安保法制 首相の「丁寧な説明」?

朝日新聞 2015年07月11日

安保法制 首相の「丁寧な説明」?

安倍首相の国民への説明は「丁寧ではない」が69%。「丁寧だ」は12%。朝日新聞の6月の世論調査の結果である。

安全保障関連法案について、政府与党は来週の衆院採決をめざしている。だが、この期に及んでも国民の理解は進んでいない。そんな現状を打破すべく、首相が自民党のインターネット番組に出演している。「安倍さんがわかりやすくお答えします! 平和安全法制のナゼ? ナニ? ドウシテ?」

どのような説明がなされているか。たとえば、集団的自衛権についてはこうだ。

「不良が、安倍晋三は生意気なやつだから今夜殴ってやろうと言っている時に、友達のアソウさんが、俺はけんかが強いから守ってやるよと一緒に帰る。そこに3人ぐらい不良が出てきて、私の前にいたアソウさんをまず殴った。で、私もアソウさんをまず守る。これが昨年の憲法解釈を見直す時に、限定的にできますね、と認めたこと」

抑止力については「戸締まりをしっかりしていれば泥棒や強盗が入らない。隣のお宅に泥棒が入ったのがわかったら、すぐに警察に連絡する。そういう助け合いがちゃんとできている町内は犯罪が少ない。これがいわば抑止力」。

複雑な国家間の関係を単純化する。わかりやすいかどうかはさておき、戦後日本の平和国家としての歩みを一大転換させる法案の説明にふさわしいたとえ話だろうか。聞けば聞くほど、ナゼ? ナニ? ドウシテ?が頭をもたげてくる。

国民の「わからない」は「わかりたい」の裏返しでもあるはずだ。

首相は「丁寧に説明したい」と繰り返すが、国会で個別事例に即した議論を迫られると、政府見解を長々と説明したりはぐらかしたりヤジを飛ばしたり。「説明は全く正しいと思いますよ、私は総理大臣なんですから」と言ってのけたことも。

首相は何か、思い違いをしているのではないか。

異なる意見を持つ者の間に橋を架ける。それが政治の、とりわけ首相の大事な仕事だ。

そのために、数におごらず、「身内」ではない批判者や反対者の疑問や不安を真正面から受け止め、理を尽くし、情を傾けて説得する。すべての人の同意は得られなくても、橋を架ける努力をしたという事実は「次」への土台として残る。

架橋を放棄し「身内」だけで編んだ綱は太く見えても弱く、短い。その上を渡るがごとき首相の政治姿勢は危うい。

読売新聞 2015年07月11日

安保集中審議 厳しい事態にも備える法制に

閣僚だけでなく、野党議員も答弁に立ち、与野党の主張の共通点と相違点がより明確になったのは、建設的だった。

衆院特別委員会で、政府提出の安全保障関連法案と、維新、民主両党提出の対案の3法案に関する集中審議が行われた。

安倍首相と民主党の岡田代表は朝鮮半島有事での米軍防護について論争した。岡田氏は、邦人を輸送中の米軍艦船が攻撃された際、「海上警備行動を発令して守る」と述べ、基本的に自衛権でなく警察権で対応する考えを示した。

首相は、「相手が武力攻撃をしている中で警察権では対抗できない。ミサイルにピストルで対応するようなものだ」と反論した。

無論、本格的戦闘への発展を避けるため、抑制的な武器使用にとどめた方が良いケースもあろう。だが、「存立危機事態」に警察権で対応するのは無理がある。

自衛隊は、他国の軍隊より格段に武器使用の制約が厳しい。より悪いシナリオにも対処できる安保法制にしておくことが重要だ。

維新の柿沢幹事長は、日本攻撃の危険がある事態に限って武力行使を認める維新案について「自衛権の再定義を行った」と説明した。「軍事技術の発展で、個別的自衛権と集団的自衛権の重なり合う部分が出てきた」とも語った。

個別的か集団的か区別をしないことで、「憲法違反」との批判を回避する狙いがうかがえる。

与党側は、「日本に対する武力攻撃が発生していないのに、武力行使を個別的自衛権で正当化できない」との外務省局長答弁などを踏まえ、維新案では国際社会に説明がつかないと指摘した。

「自衛権の再定義」という独自の概念で、個別的自衛権と集団的自衛権の区別を曖昧にすることは国際的な批判を受けかねない。

法理を維持した憲法解釈の変更により集団的自衛権の行使を限定容認し、米艦防護などを行う政府案の論理の方が説得力を持つ。

領域警備法案について、民主党側は、領域警備区域内を自衛隊が警備することで、離島防衛の「時間・武器使用・権限の三つの隙間」を埋められると強調した。

首相は、海上警備行動の発令手続きを迅速化する5月の閣議決定で、切れ目のない対処が可能になったとし、「現時点で新たな法整備は必要ない」と反論した。

中国が東シナ海でガス田掘削用海上施設を増設するなど、日本の安保環境は一段と悪化している。どんな仕組みが効果的か、現実に即した議論を行うべきだ。

産経新聞 2015年07月12日

安保法制の対案 採決遅延の道具にするな

安全保障関連法案をめぐる衆院の審議は、野党の対案の取り扱いも含めた最終段階に入った。

維新の党が対案となる3法案を提出した。このうち、他国からの武力攻撃にいたらないグレーゾーン事態に対処する領域警備法案は、民主党との共同提出となった。

重要法案に対する対案を野党が出すのは、論戦の内容を高めることに資するものであり、歓迎したい。

だが、その時期はあまりにも遅く、内容は物足りない。共同提出に関して、土壇場まで民主と維新はもめた。安保政策の中身より、採決時期に関する両党の戦略の相違が主たる原因だったというのも、極めて残念である。

政府与党は、衆院特別委員会ですでに十分な審議時間を経過したとして、採決時期を探り始めている。この段階で、実質的な修正を行うのは難しい面もある。野党側が、実際の法案修正より、採決の引き延ばしを考えているのだとすれば、無責任でしかない。

読売新聞 2015年07月09日

野党安保対案 採決引き延ばし目的では困る

日本の安全保障環境の悪化に、どう対応すべきか。政府を批判するだけでなく、建設的な議論を深める契機としたい。

民主、維新両党は、安全保障関連法案の対案として、グレーゾーン事態における領域警備法案を衆院に共同提出した。

維新は、自衛隊法など10法を改正する「平和安全整備法案」と自衛隊の海外派遣に関する「国際平和協力支援法案」も提出した。

野党の対案提出は歓迎したい。ただ、政府案の審議時間は既に90時間を超えている。本来は、もっと早く提出すべきだった。

維新の対案は政府案全体に対応するが、民主には、焦点である集団的自衛権の行使や、自衛隊の国際協力活動に関する対案がない。朝鮮半島有事における米艦防護などにどう対処するのか、具体的な見解をきちんと提示すべきだ。

領域警備法案の提出では、民主と維新の足並みが一時乱れた。維新が今月下旬の衆院採決を容認したのに対し、民主は「与党に手を貸すことはできない」と反発し、両党の立場の違いを露呈した。

野党の対案提出が、単に審議を引き延ばし、採決を遅らせることが目的なら、容認できない。

与党は、来週中の政府案の採決を目指している。審議では、同じ質問の繰り返しや、自民党勉強会の「報道規制」発言の批判など、安保法案と直接関係ない質問が目立ち始めた。採決の環境は徐々に整いつつあると言えよう。

野党は、「対案の審議時間を十分に確保すべきだ」と主張する以上、衆院特別委員会の月水金曜の定例日にこだわらず、連日、審議するのが筋だ。与党も、丁寧な審議に協力する必要がある。

維新の対案は、集団的自衛権の行使に関して、日本攻撃の明白な危険がある場合に限定し、対象も米軍に限るなど、政府案より要件が厳しい。一部の憲法学者らが政府案を「違憲」と批判していることに配慮したのだろうか。

だが、政府案は、1959年の最高裁砂川事件判決や72年の政府見解と論理的な整合性があり、「違憲」との主張は当たらない。

そもそも日本の存立が脅かされ、国民の権利が根底から覆されるような「存立危機事態」を、武力行使で切り抜けることを憲法が禁じているとは考えられない。

政府案は、集団的自衛権行使に十分厳格な歯止めをかけている。維新案のように、更なる制約を課すことは、日米同盟と国際連携を強化し、抑止力を高めるという政府案の目的を損ねかねない。

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