北朝鮮のこれ以上の時間稼ぎは認められない。政府は、制裁の復活や拡大を視野に、日本人拉致問題の前進を北朝鮮に迫るべきである。
北朝鮮は昨年7月4日、拉致被害者らの再調査を開始した。期間は1年程度とし、調査状況の随時通報も約束した。
政府は見返りに、日朝の人的往来や北朝鮮籍船舶の入港などに関する制裁の一部を解除した。
しかし、いまだに被害者の安否情報などは示されていない。
不誠実極まりない対応である。被害者の早期帰国を念願する家族らの感情を踏みにじるものだ。
金正恩第1書記の就任から3年余が経つ。最近も幹部や側近の粛清・更迭が続いており、体制固めはまだ不十分とされる。拉致問題で重要な政治決断をする環境にはないとの見方が出ている。
膠着状態をどう打開するのか。政府には、圧力を強めつつ、対話を通じて譲歩を引き出すという戦略的な取り組みが求められる。
調査が今後も進展しないなら、制裁の復活は避けられまい。
菅官房長官は、制裁に関して、「何が最も効果的か、不断の検討を行っている」と強調する。
自民党は6月下旬、北朝鮮への送金の原則禁止などの制裁強化案を安倍首相に提言した。こうした案も一つの選択肢となろう。
拉致問題に北朝鮮がどう対処するかを見極め、日本はそれに見合う措置を取る。「行動対行動」の原則を貫くことが重要である。
在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)は、競売で中央本部ビルからの退去を迫られたが、転売などを経て現状を維持している。その経緯には不可解さがぬぐえない。
北朝鮮産マツタケの不正輸入事件では、総連議長の次男が外為法違反で逮捕、起訴されている。法執行は厳格に行われるべきだ。
拉致を含む北朝鮮の広範な人権侵害について、国際社会の理解を広げる努力も欠かせない。
国連人権高等弁務官事務所は6月下旬、北朝鮮の人権状況を監視する現地事務所をソウルに開設した。北朝鮮をけん制するうえで、一定の効果が期待できよう。
北朝鮮は、核兵器開発と経済建設の「並進路線」を掲げる。5月には、潜水艦発射弾道ミサイルの水中発射に成功したと発表するなど、軍事的挑発も続けている。
日本は、米韓両国と緊密に連携し、北朝鮮に対する国際包囲網を崩さないことが肝要だ。拉致と、核・ミサイルを包括的に解決する基本方針を堅持したい。
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