産業革命遺産 祝賀に水差す韓国の政治工作

朝日新聞 2015年07月08日

世界遺産登録 「合意」踏まえ前へ進め

「明治日本の産業革命遺産」の世界文化遺産登録が決まり、8県にまたがる23資産のある地元は喜びにわいている。

だが、朗報は予定より1日遅れで届いた。「過去」をめぐる日韓の対立が、ドイツのボンで開かれた世界遺産委員会の場に持ち込まれたためだ。

世界遺産は、国境を超えて未来に伝える「人類共通の遺産」である。その審議を政治対立の場にしてしまった日韓両政府のふるまいは実に見苦しかった。

その原因は、一部の資産に朝鮮半島出身者が動員された事実をどう説明するかだった。

先月の日韓外相会談では、日本が徴用の事実に言及することで合意したが、委員会で韓国が「強制労働」と発言するかどうかをめぐり論争が再燃した。

結局、韓国が言及を控え、日本政府も、朝鮮半島出身者らが「意思に反して連れて来られ、厳しい環境の下で働かされた」と表明することで合意した。

日本政府は、韓国の今後の司法判断などに悪影響を及ぼしかねないなどとして、今も「強制労働ではない」と否定する。

だが、暴力的な動員や過酷な労働を強いた事実は多くの研究で証明されている。この問題に詳しい外村大・東京大教授は「意思に反したことが強制したこと。言葉のごまかしは国際社会では通じない」と指摘する。

一方の韓国政府も日本との対抗心をあおる韓国メディアを意識して、なりふりかまわぬ言動がめだった。具体的な被害者数を途中から使わなくなるなど根拠の不確かな主張もあった。

他の委員国が鼻白むほどだった論争の熾烈(しれつ)さは、外交関係が冷え込み、もはや互いを信頼することも難しくなっている現状を如実に示している。

強制労働をめぐる玉虫色の決着は、今後も摩擦の芽となる可能性が潜む。だが、苦い後味を残しはしたが、双方が最後は歩み寄って最悪の事態を回避できたのも事実だ。

日本政府は委員会で、「負の歴史」も踏まえた情報発信をすることを約束した。誠実に実行し、世界遺産を多面的な歴史を語る場にする責任がある。

登録決定後、議長国ドイツのベーマー議長は「我々は信頼がいかに大切かを目の当たりにした。信頼とは最も重要な『通貨』だ」と述べ、日韓双方をたたえた。

日韓は国交正常化50年という節目の年も折り返し、首脳会談の実現が視野に入ってきた。未来への継承という世界遺産の精神のもと、今回の騒動をバネに歩みを前に進めるべきだ。

読売新聞 2015年07月08日

産業革命遺産 祝賀に水差す韓国の政治工作

世界遺産への登録という日本の祝賀ムードに水を差す、韓国政府の執拗しつような政治工作だった。

「明治日本の産業革命遺産」が、国連教育・科学・文化機関(ユネスコ)の世界文化遺産に登録されることが、ドイツで開かれた世界遺産委員会で正式に決まった。

遺産は、19世紀半ばから20世紀初頭の製鉄・製鋼、造船、石炭産業の拠点が中心である。福岡県の官営八幡製鉄所や、「軍艦島」と呼ばれる長崎県の端島炭坑など、8県の23資産で構成される。世界に誇り得る遺産と言えよう。

残念だったのは、韓国政府が日本の遺産に関する「負の側面」を過剰に演出したことだ。

韓国は当初、大戦中に一部施設で朝鮮人労働者が徴用されていたとして登録に反対したが、6月の日韓外相会談で方針転換し、日本と協力することで合意した。

ところが、その後、韓国が委員会で、徴用について「『強制労働』だったと日本が認めた」との発言案を準備したことが判明した。施設を奴隷輸出港になぞらえる文言もあった。このため、日本側が抗議し、事前調整は難航した。

韓国は、徴用が「強制労働」であるかのような国際的な宣伝に力点を移したのだろう。文化財保護を目的とする場で、歴史問題での自国の立場強化を狙うのは、筋違いなロビー外交である。

日本が内地や朝鮮半島などで実施した徴用は、国民徴用令に基づき、国民全般が対象だった。多数の朝鮮人労働者が内地へ動員されたのは事実だが、国際法に反する「強制労働」とは異なる。

日本は委員会の声明で、徴用に関して「意思に反して連れて来られ、厳しい環境の下で働かされた多くの朝鮮半島出身者らがいた」と指摘した。韓国側に譲歩しつつ、「強制労働」とは一線を画する表現で折り合ったつもりだった。

だが、韓国の尹炳世外相は、これを逆手に取って「日本政府が『強制労役』があったと発表した」と語り、韓国紙も大きく報じた。結果的に、徴用の表現を巡って韓国にゴネ得を許し、日韓対立に火種を残したことは否めない。

1965年の請求権協定で、元徴用工を含めた請求権問題は法的に解決済みだ。韓国は、請求権問題に関連して日本の声明を利用しない、と伝えてきている。この問題を蒸し返すことはないのか。

今回の騒動で、日本国内の「嫌韓」感情はさらに高まった。日韓関係改善の機運にも、冷や水が浴びせられたのは間違いない。

産経新聞 2015年07月07日

世界遺産登録 喜びに水さす歴史介入だ

「軍艦島」として知られる端島(はしま)炭坑(長崎市)など「明治日本の産業革命遺産」の世界文化遺産登録が決まった。

登録は、非西洋の国で初めて近代化を達成した日本の歩みを伝える意義がある。8県23施設の関係者の喜びは大きい。

だが、決定をめぐり大きな禍根を残したと指摘せざるを得ない。遺産の意義とは無関係な朝鮮半島出身者の「徴用工」をめぐり、政府が、「一部の施設で強制労働させられた」という韓国側の主張への配慮を示したためだ。

安倍晋三政権として、韓国政府の史実を踏まえない要求に譲歩したことは否めない。歴史への不当な介入を許してはならない。

国連教育科学文化機関(ユネスコ)の委員会で、日本大使は、一部の施設について「1940年代に朝鮮半島などから多くの人々が意思に反して連れてこられ、厳しい環境で労働を強いられた」と述べた。「被害者を記憶にとどめる情報センター」を設置することも表明した。

だが、韓国側がいう強制労働との批判がそもそも誤りである。徴用は法令(国民徴用令)に基づいており、賃金支払いも定めた合法的な勤労動員である。むろん、日本人にも適用された。

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