ギリシャ国民は、自らの手で悲劇の幕を開けてしまったのだろうか。
欧州連合(EU)などが示した構造改革案の受け入れを巡るギリシャの国民投票で、反対が6割を超え、賛成を大差で上回った。
金融支援再開の条件であるEU案が退けられ、合意は一段と難しくなった。
ユーロ圏各国は7日の首脳会議で対応を協議するが、安易な妥協は自国民の反発を招きかねない。交渉の行き詰まりでギリシャが本格的な債務不履行(デフォルト)に陥り、ユーロ圏離脱を迫られるシナリオは現実味を増した。
チプラス首相が、国民投票の結果について「民主主義の勝利」と位置付けたのは、あまりに見当違いと言わざるを得ない。
そもそも、複雑な外交交渉の決断を、国民投票に丸投げした手法に大きな問題がある。
チプラス政権はEU側との交渉中に突如、国民投票を決めた。国民への周知期間は1週間ほどで、あまりに短かった。
反対票が多数を占めれば、EU側に譲歩を迫る強い交渉力が得られると唱え、国民に誤った期待を抱かせたことも看過できない。
ギリシャでは既に、銀行預金の引き出しが制限されている。欧州中央銀行(ECB)が緊急支援を打ち切れば、銀行の資金繰りが行き詰まる綱渡りの状況にある。
EU側との対立が激化した際のマイナス面を、国民に十分に説明しなかったのは無責任だ。
独自の通貨を発行し、資金不足をしのぐ選択肢もあるが、ユーロ圏離脱への第一歩を踏み出すことにつながる。信用力のない通貨が暴落し、生活必需品の多くを輸入に頼るギリシャが、深刻なインフレに見舞われる恐れもある。
国民をさらなる苦境に追い込んではなるまい。チプラス政権は反緊縮に拘泥せず、35億ユーロに上る国債の償還期限が来る7月20日までに現実的な妥協を図るべきだ。
EU側も、交渉の窓口を閉ざすことは得策ではない。
東京市場の平均株価が一時500円以上も急落するなど、金融市場に悪影響が広がっている。
スペインやイタリアで反EU政党が勢力を強め、ユーロの信認を揺さぶる懸念がある。安全保障上の要衝にあるギリシャがロシアや中国と関係を強め、地政学的なリスクが高まることも心配だ。
欧州発の危機を再燃させ、経済や政治の安定に深刻な打撃を与えないよう、EU側も事態打開に最善を尽くさねばならない。
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