新国立競技場 これでは祝福できない

朝日新聞 2015年07月08日

新国立競技場 これでは祝福できない

不信がぬぐえないままの見切り発車だ。新国立競技場の建設を話し合う有識者会議がきのう、2520億円に膨らんだ計画を了承した。建設費や工期について、国民の懸念を代弁した意見もあったが、議論が深まることはなかった。

2020年東京五輪・パラリンピックの主会場は、国民が納得できるものでなければならない。財政再建が国政の重要課題となって、すでに負担増や給付の削減が国民生活に及ぶ。税金にせよ、寄付やスポーツ振興くじの収益を充てるにせよ、負担するのは国民だ。巨費を投じたあげく完成後の採算も怪しい公共事業を歓迎できるのか。

会議では、改築後50年間に必要な大規模改修費が基本設計時の656億円から1046億円に膨らむことがわかった。今の総工費に含まれない費用である。完成後の毎年の収支を、さらに悪化させる要因になる。

会議では、経費を抑えるどころか、仮設で整備するグラウンド近くの観客席を将来、可動式の常設席にする要望も出た。

会議は本来、何を議論するべきだったのか――。建築家の槇文彦氏らは、2本の巨大なアーチをやめ、一般的なデザインの競技場を設計し直すことで、建設費を1千億円安くできるという代替案を示した。実際はどうなのか、検証して現行計画と比べることだったはずだ。

事業主体の日本スポーツ振興センターの河野一郎理事長は、代替案を採用しなかった理由について、五輪招致時の国際公約など従来の主張を繰り返しつつ、自らの組織の限界に触れた。「我々のミッションは、あの形で作ること。やめる、やめないは文科省が決めたことだ」

責任は下村博文・文科相をはじめ、政治にある。計画には東京五輪・パラリンピックの大会組織委会長でもある森喜朗元首相が深く関わる。もはや、五輪招致でも先頭に立った安倍晋三首相の政治判断しか、方針転換の道はない。

サッカーの女子ワールドカップで準優勝したなでしこジャパンの活躍を見て、自分もボールをけりたいと思った少女は多かっただろう。そんな夢をかなえるには、身近にスポーツを楽しめる環境がいる。

文科相の描く財源の青写真によると、スポーツ振興くじの売り上げのうち、スポーツ環境の充実に振り向けるはずのお金も回して、建設費を賄うという。

国民の生活感覚とかけ離れて建てられたスタジアムでは、祝福されるべき祭典に汚点を残すことになる。

読売新聞 2015年07月09日

新国立競技場 代償伴う愚かで無責任な決定

財源のメドすら立たないまま、建設へと突き進む。あまりに愚かで、無責任な判断である。

2020年東京五輪のメイン会場となる新国立競技場を巡り、事業主体の日本スポーツ振興センター(JSC)の有識者会議が、2520億円を投じる建設計画を承認した。

JSCは近く、大手ゼネコン2社と契約を交わし、10月に工事を始めるという。ラグビーワールドカップに間に合わせるため、19年5月に完成させる予定だ。

工費は、基本設計時の1625億円から約900億円も増えた。五輪後に先送りした開閉式屋根の設置費などを加えれば、さらに膨らむ。財政難の中、12年ロンドン五輪のスタジアムの4倍以上も費用をつぎ込むとは、あきれる。

工費膨張の最大の要因が、2本の巨大アーチを用いた特殊な構造にあることは、はっきりしている。なぜ、コスト削減のために、基本構造を見直さなかったのか。いったん決まったら、止まらない公共事業の典型と言えよう。

類のないデザインだけに、工事が計画通りに進む保証もない。

有識者会議に出席した東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長や遠藤五輪相、舛添要一東京都知事らが着工にお墨付きを与えたことは、理解に苦しむ。

JSCのずさんで危うい対応をたしなめ、軌道修正するのが、本来の役割のはずだ。

工費や工期、工法を巡る迷走について、下村文部科学相は「責任者がはっきり分からないまま、来てしまったのではないか」と、とぼけている。JSCを所管する文科相こそが責任者だろう。

財源として確保できているのは、国費とJSCの基金、スポーツ振興くじ(toto)の売り上げの一部だけだ。合わせても工費の4分の1に満たない。

遠藤五輪相は8日、東京都としての工費負担を舛添知事に要請した。都民の税金を拠出する必要や法的根拠があるのかどうか、知事は慎重に判断せねばならない。

下村文科相は、命名権の売却収益も工費に充てる方針だ。国を代表する競技場に企業名などを冠することには、違和感を覚える。

新国立競技場の完成後も、維持管理に膨大な費用を要する。50年間に必要な大規模修繕費は、当初見込みの656億円から1046億円に跳ね上がるという。その財源は、どう捻出するのか。

東京五輪の「負の遺産」として、将来世代にツケを回すことは、決して許されない。

産経新聞 2015年07月09日

新国立競技場 この建設計画は無責任だ

総工費は際限なく膨らみ、財源の見通しも立たない。さすがにこの計画は無理ではないか。

2020年東京五輪のメーン会場となる新国立競技場のことだ。事業主体の日本スポーツ振興センター(JSC)は、総工費2520億円にのぼる建設計画について有識者会議の了承を得た。何をもって「了承」の答えが出たのか、理解に苦しむ。

開閉式屋根の設置費約168億円や、1万5千人分の仮設席の設置費などは総工費に含まれていない。工事期間中の平成29年4月には消費税率が8%から10%に上がる予定で、3千億円という途方もない数字もちらついている。

総工費は、昨年5月の基本設計で示された1625億円から大きく跳ね上がった。JSCは「新国立競技場の特殊性」で、765億円もの工費を上乗せせざるを得なくなったと言い訳する。

例えば2本のアーチで屋根を支える構造は工事の難度が高く、施工業者が限られ価格競争が働かない。高い技術を持った職人の確保も必要になる。建設資材や人件費の高騰が当初の予想をはるかに超えた。見通しが甘いだけで説明になっていない。

朝日新聞 2015年07月06日

新国立競技場 見切り発車は禍根残す

野放図に膨らんだ総工費。完成後にのしかかる巨額の改修費。問題山積の新国立競技場の計画について、政府と関係組織はあすにも有識者会合で着工のゴーサインを得る構えだ。

改めて、言う。このまま見切り発車してはならない。後世に残す国民の財産をめぐる議論はまったく尽くされていない。

責任者である下村文部科学相は先週、こう述べた。「(計画を見直すと)超法規的な対処をしないと間に合わない。間に合わない時にどう責任をとるのかというと相当リスクがある」

冷静に立ち止まって考えたい。工期が「リスク」とされるのは、数年後に迫る国際イベントすべてに間に合わせる計画を崩していないからだ。2019年のラグビー・ワールドカップ(W杯)と、その翌年の東京五輪・パラリンピックである。

もし、現行計画である二つのアーチを架ける斬新なデザインではなく、ごく一般的な設計ならば、どうなのか。

02年サッカーW杯の決勝が行われた横浜国際総合競技場(日産スタジアム)は、工事の契約から完成まで4年近くかかった。下村氏の言う「超法規的措置」は建築確認手続きなどの簡略化とみられるが、法治国家だけに限界がある。確かに、必ずしも工期に余裕は生まれない。

ただ、現行計画にもリスクはある。完成時期はすでに当初から2カ月延びて19年5月になった。下村氏は施工業者と厳しい調整を重ねたことを認めている。独特のデザインだけに難工事は必至で、今後も工期がずれる恐れがある。

これに対し、設計を一から見直す場合は、手続きや工程に要する期間について過去の事業の実績から目安がある。期間をどこまで短縮できるのか、国民にもわかるように必要なデータを公開して検証するのが筋だ。

その結果、五輪に的を絞ることで間に合うのならば、ラグビーW杯は別の主会場を検討するべきだ。W杯の成功に最善を期すのは当然だが、将来にわたり禍根を残す公共事業を引き換えとするわけにはいくまい。

総工費は最近、900億円増えて2520億円になった。下村氏の説明では、財源は国と東京都が500億円ずつ、競技場の命名権売却など民間から200億円、残りはスポーツ振興くじの収益などという構想だが、実現性の吟味を欠いた、つぎはぎ案と言わざるをえない。

もはや、事業主体の独立行政法人や、それを所管する文科省だけの問題ではない。政府全体の姿勢と判断が問われている。

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