五輪スケート 悔しさを糧に銀・銅メダル

朝日新聞 2010年02月20日

五輪フィギュア 国境を超えて広がる花

男子フィギュアスケートの高橋大輔選手が銅メダルを獲得した。この種目で日本人初の五輪メダリストだ。

フリー演技では、フェリーニ監督の映画「道」の音楽に乗せて喜怒哀楽を鮮やかに描き出した。力強く、華麗なステップが象徴する高い技術と豊かな表現力が観客を魅了した。

スピードスケート男子500メートルの長島圭一郎、加藤条治両選手の銀、銅に続く日本勢のメダル獲得だ。重圧をはねのけた健闘をたたえたい。

高橋選手は一昨年、右ひざの靱帯(じんたい)断裂という選手生命にもかかわる大けがをした。だが、手術と厳しいリハビリで克服し、リンクに戻ってきた。この試練が、国際大会でなかなか勝てない「ガラスのエース」の心身を鍛えた。

フィギュアスケートは長く、欧州と米国が優勢だった。しかし、近年はアジアの層が厚くなり、日本もこの五輪にシングル男女とも上限の3人枠いっぱいの選手を送り出している。

靴ひもが切れるアクシデントを乗り越えて滑りきった織田信成選手は7位。日本選手でただ一人、4回転ジャンプを成功させた小塚崇彦選手は8位。堂々たるものだ。

国別のメダル数も気にはなるが、よく見れば、バンクーバーの銀盤には国境を超えた花が咲いている。

ペアにロシア代表として出場した川口悠子選手は愛知県出身。理想のスケートを追い求めてロシアに移り住み、国籍を取得した。惜しくもメダルはのがしたが、会場では彼女を応援するロシアと日本の国旗が揺れた。

アイスダンスの日本代表は、父が米国人、母が日本人のキャシーとクリスのリード姉弟。その妹のアリソンも同じ種目に出場する。パートナーと同じ国籍をとり、グルジア代表として。両親が日本人の長洲未来選手は女子の米国代表である。

リンクサイドにも国境はない。

浅田真央選手を指導するのはロシアのタチアナ・タラソワ氏。織田、安藤美姫両選手らを教えるのは元ベラルーシ代表のニコライ・モロゾフ氏だ。

そんな中、高橋選手を支えたのは、日本人が中心の指導陣だった。全体の指導は中学時代からの恩師である長光歌子さん。ショートプログラムはアイスダンスの元全日本選手権者、宮本賢二さんが振り付け、2002年のソルトレーク五輪4位だった本田武史さんもジャンプを教えた。選手だけでなく、指導者の層も厚くなった。

海外へ活躍の場を広げる人もいる。元五輪選手で世界女王の佐藤有香さんは、9位になった米国代表アボット選手のコーチとして五輪に参加した。

注目の女子は大会終盤にある。日本選手の活躍に期待しつつ、人々が国境を超えることで、より大きく開くスポーツの花を楽しもう。

毎日新聞 2010年02月17日

五輪メダル獲得 中韓から謙虚に学ぼう

「やった!」の声が日本中から沸き上がったことだろう。バンクーバー冬季五輪第4日、スピードスケート男子五百メートルで長島圭一郎選手が銀メダル、加藤条治選手が銅メダルを獲得した。今大会待望の日本初メダルである。

4年前のトリノ五輪で日本は5種目で4位だった。今大会もフリースタイルスキーの上村愛子選手が惜しくも4位に終わり、4年前の悪夢の再現を予感したファンも多かっただろう。あと一歩でメダルを逃す不運の連鎖をひとまず断ち切った。

男子五百メートルは84年のサラエボ五輪以降6大会連続で日本がメダルを守り続けた種目だが、トリノ五輪では及川佑選手が0秒13差でメダルを逃した。今回、金メダルには届かなかったものの「お家芸復活」の手応えを感じさせてくれた。

韓国と日本でメダルを独占した男子五百メートルに加え、同じ日のフィギュアスケート・ペアでは中国組が金、銀メダルに輝いた。

今回の日本のメダル獲得を「アジア」の視点で考えてみよう。

かつて冬季五輪はアジアでは日本の独壇場だった。80年代後半、日本はアジア各国に冬季競技を広めることに力を注いだ。その象徴が冬季アジア大会の開催だ。86年に第1回大会、4年後に第2回大会をいずれも札幌で開催した。

当時、日本は2度目の冬季五輪招致を目指しており、アジアの票集めという打算的な動機もあった。しかも日本のトップ選手は不参加。国旗・国歌の間違いなどトラブルも続出し、巨額の借金ばかりを残す大会だったが、中国や韓国の競技関係者に与えた影響は小さくなかった。

数字が如実に示している。第2回大会の2年後に開かれたアルベールビル五輪で中国、韓国はともに冬季五輪史上初のメダルを獲得した。

日本の「得意種目」を奪われる結果にもなった。その典型がアルベールビル五輪で正式種目に採用されたスピードスケート・ショートトラックだ。韓国は金2、銅1のメダルに輝き、メダル量産を狙った日本は銅メダル1個にとどまった。

すでに冬季五輪全体での実績も逆転している。トリノ大会まで日本が冬季五輪で獲得したメダルは32個だが、中国は33個、韓国は31個のメダルを獲得しており、今大会中に日本は韓国にも追い抜かれそうだ。

今回、日本のショートトラックチームは韓国からコーチを招いた。「後輩」であっても学ぶべきは謙虚に学ぼうという姿勢の表れだ。冬季競技に限らず身近なアジアのライバルと競い合う中で、アジア全体のレベルを上げていくことがいま、日本スポーツ界に求められている。

読売新聞 2010年02月17日

五輪スケート 悔しさを糧に銀・銅メダル

表彰台に2人の日本人選手が立った。

バンクーバー冬季五輪のスピードスケート男子500メートルで、長島圭一郎選手が銀メダル、加藤条治選手が銅メダルに輝いた。

日本にとって、今大会最初のメダルは、ダブルでの獲得という、うれしい結果となった。

4年に1度の大舞台で、見事に結果を出した2人の奮闘に拍手を送りたい。

長島選手は27歳、加藤選手は25歳。2006年のトリノ五輪500メートルで、加藤選手は金メダルの有力候補とされながら、6位に終わった。長島選手は当時、加藤選手らの陰に隠れた脇役的存在で、500メートルは13位だった。

2人とも、トリノ五輪で味わった悔しさを糧に、トレーニングを積んできたのだろう。「どうしてもメダルが欲しかった」。長島選手がレース後に語った言葉には実感がこもっていた。

レースでは、整氷車のトラブルにより、進行が大幅に遅れるアクシデントがあった。それにもかかわらず、力強い滑りをみせた2人の精神力も見事だった。

スピードスケートの500メートルは、夏季五輪では陸上競技の100メートルにあたるといえるだろう。その花形種目で、日本は1984年のサラエボ五輪から6大会連続でメダルを取ってきた。

98年の長野五輪で金メダルに輝いた清水宏保選手など、幾多の名選手が生まれ、世界のスケート界の歴史に名を刻んできた。

だが、トリノ五輪ではメダルを逃した。日本のお家芸は復活できるのか――。バンクーバー五輪はそれが問われる重要な大会であったといえる。

長島、加藤選手のメダル獲得はこれからの日本スケート界にとって、大きな活力となるだろう。

今回、優勝したのは韓国の選手だ。アジア勢のレベルの高さが際立つ結果となった。

フリースタイルスキー女子モーグルで、上村愛子選手が惜しくも4位に終わった際には、メダルを取ることがいかに難しいかを痛感させられた。それだけに、長島、加藤選手の快挙に感動をもらった人も多いことだろう。

五輪は始まったばかりだ。17日には女子500メートルが行われ、フィギュアスケートの男子シングルも始まる。今後、ノルディック複合などのスキー陣にもメダルの期待がかかり、楽しみは尽きない。

二つのメダル獲得を起爆剤に、日本選手団が上昇気流に乗ることを期待したい。

産経新聞 2010年02月17日

日本の銀と銅 積極性と努力見習いたい

バンクーバー冬季五輪のスピードスケート男子500メートルで、長島圭一郎選手(27)が銀、加藤条治選手(25)が銅メダルに輝いた。日本勢の今大会初のメダルを一挙に2個もたらす快挙である。

長島、加藤両選手はいずれも冬季五輪初出場だった前回トリノ(2006年)の同種目でメダルも期待されたが、長島選手は13位、加藤選手は6位に終わった。ともに悔しさをバネに2度目の五輪挑戦で雪辱を果たした。不断の努力と重圧に負けない精神力をたたえたい。

冬季五輪での日本は、計10個のメダルを獲得した長野(1998年)以降は低迷が続いた。トリノでは最終盤でフィギュアスケート女子シングルの荒川静香選手が獲得した金メダル1個だった。

それだけに、今大会は2日目にフリースタイルスキー女子モーグルの上村愛子選手がメダルにあと一歩の4位と健闘し、4日目には銀、銅メダルと、序盤ではずみがついた。勢いが他の競技・種目の選手にも波及し、メダル獲得ラッシュとなってほしいものだ。

金融危機以来の日本の経済状況を考えると、メダルに浮かれている場合ではないとの意見もあろう。しかし、オリンピックは世代を超えて国民に夢と誇りを与える得難い体験だ。

バンクーバーでの日本選手団の一層の奮闘によって、東京などが挑戦を表明している夏季五輪の招致機運も盛り上がっていくと期待したい。

一方、今回の長島、加藤コンビの銀・銅メダルという結果は、選手の育成・強化という観点からも注目すべきである。

日本のスピードスケート男女が冬季五輪でサラエボ(84年)からソルトレークシティー(02年)まで6大会連続で計12個獲得してきたメダルはトリノで途絶えた。そのメダルを、とりわけ男子500メートルというお家芸種目で復活させた意義は大きい。

「転んでもいいと思って飛ばした」(長島選手)

「どんどん突っ込んでいくつもりだった」(加藤選手)

失意と不振を乗り越える積極性をどのようにして培ったのか。筋力強化やトレーニングの方法は。整氷作業のトラブルで1時間余り遅れた試合前にどんな調整をしたのか。両選手の経験を今後の五輪を目指す「チーム日本」の共有財産にもしてほしい。

この記事へのコメントはありません。

この社説へのコメントをどうぞ。
お名前
URL
コメント

この記事へのトラックバックはありません。

トラックバックはこちら
http://shasetsu.ps.land.to/trackback.cgi/event/227/