厚木基地訴訟 「国の守り」軽視は危うい

読売新聞 2015年07月31日

厚木騒音訴訟 海自機飛行差し止めは必要か

判決により、自衛隊の活動に悪影響が及ばないか、懸念される。

海上自衛隊と米海軍が共同使用する厚木基地の第4次騒音訴訟で、東京高裁は、1審の横浜地裁と同様、自衛隊機の夜間早朝の飛行差し止めを命じる判決を言い渡した。

「必要性・緊急性がある場合など、客観的にやむを得ない場合」を除き、午後10時から午前6時までの飛行を禁じた。米軍機の飛行差し止めについては、「国に権限がない」と却下した。

高裁は、自衛隊機の飛行に関し、「高度な政治的判断や防衛戦略上の判断を要する」として、防衛相の幅広い裁量権を認めた。

飛行目的に比べて離着陸による騒音被害が過大な場合は、防衛相の裁量権を逸脱し、差し止めの対象となるという見解も示した。こうした考え方は理解できる。

だが、判決が、騒音の主因は米軍機であると認定しながら、自衛隊機の飛行を差し止めたことには、矛盾を感じる。

海自は、既に夜間早朝の訓練飛行を自主規制しており、昨年度の離着陸は53回にとどまる。騒音の軽減効果が限定的な飛行差し止めは、果たして必要なのか。

飛行差し止めは、2016年12月末までに限定した。米軍の空母艦載機が17年頃までに岩国基地に移駐する予定で、その後は「騒音の発生状況が大きく変わる可能性がある」という理由からだ。

無期限の差し止めを命じた1審判決に比べ、自衛隊に対する一定の配慮はうかがえる。

海自は、哨戒機P3Cや救難飛行艇US2など約40機を厚木基地に配備し、警戒監視や、海難事故の救助、離島からの急患搬送などの任務に対応している。

判決が、現行の夜間早朝の飛行について、「すべてに緊急性が認められるわけではない」と認定したことには、疑問を拭えない。

緊急性はなくても、夜間の救助活動などを想定した訓練は不可欠だろう。防衛省幹部は「訓練と実任務は不可分だ」と語る。

中国が一方的な海洋進出を続ける中、自衛隊機の活動の重要性は高まっている。中谷防衛相が「受け入れがたい」として、上告の意向を示したのは、うなずける。

判決は、基地の騒音訴訟で初めて、将来分の損害賠償も認めた。賠償額は計94億円に上る。被害の深刻さを重視した結果だろう。

無論、厚木基地の騒音問題は放置できない。政府は、米軍機の岩国移駐を着実に実行するなど、一層の努力をするべきだ。

産経新聞 2015年08月02日

厚木基地訴訟 「国の守り」軽視は危うい

矛盾した判断に疑念を持たざるを得ない。

厚木基地(神奈川県)の騒音被害をめぐる控訴審判決で、東京高裁が1審の横浜地裁判決と同様、海上自衛隊機の夜間早朝の飛行差し止めを命じたことだ。

騒音の主体は米空母艦載機なのに、なぜ海自機の飛行が差し止められるのか。自衛隊の活動が損なわれかねない。日本や国民の安全を著しく軽視するものではないか。

政府は、騒音被害を受ける住民の救済を改めて促されたことを重く受け止め、対策を強化すべきだが、抑止力に重大な支障がでないよう努めるべきだ。

判決は、米軍機の飛行差し止め請求については国の権限が及ばないとして、1審同様に退けた。

厚木基地は、海自にとって最重要の航空拠点だ。航空集団司令部と第4航空群が置かれ、対潜哨戒機P3C、救難飛行艇US2などを配備している。

これら海自機が、地の利を生かして太平洋から東シナ海まで広範な海の上を飛び、海上交通路(シーレーン)を脅かす外国の潜水艦や艦船、工作船の警戒監視に当たっている。海難救助や離島の急患搬送を担っていることも忘れてはならない。

海自は厚木基地での夜間・早朝飛行を原則自粛してきた。周辺住民に配慮しているためだが、有事が起きるのは昼夜を問わない。

この記事へのコメントはありません。

この社説へのコメントをどうぞ。
お名前
URL
コメント

この記事へのトラックバックはありません。

トラックバックはこちら
http://shasetsu.ps.land.to/trackback.cgi/event/2255/