日露関係の改善と領土問題の解決の機運を大幅に後退させる動きだ。断じて容認できない。
ロシアのメドベージェフ首相が北方領土の択捉島を訪問した。港湾施設や空港などの整備状況を視察した後、若者向けの政治集会で、択捉島と国後島を「優先発展地域」に指定する方針を表明した。
ソ連の占領開始から今月で70年となるのに合わせ、実効支配の固定化を印象づける狙いだろう。
訪問は日本の中止要請を無視したもので、重大な主権侵害である。岸田外相が駐日露大使に、「日本国民の感情を傷つける。極めて遺憾だ」と抗議したのは当然だ。
ロシアは最近、対日強硬姿勢が目に余る。6月末、排他的経済水域(EEZ)内で、日本漁船も従事するサケ・マス流し網漁の来年からの禁止を決めた。日本漁業への打撃が心配される。
7月以降、保健相と副首相が相次いで北方領土を訪れた。千島列島全体の社会基盤整備などに、10年間で約1200億円を投じる「発展計画」も発表した。
安倍政権を揺さぶり、ウクライナ問題で対露制裁を発動中の米欧との連携を乱す意図が見える。
日本は、中国の軍事的台頭を牽制し、ロシアとの「反日」共闘の構築を避けるため、日露間の対話を重視してきた。
安倍首相とプーチン大統領の個人的な関係をテコに領土交渉を進展させようと、プーチン氏の年内来日も探っている。首相の戦略の方向性は理解できる。
だが、最近のロシアの動きは、プーチン政権が領土問題を本気で前進させる意向がないことを如実に示しているのではないか。
仮に来日が実現しても、中身のある対話や目に見える成果は期待できまい。岸田氏は当面、訪露の調整を凍結するという。日本側の戦略は行き詰まりつつある。
プーチン氏が米国を特に敵視し、露国民の愛国心を煽って政権の求心力としている現実が背景にある。プーチン氏は核兵器使用の可能性にも言及し、米欧に対する威嚇発言を繰り返してきた。
軍備を急速に増強し、米欧への軍事的挑発も続けている。クリミア半島編入という力による現状変更は、到底許されない。
国際ルールを守り、建設的な役割を担うことこそがロシアの利益になる――。日本は米国と連携し、今秋の国連総会やアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議などを通じて、この点をプーチン氏に説き続ける必要がある。
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