拉致再調査1年 制裁の復活を突きつけろ

朝日新聞 2015年07月05日

拉致再調査 重い扉は開いたのか

北朝鮮が、日本人拉致被害者の再調査などにあたる特別調査委員会を発足させてから、1年の歳月が流れた。

昨年秋、北朝鮮は調査の報告を「1年程度を目標」にすると明らかにした。だが、今月2日になって「しばらく時間がかかる」と伝えてきた。

北朝鮮が誠実に調査にあたっているとは到底思えない。拉致は絶対に許すことができない人権侵害であり、強い憤りを禁じ得ない。

北朝鮮は、説得力がある報告を速やかに出すこと以外、日本との関係改善は望めないことを悟るべきである。

一方でこの1年を振り返ると不可解なことが多かった。

昨年5月、国交正常化に向かうための日朝合意が発表された後、菅官房長官は調査の最初の通報が「(昨年の)夏の終わりから秋の初めごろ」にあるとの認識を北朝鮮と共有している、と述べた。

だが通報はなく、あったのは「調査はまだ初期段階」という先送りの連絡のみだった。

さらに安倍首相は3日、「日朝間に合意された具体的な期間があるわけではない」と述べ、回答期限を北朝鮮と詰め切れていなかったことを認めた。

拉致問題は解決済みとする北朝鮮が再調査に踏み切ったとして、安倍首相は「重い扉をこじ開けた」と強調してきた。

だが調査開始から1年が過ぎたいま、本当に重い扉は開いたといえるのか。

現状の最大の責任が、北朝鮮の誠意なき対応にあることは言うに及ばない。

だが北朝鮮との対話再開にあたり、安倍政権はどんな成算を抱いたのか。なぜこれほどまでに成果がないのか。少なくとも被害者の帰国を待ちわびる家族たちには、それを丁寧に説明する必要がある。

再調査の開始を、家族らは期待と不安まじりのまなざしで見つめてきた。横田めぐみさんの母、早紀江さんは、この1年を「一番しんどく、つらい期間だった」と話す。政治はこの思いに応えられていない。

報告がなかったことを受け、北朝鮮制裁を強化すべきだとの声が自民党などから出始めた。だが北朝鮮に態度を硬化させる口実を与えるだけで、対話の芽を摘んでしまいかねない。

何よりもまず大事なのは、被害者たちの奪還である。

今回の日朝協議を「最後のチャンス」と見る家族もいる。感情や功名心にはやらず、北朝鮮の実情を冷徹に見極めて、結果を出す交渉にあたるべき時だ。

読売新聞 2015年07月03日

拉致再調査1年 対「北」圧力を戦略的に強めよ

北朝鮮のこれ以上の時間稼ぎは認められない。政府は、制裁の復活や拡大を視野に、日本人拉致問題の前進を北朝鮮に迫るべきである。

北朝鮮は昨年7月4日、拉致被害者らの再調査を開始した。期間は1年程度とし、調査状況の随時通報も約束した。

政府は見返りに、日朝の人的往来や北朝鮮籍船舶の入港などに関する制裁の一部を解除した。

しかし、いまだに被害者の安否情報などは示されていない。

不誠実極まりない対応である。被害者の早期帰国を念願する家族らの感情を踏みにじるものだ。

金正恩第1書記の就任から3年余がつ。最近も幹部や側近の粛清・更迭が続いており、体制固めはまだ不十分とされる。拉致問題で重要な政治決断をする環境にはないとの見方が出ている。

膠着こうちゃく状態をどう打開するのか。政府には、圧力を強めつつ、対話を通じて譲歩を引き出すという戦略的な取り組みが求められる。

調査が今後も進展しないなら、制裁の復活は避けられまい。

菅官房長官は、制裁に関して、「何が最も効果的か、不断の検討を行っている」と強調する。

自民党は6月下旬、北朝鮮への送金の原則禁止などの制裁強化案を安倍首相に提言した。こうした案も一つの選択肢となろう。

拉致問題に北朝鮮がどう対処するかを見極め、日本はそれに見合う措置を取る。「行動対行動」の原則を貫くことが重要である。

在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)は、競売で中央本部ビルからの退去を迫られたが、転売などを経て現状を維持している。その経緯には不可解さがぬぐえない。

北朝鮮産マツタケの不正輸入事件では、総連議長の次男が外為法違反で逮捕、起訴されている。法執行は厳格に行われるべきだ。

拉致を含む北朝鮮の広範な人権侵害について、国際社会の理解を広げる努力も欠かせない。

国連人権高等弁務官事務所は6月下旬、北朝鮮の人権状況を監視する現地事務所をソウルに開設した。北朝鮮をけん制するうえで、一定の効果が期待できよう。

北朝鮮は、核兵器開発と経済建設の「並進路線」を掲げる。5月には、潜水艦発射弾道ミサイルの水中発射に成功したと発表するなど、軍事的挑発も続けている。

日本は、米韓両国と緊密に連携し、北朝鮮に対する国際包囲網を崩さないことが肝要だ。拉致と、核・ミサイルを包括的に解決する基本方針を堅持したい。

産経新聞 2015年07月03日

拉致再調査1年 制裁の復活を突きつけろ

昨年7月4日、北朝鮮は拉致被害者らを再調査する特別調査委員会を立ち上げて調査に着手し、1年をめどに結果を報告すると約束した。

これを受けて日本政府は独自の制裁措置を一部解除した。娘を、息子をわが手に取り戻す、これが最後の機会になるかもしれないと、拉致被害者の家族も結果に期待をかけた。

その1年がたつ。「夏の終わりから秋の初め」とされた初回報告の約束も守られないまま、いたずらに時は過ぎ、表立った進展は全く見られない。

交渉の原則は「行動対行動」である。1年を経過して具体的報告が望めないなら、期限を切って解除した制裁を復活させ、新たな制裁を科すことを通告すべきだ。

最も残酷な拷問は、どん底にある対象者に希望を与え、これを断ち切ることだという。

肉親を理不尽に誘拐され、犯人が特定されても確たる安否を知らされていない家族は、再調査報告にいちるの望みをかけていた。横田めぐみさんの母、早紀江さんはこの1年を、「一番しんどい期間だった」と話した。

家族を悲しませているのは、北朝鮮の不誠実な対応である。拉致は国家による誘拐事件だ。被害者を人質に交渉材料とするようなまねは、到底許されない。

だが、このままずるずると1年を経過し、北朝鮮の回答を待ち続ける事態となれば、日本側の責任も大きい。

制裁の圧力なしに、北朝鮮は動かない。制裁の一部解除で、朝鮮総連の幹部は大手を振って日朝間を行き来している。対話の扉が閉じることを恐れるあまり、制裁の復活や強化を見送れば、相手の思うつぼではないか。

これほど重要な局面を迎えながら、「拉致」を論戦の重要課題としない国会も異常である。家族らの深刻な思いとの乖離(かいり)は、あまりに大きい。このままでは政治への失望を招くだけではないか。

いうまでもなく、北朝鮮は、自らさらった拉致被害者の現状については把握しているはずである。日本人配偶者や遺骨についての調査の進捗(しんちょく)状況は、報告引き延ばしの理由になり得ない。

家族が求めているのは、あくまで被害者の一括全員帰国である。その実現なしに北朝鮮に未来がないことを、制裁の復活、強化で知らしめるべきだ。

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