南北協議合意 着実な履行で信頼を醸成せよ

朝日新聞 2015年08月26日

南北朝鮮合意 民族和解進める契機に

韓国と北朝鮮が互いに軍事力を増強し、緊迫した中で続いていた高官会談はきのうの未明、やっと合意にこぎつけた。

北朝鮮の地雷爆発という挑発に端を発した軍事衝突の危機はいったん避けられた。南北は今回の合意をきっかけに、民族の和解に向けた対話を誠実に続けていくべきだ。

南北が発表した合意文によると、地雷爆発について北朝鮮が遺憾を表明。韓国側は軍事境界線付近での大音量の宣伝放送を中断することが盛り込まれた。

また、各分野の対話を南北間で続けていくことになった。

金正恩(キムジョンウン)・第1書記は今回、「準戦時状態」を宣言し、砲兵部隊を増強させるなど緊迫感をあおった揚げ句、韓国に高官会談を持ちかけた。いつも繰り返してきた瀬戸際戦術である。

ただ、合意文をみる限り、北朝鮮が具体的に得たのは、地雷爆発がなければ止まったままだった宣伝放送の中断だけだ。

北朝鮮の実際の目的はむしろ南北対話を軌道に乗せることにあったとみるべきだろう。

韓国との関係を前進させ、いずれは米国との関係改善を図る狙いとみられるが、地雷爆発によって2人の韓国軍下士官は足を切断する大けがを負った。

危機を背景にした、非人道的な戦術を続けていては、対話が再開されたとしても、韓国側に深い憎悪と不信感が募るだけだということを悟るべきだ。

韓国の朴槿恵(パククネ)大統領は、地雷爆発に対する北朝鮮の謝罪と再発防止の確約が必要だと主張していたが、責任の所在があいまいな遺憾表明にとどまった。

それでもこれまで朴政権を相手にしてこなかった北朝鮮の態度を考えると、一定の成果と言えるだろう。会談に臨んだ韓国側代表は「一貫した原則」が譲歩を引き出したと自賛した。

だが、ここまで南北関係が悪化した原因は、北朝鮮側だけにあるわけではない。

北朝鮮に多くの問題があるのは事実だが、朴政権も自身の掲げた原則が受け入れられない限り、対話に応じないという姿勢では突破口は開けない。対日政策にも共通する問題である。

きのうで5年任期を折り返した朴政権の成否は、前半に著しく欠いた、しなやかさを持てるかどうかにかかっている。

南北間で合意した対話の継続は、ともに実績の乏しい両政権にとって大きな意味を持つ。

軍事的な挑発のみならず、言葉の非難の応酬も自制し、ねばり強く対話を積み重ねるべきだ。冷戦の残滓(ざんし)を一日も早く取り除く責任は南北双方にある。

読売新聞 2015年08月26日

南北協議合意 着実な履行で信頼を醸成せよ

合意を着実に履行し、対話を重ねて、信頼を醸成することが重要だ。

韓国と北朝鮮の高官協議が合意し、共同文書を発表した。

北朝鮮は、非武装地帯での地雷爆発で韓国兵が負傷したことに「遺憾」を表明する。韓国は、拡声機による宣伝放送を中断する。この2点が核心である。

北朝鮮は、前線部隊に発令した「準戦時状態」も解除する。

南北間で高まった軍事的緊張の緩和が期待される。北朝鮮はまず、前線に送っていた地上部隊などを通常の配置に戻すべきだ。

共同文書には、地雷を敷設したのが北朝鮮だとの表現はない。だが、「遺憾」表明により、韓国側は、「北朝鮮が謝罪した」と主張できる。韓国側が求める離散家族の再会も文書に盛り込まれた。

北朝鮮が“危機”を仕掛けて協議を実現させたが、結果的には、韓国側の意向がかなり反映された合意内容と言えよう。

これは、北朝鮮が宣伝放送の中止を最優先した事情が大きい。

北朝鮮は、宣伝放送を通じて、韓国の経済的優位や北朝鮮独裁体制の問題点が、前線の兵士や住民などに広まることを極度に警戒しているようだ。金正恩政権の不安定さの表れではないか。

今回は本格的な軍事衝突を回避できたが、今後は楽観できない。経済面で行き詰まり、外交的にも孤立する北朝鮮が、弾道ミサイル発射などの軍事的挑発に再び走る可能性は否定できない。

高官協議は、南北関係の改善に向けて、当局者会談の早期開催にも合意した。会談では、軍事的緊張の再発を防止する具体策を話し合うことが大切である。

韓国は、2010年の北朝鮮の韓国哨戒艦撃沈や黄海・延坪島砲撃を受けて、北朝鮮に交易制限などの独自制裁を科している。

北朝鮮は会談で、制裁解除や経済支援などを求めるだろうが、実現は簡単ではない。本気で今の苦境を脱したいなら、本格的な政策変更が避けられまい。

軍事的挑発による瀬戸際戦術で経済的な見返りを要求する常套じょうとう手段を放棄し、国際社会との協調に踏み出す必要がある。

安倍首相は国会で、今回の南北合意について、「地域の緊張緩和や諸懸案の解決につながることを期待する」と評価した。

今回の南北合意が、拉致問題を含む北朝鮮の対日姿勢にどう影響するのか。日本は、「対話と圧力」の原則を堅持しつつ、戦略的外交を進めるべきだ。

この記事へのコメントはありません。

この社説へのコメントをどうぞ。
お名前
URL
コメント

この記事へのトラックバックはありません。

トラックバックはこちら
http://shasetsu.ps.land.to/trackback.cgi/event/2266/