欧州連合(EU)のユーロ圏19か国の首脳会議が、ギリシャ支援の再開で原則合意した。
今後3年間に最大860億ユーロ(11・7兆円)の支援を実施することが柱だ。
17時間に及ぶ「マラソン協議」の末、決裂によるギリシャの財政破綻やユーロ圏離脱を、ひとまず回避したことは評価できる。
ただし、支援の実施は、ギリシャが15日までに年金削減や増税などの構造改革を法制化することが条件だ。楽観は禁物だろう。
チプラス政権は、危機を再燃させないため、期限内の法制化に全力を挙げなければならない。
協議が迷走した最大の原因は、チプラス首相の不誠実かつ無責任な交渉姿勢にある。
EU側が求めた改革案の提示を先送りし続けた揚げ句、唐突に緊縮財政の是非を問う国民投票に踏み切った。チプラス氏は、交渉を有利にできるとして、国民に「反対」を呼び掛けた。
投票の結果、反対派が勝利したものの、今回の合意では500億ユーロ相当の国有財産売却など、一段と厳しい条件をつけられた。
場当たり的に様々な策を弄し、ドイツをはじめ各国の不信感を増幅させたツケである。
「反緊縮」の民意を示した国民に、緊縮策の受け入れを前提とした合意をどう説明し、理解を得るのか。国民投票は、ギリシャの内政にも重い課題を残した。
与党内からも、緊縮策の受け入れに異を唱える造反勢力が現れている。チプラス氏の政権基盤が揺らぎ、合意した財政再建策を実行できなくなる懸念もあろう。
2010年から今回まで3次にわたる金融支援で、ギリシャが負った債務は総額3000億ユーロを超える。低迷する経済を立て直さないと、返済は継続できまい。非効率な産業構造を改革し、経済の自立を急がねばならない。
ギリシャ問題は、ユーロ体制の矛盾も改めて浮き彫りにした。
共通通貨の下、金融政策は一つだが、財政は各国が独自に運営している。このため、各国間の経済格差を財政政策で調整できず、さらに格差が広がるという、構造的な問題を抱えている。
経済と財政の健全なドイツや北欧の国が、ギリシャに厳しい財政規律を求めたのに対し、自国も景気や財政に不安のあるフランスやイタリアなどの南欧諸国は、ギリシャに同情的だった。
ユーロ圏の結束を維持するには、この「南北問題」を先鋭化させないことが重要である。
この記事へのコメントはありません。