日航ジャンボ機が群馬県・御巣鷹山に墜落し、乗員乗客520人が犠牲になった事故から、12日で30年を迎える。
単独機の事故としては今なお、世界の航空史上最悪の惨事だ。遺族の無念は、年月を経ても変わるまい。事故の記憶を風化させず、空の安全を改めて誓う日としたい。
ジャンボ機は墜落の7年前の1978年、着陸時に尻もち事故を起こしていた。この際の米ボーイング社による修理が不適切だったため、後部の圧力隔壁が飛行中に破断し、墜落の原因となった。
当時の航空事故調査委員会は、こう結論付け、日本航空に対しても、「点検方法に十分とはいえない点があった」と指摘した。
日航は事故後、整備システムの全面見直しなどを実施した。それにもかかわらず、2005年に整備ミスなどが相次ぎ、国土交通省から事業改善命令を受けた。
対応策として、06年に羽田空港内に設けた「安全啓発センター」は、社員教育の拠点として大きな役割を果たしている。圧力隔壁の残骸や遺品、遺書を目にすることで、社員は安全運航の大切さを再認識する。
グループ企業を含めた3万5000人の全社員が、今年3月までに研修を受けた。今では、事故後に入社した社員が9割以上を占める。事故の教訓を継承する安全教育の重要性は増している。
日航は10年の経営危機を機に、再生へ向けた経営目標の第一に「安全運航」を掲げた。その理念を忘れず、安全最優先の企業風土を築き上げてもらいたい。
日航機事故後、国内航空会社で乗客が死亡する事故はない。ただし、一歩間違えば大惨事となりかねない重大インシデントは後を絶たない。6月には那覇空港で、離陸直前の全日空機の前を自衛隊ヘリが横切るトラブルがあった。
国内空港の総着陸回数は30年前の2倍近くに増えた。格安航空会社(LCC)の参入などで、航空会社は激しい競争にさらされているが、安全運航への取り組みを怠ることは、決して許されない。
重大事故の背景には、29件の軽微な事故と300件の小さなミスがあるとする「ハインリッヒの法則」が知られる。航空業界で情報を共有し、小さなミスの段階で事故の芽を摘むことが大切だ。
国土交通省は昨年、報告義務のない小さなミスも航空会社に自発的に報告させ、周知すべき情報は公開する制度をスタートした。事故防止に役立てたい。
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