東電原発事故 強制起訴には違和感残る

読売新聞 2015年08月01日

東電「強制起訴」 高度な注意義務求めた検察審

未曽有の自然災害が原因でも、事故の防止策を十分に講じなかった刑事責任を経営陣は問われるべきだ。それが市民で構成する検察審査会の判断なのだろう。

東京電力福島第一原子力発電所の事故を巡り、検察審査会は、検察が不起訴とした勝俣恒久元会長ら当時の経営陣3人を、業務上過失致死傷罪で起訴すべきだとする2度目の議決をした。

これにより、3人は強制起訴され、裁判が開かれる。

勝俣元会長らは、必要な安全対策を取らないまま、漫然と原発の稼働を継続させた結果、東日本大震災の津波により、炉心損傷などの重大事故を発生させた。検察審は議決で指弾した。

確かに、東電は安全神話にとらわれていた。結果的に放射性物質を拡散させ、社会・経済に深刻な打撃を与えた責任は免れない。

ただし、刑法上、刑事責任の対象は企業ではなく、あくまで個人だ。業務上過失致死傷罪を適用するには、漠然とした危機感にとどまらず、具体的な危険を認識しながら、明白な過失を犯していたことを立証する必要がある。

検察審は「原子力発電に関わる責任ある地位の者は、重大事故を引き起こす津波が『万が一にも』発生する場合まで考慮して備える責務がある」と指摘した。

電力会社の役員には、通常よりも高度な注意義務があるという検察審の見方が表れている。

東電は2008年、政府機関の分析を踏まえ、襲来する津波の高さを15メートル超と試算した。検察審はこの点を、元会長らに予見可能性があったことの根拠に挙げた。

だが、検察は専門家の聴取結果から、政府機関の分析は信頼度が低く、当時、巨大津波が発生する現実的可能性を認識するのは難しかったと結論づけていた。

過失の有無の判断では、原発事故が起きる前の科学的知見などを前提として、元会長らが職務上、明白な危険を放置していたかどうかがポイントになる。検察審は、こうした観点からの議論を十分に尽くしたのだろうか。

裁判所には、証拠に照らした慎重な審理を望みたい。

何より大事なのは、事故の教訓を再発防止につなげることだ。

事故後、原発の規制基準は厳格化された。原子力規制委員会は新たな基準に基づき、各地の原発の再稼働に必要な安全審査を進めている。電力会社がリスク管理を徹底し、原発の安全性を高めることが肝要である。

産経新聞 2015年08月01日

東電原発事故 強制起訴には違和感残る

東京電力福島第1原発の事故をめぐり、勝俣恒久元会長ら旧経営陣3人が業務上過失致死傷罪で強制起訴される。

市民団体による告訴・告発を受けて東京地検が不起訴とした事案で、東京第5検察審査会が起訴すべきだと2度目の議決をした。

国民から選ばれた検察審査員11人中、8人以上が刑事責任を認めた判断ではあるが、旧経営陣に現実的でない津波対策を求めるなど、「ゼロリスク」を過大に追求しており、議決内容には違和感が残る。

公判には、原発の安全対策についての冷静な審理を求めたい。

元会長らは、原発事故により負傷した東電関係者や、避難中の患者が衰弱死したことなどに責任があり、業務上過失致死傷罪にあたるとされた。

業務上の過失で引き起こされた事件・事故について、警察や検察は予見性、因果関係、責任の所在などについて厳格に判断する。

元会長らを不起訴とした東京地検は、事故の発生前に東日本大震災と同規模の地震や津波が起きることは専門家も想定していなかったなどと慎重に判断した。

これに対し今回の議決は、津波による電源喪失で起きた原発事故について、「万が一にも」「まれではあるが」などの言葉を駆使して、極めて高度な注意義務を経営陣に求めたものだ。

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