自民党総裁選 無投票再選も前向きな選択肢

朝日新聞 2015年08月29日

自民総裁選 挑戦者はいないのか

来月8日告示の自民党総裁選は、安倍首相の無投票での再選の可能性が高まっている。

各派閥はこぞって安倍氏の再選支持を決めた。無派閥の野田聖子氏が立候補を模索しているが、必要な20人の推薦人を確保するめどは立っていない。

谷垣幹事長は「必ずしも無理に争いをつくる必要はないのではないか」と語り、無投票で問題ないとの考えだ。

だが、こうした考え方には、納得がいかない。

安倍氏は2012年の総裁選で石破茂氏らを破り総裁に返り咲くと、3カ月後の衆院選で政権に復帰。13年の参院選と14年の衆院選にも連勝した。

懸案だった経済では株価を上げ、いま首相たる総裁を交代させる理由はないということなのだろう。延長国会で安保法案が審議中という事情もある。

それでも3年に一度の総裁選は、党員だけでなく一般の有権者にとっても大きな意義がある。首相の向こう3年のビジョンは何か、政策の優先順位はどうか、それに代わりうる選択肢はあるのか。これらを問う貴重な機会である。

金融緩和による景気浮揚にかげりが見えてきた経済政策、エネルギー政策における原発の位置づけ、近隣外交の立て直し、そして安全保障――。論じるべき点はたくさんある。

こうした政策論争の場を自らつぶしてしまうのは、政権党として責任放棄だ。

各派が早々に再選支持を決めた背景には、安倍氏に挑むよりも、その後の内閣改造や党役員人事でよりよいポストを得たいという思惑もうかがえる。政権党として、あまりに内向きな姿勢ではないか。

衆院での小選挙区制と政党交付金の導入で、公認権と資金の配分を握る党執行部の力が強まった。派閥のボスが群雄割拠する時代は去ったが、OBからは「党全体が上ばかり見るヒラメ化した」(山崎拓元幹事長)とのため息が出る。

派閥間のむき出しの権力闘争が影を潜めたのはよいとしても、まっとうな政策論争まで失われては本末転倒だ。

このところ自民党議員と言えば、報道を威圧する発言や新規公開株をめぐるトラブルなど、議員としての資質を疑わせるような情けない話ばかりが取りざたされる。

400人を超える議員を擁する大政党だ。それなのに、20人の推薦人をかき集め、安倍氏に堂々と政策論争を挑む気概のある議員は一人もいないのか。

政権党の真価が問われる。

読売新聞 2015年08月29日

自民党総裁選 無投票再選も前向きな選択肢

今国会で最も重要な安全保障関連法案の審議への影響を小さくする観点を重視して、自民党総裁選の日程を決めたのは、妥当である。

自民党が、安倍首相の9月末の総裁任期満了に伴う総裁選について、8日告示―20日投開票とすることを決定した。

任期満了に伴う総裁選は通常、秋の臨時国会前に行われる。今回は通常国会の大幅延長に伴い、異例の国会開会中となった。

自民党は、15日告示―27日投開票の日程案なども検討した。だが、安保法案の参院審議がやや停滞している中、法案の審議・採決や首相の外遊日程への影響を考慮し、総裁選を規定上、最も早い日程で実施することにした。

総裁選では、安倍首相が無投票で再選される公算が大きい。

首相の出身の細田派など、党内の7派閥は、そろって首相への支持を決めた。国会閉会後の10月の内閣改造・党役員人事におけるポスト獲得をにらんだ動きだ。

2012年9月の総裁選で首相と争った石破地方創生相は今回、閣内にいることもあり、出馬しない意向だ。立候補を模索する野田聖子・前総務会長は、推薦人20人を確保できないとみられる。

確かに、首相の3年間の実績を踏まえれば、対抗馬の擁立は簡単ではあるまい。衆院選2回と参院選に大勝し、強固な基盤を築いた。低下したとはいえ、40%台の内閣支持率も維持している。

昨年9月には、菅官房長官、麻生財務相ら内閣の骨格を維持しつつ、党執行部に谷垣幹事長、二階総務会長を配した。長期政権を見据えて、重厚な布陣を敷く戦略が安倍体制を安定させている。

複数の候補が総裁選に出馬すれば、今後3年間の日本の針路に関する政策論争を行う機会になる可能性はある。ただ、今の自民党にその余裕があるだろうか。

世界経済は不安定化し、日本の景気回復も足踏みしている。首相の経済政策「アベノミクス」に対立軸を掲げて、政権内で戦い、エネルギーを費やすことが、果たして生産的なのか。

安保法案は、日本と地域の平和と安全を確保するうえで極めて重要だが、国民の理解は必ずしも広がっていない。

法案審議が大詰めを迎える中、全国遊説や党員投票などを伴う本格的な総裁選を行う環境を確保するのが難しい事情もある。

難局を切り抜けるうえで、自民党が一致結束することも、一つの前向きな選択肢ではないか。

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