全国学力テスト 大阪府の入試利用は疑問だ

朝日新聞 2015年08月27日

全国学力調査 課題を見つめて改善を

文部科学省が、全国学力調査の結果を発表した。

各教科で成績の底上げが進んだが、基礎より活用力に課題がある。その傾向は変わらない。

事業が始まって10回近い。60億円もの予算をかけ、小6、中3の全員を対象に行う。その必要がどこまであるのか。

文科省は成果と課題を検証し、あり方を見直してほしい。

調査は知識の活用問題を出すことでこれからの学力を学校や教育委員会に示してきた。データを重視する動きも広がった。

そうした点で成果がなかったとはいえないが、多くの課題も浮かび上がった。何より見つめねばならないのは、学校教育に与えるひずみだ。

調査前に過去の問題を繰り返し解かせ、テスト対策のために授業が遅れる。行事が後回しにされる。そんな例が、特に成績の振るわない県で少なくない。

調査はあくまで学力向上の手段だ。成績を上げることが目的になるのは本末転倒である。

調査の仕組みの問題もある。

年ごとに難易度が違うため、学力が上がったか下がったかがつかめない。自治体は全国順位で判断するしかない。

文科省は経年変化をつかむ調査を研究中だ。ランキングの横行を防ぐためにも急ぎたい。

教育施策の検証と、学校の指導の充実と。調査が二兎(にと)を追っていることも問題をはらむ。

政策を評価するには素顔の学力を測ることが欠かせない。なのに多くの学校が「指導」として対策問題を解かせている。

二つの目的を切り分けるべきだ。どちらの面でも、巨費をかけて毎年全員に実施する必要性があるとは思えない。

自治体による結果利用をめぐっても騒動が続いた。静岡県知事が全国平均以上の学校の校長名を公表した。大阪府教委は学校の成績を高校入試の内申評価に反映させると決めた。

子どもや学校を競わせ、選抜に使うのは調査の趣旨を明らかに踏み外している。

昭和の学力テストは、学校や自治体の競争が激化し、教師が子どもの誤答を指さすなど不正が相次いで中止になった。そのことを忘れてはならない。

下村文科相は、大学入試改革に合わせて学力調査の中身を変えるとし、その結果、「地頭を鍛えるテストであれば競い合ってもいい」と語った。過去への反省が薄らいでいないか。

次世代の調査を考えるにしても、現在のテストの検証抜きにはあり得ない。文科省は研究者や自治体、学校現場をまじえ、本格的な検討を始めるべきだ。

読売新聞 2015年08月27日

全国学力テスト 大阪府の入試利用は疑問だ

成績が振るわなかった県で、徐々に学力の向上が進んでいるのは、何よりである。

文部科学省が、小学6年生と中学3年生全員を対象にした4月の全国学力テストの結果を公表した。毎年実施される国語と算数・数学の基礎・応用問題に加え、3年ぶりに理科も行われた。

目に付くのは、成績下位県と全国平均の差が縮まっている点だ。下位県が上位の秋田、福井両県などに指導方法を学ぶ。結果を学校ごとに精査し、授業に役立てる。こうした取り組みが学力の底上げにつながっているのだろう。

全国学力テストは2007年度に始まった。都道府県別などの結果の公表で地域の実情が明らかになり、適度な競い合いが好結果を生んでいる。

ただし、国語と算数・数学では、今回も応用問題の平均正答率が低かった。柔軟な思考力を養うことが求められよう。

理科では、実験や観察結果を分析する問題の成績が低調だった。教師は、理科の面白さが伝わるよう授業を工夫してもらいたい。

大阪府は今回、中3の学校ごとの成績を高校入試の内申点の基準として活用することを決めた。

府教委は来春の高校入試から、内申点を校内の順位に応じた相対評価から、生徒個人の達成度をみる絶対評価に変更する。これに伴い、学力テストの結果を評価の基準に反映させ、学校ごとの評価のばらつきを調整する考えだ。

大阪府では今回、中3の成績向上が目立った。松井一郎知事は「内申点への反映が決まり、生徒が本気で取り組んだ結果だ」と述べ、入試利用が好結果につながったとの見方を示した。

そうした面は、あるかもしれないが、全国学力テストの入試利用は、制度の趣旨を逸脱しているのではないか。児童・生徒の学力の弱点を把握し、授業の改善に役立てるのが、本来の狙いである。

入試に活用すれば、テストの成績だけに目が行くことになろう。2、3教科の結果を用い、全教科を対象に評価する内申点を調整することにも疑問が残る。

内申点の絶対評価は、大阪府以外の都道府県では既に実施している。府教委の対応の遅れが、今回の問題の背景にある。文科省が来春の入試に限って利用を容認したのは、生徒の混乱を回避する観点から、やむを得ない措置だ。

今後の全国学力テストの活用方法については、趣旨を踏まえた検討が求められる。

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