「常設8万席以上」に対応することが念頭にある。

W杯招致のメドすら立たない段階で、サッカー界に過度に配慮した印象は拭えない。

常設の陸上サブトラックの設置が見送られたのも、残念である。東京五輪は、仮設トラックで対応するというが、五輪後も競技専用として有効活用するには、やはり常設トラックは不可欠だろう。

陸上競技関係者が不満を抱くのも、無理はない。用地確保について、検討を続けるべきだ。

新たに持ち上がっているのが、完成時期の前倒し問題だ。政府は五輪開幕の3か月前の20年4月末に完成させる予定だが、国際オリンピック委員会(IOC)は20年1月までの完成を求めている。

確かに、リハーサルなどを実施する相応の準備期間は必要である。政府は、工期の可能な限りの短縮に努めてほしい。

その点で、建設業者の選定は、極めて重要になる。政府は、設計と施工を一括発注する方式を採用する。専門家の意見を聞きつつ、コスト削減と工期短縮を両立できる業者を選ばねばならない。

整備計画は、建設費の具体的な財源を示していない。東京都の財政負担や、スポーツ振興くじ(toto)の活用などについて、理解を得ることが大きな課題だ。

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