中国の習近平政権の強権統治が、一段とエスカレートしていることを示す動きと言えよう。
中国各地で、人権派弁護士や活動家が警察当局に相次いで拘束、連行されている。7月上旬以降、その数は100人以上に達した。
大半は、冤罪を訴える陳情者や差別待遇を受ける農村からの出稼ぎ労働者ら社会的弱者を支援する弁護士だ。国営メディアは、その中心人物らが抗議行動を扇動したとし、「社会秩序を乱す重大犯罪グループ」と位置付けた。
習政権は、弁護士らの活動が格差の拡大などに不満を強める人々と結びつくことを警戒しているのだろう。だが、国民の人権擁護に努める弁護士が一方的に弾圧される事態は、看過できない。
2011年、中東の民主化要求運動「アラブの春」を受けて、「中国版ジャスミン革命」と言われる民主化の呼びかけがインターネットで広がった際にも、多数の人権派弁護士が拘束された。
今回の規模は当時を上回る。経済成長減速に伴って社会不安が増大することに対する習政権の危機感の強さを物語るものだ。
習政権は発足以来、民主主義や人権など普遍的価値観の社会への浸透を恐れ、人権派弁護士の抑圧、言論統制を強めてきた。圧力は胡錦濤前政権以上とされる。
今年4月には、著名な女性ジャーナリストの高瑜氏も国家機密を違法に海外に提供した罪で実刑判決を言い渡されている。
共産党の一党独裁下にある中国は、法治を掲げながらも、「司法の独立」はない。法治は党の統治を徹底するための手段である。
今月、習政権は、暴動の封じ込めなどを狙った国家安全法を施行した。外国の民間活動団体(NGO)の監視などを目的とする法律の制定も進めている。
国際社会で習政権が「責任ある大国」を標榜するなら、拘束している弁護士らを釈放し、活動を認めるべきではないか。強権統治を続ければ、「異質の大国」の姿が一層鮮明になるだけだ。
岸田外相が「弁護士や人権活動家を含め、すべての中国人に対し、普遍的価値が保障されることを強く求めたい」と述べたのは、当然だ。米国も懸念を表明しており、9月の習国家主席の訪米時に米中間の懸案になる可能性がある。
日米は、人権などの価値観を共有する関係国と連携し、首脳会談や外相会談など様々なレベルを通じて、人権擁護の重要性を中国に粘り強く訴えることが重要だ。
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