世界の政治地図が塗り変わる一歩になるかもしれない。
中東の大国イランの核開発をめぐる米欧ロシアなど6カ国とイランとの協議が最終合意に達した。
イランは核開発を縮小することとなり、核武装の悪夢は遠のいた。欧米の制裁解除により、1979年の革命以来続く孤立状態から、国際社会への復帰へと歩を進める。中東の安定に向けて米国とイランが手を携える可能性も現実味を帯びてきた。
むろん長年の対立構造を解く作業は緒に就いたばかりだ。楽観は許されない。それだけに、この流れを確固たるものにする国際的な結束が欠かせない。
米国とイランの対立は、数多くの分野で国際社会の行動を制約してきた。核兵器の拡散を防ぐ努力でも、世界のエネルギー政策でも、両国間の緊張が重い足かせとなっていた。
しかし近年は、不毛な対立に当事国同士が疲弊していた。イランは経済を再建したい。米国は過激派組織「イスラム国」対策やイラクの安定でイランの協力を得たい。隔たりを克服して合意にこぎ着けたのは、双方の理性の勝利と言えるだろう。
変化はあくまで始まりに過ぎない。合意の実をあげるには課題が残っている。交渉の過程で培った大局観のもと、関係各国は今後も大胆な妥協も辞さない姿勢で臨むべきだ。
イランは、核疑惑を再び持たれないよう、核武装からきっぱりと手を引き、今後も信頼回復への努力を重ねる必要がある。この国の国際的な評価を損ねてきたのは、度重なる秘密裏の活動に他ならないからだ。
合意には、各国で抵抗勢力も残る。米国の野党共和党や、イランの保守派。中東でもイスラエルやサウジアラビアなどが、懐疑的な姿勢を変えていない。米欧の各政府は今後も説得を重ね、イラン問題をめぐる不信感をぬぐう作業が欠かせない。
エネルギー市場でのイランへの期待はかねて大きい。ガス確認埋蔵量は世界1位、原油確認埋蔵量は4位の大資源国だ。世界の資源戦略を一変させかねない。シリアやイエメンなどの紛争への影響力や、人口が8千万近い市場にも存在感がある。
イランが米欧との接近を進めれば、日本の安全保障にも大きく影響する。集団的自衛権行使の場として、安倍首相はこの湾岸での機雷掃海を挙げるが、もはやそんな想定は難しい。
世界の流れから取り残されないよう現実を見すえ、実のある真の国際貢献を考える。発想の転換は、日本にも求められる。
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