TPP合意せず 漂流回避へ交渉再開を急げ

朝日新聞 2015年08月02日

TPP交渉 合意へ全力をあげよ

環太平洋経済連携協定(TPP)の交渉が、物別れに終わった。参加12カ国の閣僚は今月中に再び会合を開く考えというが、今回の会合で掲げていた「大筋合意」にたどりつけなかった痛手は大きい。

開始から5年余り、曲折を経てきた交渉は瀬戸際にあるが、TPPを漂流させるわけにはいかない。

世界貿易機関(WTO)での自由化交渉が滞るなか、世界経済を引っ張るアジア太平洋地域で貿易や投資の自由化を進め、成長をさらに押し上げる。これは、デフレからの完全脱却を急ぐ日本はもちろん、交渉に加わるすべての国にとって欠かせない課題だ。

一方、この地域は、政治・外交面では米中2大国がせめぎ合う舞台でもある。TPPは、東アジア包括的経済連携協定(RCEP)や日中韓自由貿易協定など、中国が関わる他の通商交渉に刺激を与え、先導する役回りを担ってきた。中国を取り込み、アジア太平洋を繁栄と平和の地域としていくためにも、TPPの頓挫は許されない。

安い後発医薬品の普及を左右する新薬のデータ保護の期間と、乳製品の市場開放策。今回のTPP閣僚会合では、この二つの問題が絡み合い、解きほぐせなかったようだ。大詰めを迎えるほどに険しくなる通商交渉の難しさを改めて見せつけた。

交渉を主導してきた米国は今後、来年の大統領選を控えて政治の季節を迎える。TPPの成立と発効に不可欠な共和・民主両党の妥協が難しくなっていくだけに、残された時間は少ない。今秋に国政選挙があるカナダなど、動向が気がかりな国は他にもある。

ここは、TPP参加国の中で米国に次ぐ経済大国である日本の出番ではないか。

甘利・TPP相は閣僚会合後の共同記者会見で「もう一度会合が開かれれば、すべてが決着するだろう」と語った。実際、交渉担当者には「大筋合意まであと少しだった」との思いがあるようだ。

ならば、まずは次回会合の日程を確定させ、そこを目標に実務担当者が協議を重ねていくべきだ。甘利氏がリーダーシップを発揮し、提案してはどうか。

TPPは、自由化の水準でWTOを上回るのに加え、環境や労働者の保護と自由化との調和など、WTOが手つかずのテーマも掲げている。

21世紀型の新たな通商ルール作りという目標を見失わず、各国は不退転の決意で交渉をまとめてほしい。

読売新聞 2015年08月02日

TPP合意せず 漂流回避へ交渉再開を急げ

環太平洋経済連携協定(TPP)交渉の閣僚会合が、大筋合意を見送って閉幕した。

参加12か国は共同声明で、「TPPが妥結間近であることを確信している」と強調し、協議を継続する方針を示した。

各国の閣僚が大筋合意を期して臨んだ交渉が不調に終わったのは、極めて残念である。

甘利TPP相は次の閣僚会合について、「8月末までにというのが共通認識だ」と述べたが、日程は決められなかった。

このままでは、アジア太平洋地域に巨大な自由貿易圏を作る野心的な構想が漂流しかねない。12か国は危機感を共有し、交渉再開を急ぐべきだ。

今回の会合では、関税引き下げや投資ルールなど、多くの分野で進展した。大筋合意にかなり近づいたのは確かである。

ところが、特定のテーマで関係国の対立が解けなかった。

特に難航したのが、新薬開発のデータ保護期間を巡る交渉だ。

大手製薬会社の多い米国は「12年」を、後発医薬品を早く使いたいオーストラリアやニュージーランドは「5年以下」を主張した。日本は間を取って「8年」を提案したが、折り合えなかった。

誤算は、ニュージーランドが医薬品での譲歩を条件に、日米やカナダに乳製品の輸入枠の大幅な拡大を迫ったことである。

各国は、過大な要求を取り下げるよう説得を試みたが、ニュージーランドが強硬姿勢を崩さなかった。このため、医薬品など他の分野でギリギリの妥協を探る動きが失速したことは否めない。

大筋合意への機運が高まったのを見計らって強硬姿勢に転じ、自国に有利な決着を狙ったと受け止められても仕方あるまい。

TPPのように多国間の利害が複雑に絡む交渉では、各国が一方的に主張するのではなく、大局的な見地から歩み寄りの精神を発揮することが不可欠だ。

今回の合意見送りで、参加国間の不信感が強まる事態は避けねばならない。交渉を主導する日米を中心に、冷静で建設的な協議を継続する必要がある。

各国の政治情勢もあって、今後の展開は予断を許さない。

カナダは10月にも総選挙を控え、米国は来年1月に大統領選の予備選が始まる。日本も来年夏に参院選を予定している。

交渉が長期化するほど、各国政府が市場開放などで譲歩しにくい状況を招くことになろう。

産経新聞 2015年08月02日

TPP合意見送り 機運失わず協議再開急げ

妥結への最後の機会とみられた環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉は、知的財産などで対立が解けず、またも大筋合意を見送った。極めて残念である。

甘利明TPP担当相は閣僚会合後、次回の会合で「すべて決着すると思う」と述べた。だが、日程をまだ決めておらず、楽観はできまい。

このままでは、参加12カ国の妥結機運が低下しかねないことを強く懸念する。それを避け、合意形成を促すのは、群を抜く経済力を持つ米国と日本の責務である。

今回の交渉では、重要農産品をめぐる日米両国の関税協議を含めて、多くの交渉分野で妥結に向けた前進がみられたようだ。

だが、新薬データの保護期間では、米国とオーストラリアなどが鋭く対立した。乳製品の市場開放では、ニュージーランドの強硬姿勢が際立った。

いずれも、各国内での政治圧力が極めて強い分野だが、少しでも歩み寄れるよう、粘り強く協議を継続しなければならない。

気がかりなのは、各国の政治日程だ。そもそも、この機会を逃せば交渉漂流の恐れがあるといわれたのは、来年の大統領選に向けた米国の都合で、交渉進展が難しくなるとみられたからだ。カナダも今年10月に総選挙がある。

甘利氏によると、各国には8月末までに次回会合を持った方がいいとの共通認識があるという。日増しに政治決着が難しくなる可能性があるだけに、早急に閣僚会合の再開を決めるべきだ。

この記事へのコメントはありません。

この社説へのコメントをどうぞ。
お名前
URL
コメント

この記事へのトラックバックはありません。

トラックバックはこちら
http://shasetsu.ps.land.to/trackback.cgi/event/2254/