参院選挙改革 自民案は生ぬる過ぎる

朝日新聞 2015年07月10日

参院選挙改革 自民案は生ぬる過ぎる

憲法が求める「投票価値の平等」より、自民党あるいは自民党参院議員の保身を優先したと言わざるを得ない。

参院の「一票の格差」を正す選挙制度改革について、自民党はきのう、鳥取と島根、徳島と高知をそれぞれ「合区」し、これまで主張してきた「6増6減」とあわせ、最終的に「10増10減」とする案を決め、維新の党など野党4党と合意した。

自民党はこれまで「6増6減」のみを示し、合区には及び腰で来た。議席ゼロとなる県が出かねないからだ。

しかし、「6増6減」だと最大格差は最高裁が「違憲状態」と判断した前回参院選の4・77倍とほとんど変わらない。改革の名に値するはずもない。

自民党は今回、維新など野党4党の案に乗る形で、ようやく「合区」に踏み出した。人口の少ない県を一つにまとめ、新たな選挙区をつくるのは憲政史上初めてだ。

ただ、自民党案だと最大格差は2・974倍にもなる。

今回の改革論議は、最高裁に都道府県単位の区割りを見直す必要性を指摘されたことを受けて始まった。各会派の代表でつくる「選挙制度協議会」の議論では、一票の格差は2倍以内が望ましいという会派が多数を占めていたはずだ。

その点で、民主、公明両党が合意した「10合区」案は、最大格差を1・953倍と、2倍以内に抑えられる。

少なくとも、最大格差を小さくするという点では、民主、公明案の方が「よりまし」なのは明らかだ。

議員の数では、自民党と維新など4党の方が民主、公明両党より多い。自民党は今後、両党に「2合区」案への賛成を呼びかける方針だが、翻意すべきは自民党の方である。

選挙制度は党派を超えた合意の下に決めることが望ましい。数の力で「より劣る」案を押し通せば、国民の代表たる参院議員の正統性に傷がつく。

そもそも参院の選挙制度は衆院と重なり、政党色も強まっている。二院制の下で、衆院と参院がどう役割分担をすべきか。どんな選挙制度なら、衆院と異なる参院の存在意義を示せるのか。そんな議論を尽くしたうえで、両院の選挙制度をセットで見直すべきなのだ。

それなのに、数合わせに終始する選挙制度改革を、何度見せつけられてきたことか。

自らに甘く、合意形成の手間を惜しむ政治の姿勢がどれほどの政治不信を招いているか、厳に自覚すべきである。

読売新聞 2015年07月10日

参院選制度改革 「合区」の導入もやむを得ない

長年、国民に広く定着している都道府県単位の選挙区を見直す、大きな制度変更である。

自民党は、人口の少ない県と隣接県を1選挙区に統合する「合区」の導入を柱とする参院選挙制度改革案を決めた。今国会に公職選挙法改正案を提出し、成立を図る。来夏の参院選からの適用を目指す。

改革案は、維新の党など野党4党が主張していたもので、鳥取と島根、徳島と高知を「合区」とする。選挙区定数の配分も変更し、全体では「10増10減」となる。定数242は維持する。

これにより、「1票の格差」は2013年参院選の最大4・77倍から2・97倍に縮まるという。

選挙区選と全国比例選を組み合わせた現行制度の骨格を維持したままでの格差是正には、限界がある。最高裁が認定した「違憲状態」の解消には、限定的に合区を導入することはやむを得まい。

13年に始まった参院各会派の制度改革論議は、迷走が続いた。最大会派の自民党が、一貫して抜本改革に消極的だったためだ。

野党は強く反発した。与党の公明党さえ民主党と20県を10選挙区に統合する合区案で合意した。

孤立した自民党が党内に不満を抱えながらも合区を容認したのは、こうした各党の圧力に抗し切れなかったからだろう。

いったん合区で格差を是正すると、今後の改革も合区の拡大になる可能性が大きい。西岡武夫・元参院議長が提唱したブロック比例案やブロック大選挙区案の議論に後戻りできなくなりかねない。

注意すべきは、合区には弊害が少なくないことだ。

人口の少ない方の県から参院に代表を出せなくなる恐れがある。自民党や民主党は、隣接する両県から交互に候補者を擁立したり、もう一方を比例選で処遇したりするなどの調整が欠かせない。

合区により、固有の歴史や文化を持つ各都道府県の行政単位が揺らげば、選挙区選出議員の地域代表としての側面が弱まろう。

都市部と地方の人口格差が広がる中、投票価値の平等に固執し過ぎると、地方の声が国政に反映しにくくなるという懸念がある。

選挙制度改革では、長期的な視点に立った議論も進めたい。

衆院と差別化を図るため、憲法改正を前提に、専門的知識・経験を持つ人材を選挙を経ずに、推薦・任命する制度の導入なども検討に値するのではないか。

参院に求められる役割・機能についても論議を深めるべきだ。

産経新聞 2015年07月11日

参院選挙制度 理念なき合区で終わるな

都道府県の枠を超えた選挙区が、来夏の参院選から登場しそうだ。

参院の「一票の格差」是正で、維新の党など野党4党が取りまとめた「10増10減」案を、自民党が受け入れた。

「鳥取・島根」「徳島・高知」を2つの選挙区に合区する内容が含まれている。平成25年の選挙で4・77倍だった最大格差は、3倍前後に縮まるという。

県境を越える選挙区の導入は大きな変化といえる。「違憲状態」の判断を示してきた最高裁の要請にも応えようとするものだ。

だが、一部の選挙区同士を合区する方法に、理念や哲学はうかがえない。ひとまず格差縮小を図るための弥縫(びほう)策というしかない。

抜本的な選挙制度改革への歩みを止めてはならない。統治機構としての二院制をどうするかの議論を、併せて行う必要がある。

来年夏の参院選を控え、タイムリミットが近づいていた。合区を拒み続けてきた自民党が態度を改め、手つかずで次期選挙を迎える事態は回避できそうだ。

一方、自民党と連立を組む公明党は、格差が1・95倍となる「12増12減」案で民主党と合意した。他の野党と自民党が合意した案と比べ、合区は10に上り、格差を2倍未満にするなど、格差是正策としては優(まさ)っている。

だが、自民党は合区がさらに増えることは受け入れられない。公明党側は、自民党などの10増10減案は「違憲」と指摘している。

与党間で、土俵のルールを共に作れないのはおかしな事態だ。ぎりぎりまで調整すべきだ。

今年1月1日現在の住民基本台帳に基づく試算では、選挙区間の格差はさらに拡大している。

「合区」は、格差是正を根本的に解決する手段にはならない。人口動態によって、合区をさらに増やすことが必要になり、合区する選挙区の組み合わせを変える事態も予想される。

参院のあり方などの基本的な議論がおろそかにされた結果ともいえる。

与野党間の議論の過程では、ブロック制の採用なども提案された。都道府県の枠を超えた選挙区のあり方について、さらに検討を続ける必要がある。

間接選挙の導入など憲法改正を伴う改革も、参院の独自性や二院制のあり方を考える上で検討すべきなのはいうまでもない。

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