新幹線放火殺人 利便性損ねずに再発防ぎたい

朝日新聞 2015年07月02日

新幹線放火 安全対策見直す契機に

日本の大動脈で、とんでもない惨事が起きた。神奈川県内を走行していた東海道新幹線「のぞみ」での火災だ。

71歳の男がガソリンをかぶって焼身自殺し、巻き添えで乗客の女性(52)が亡くなった。26人が重軽傷を負い、43本の列車が運休した。

国土交通省は、64年の東海道新幹線開業後で最初の列車火災事故と認定した。事故で乗客が死傷したのも初めてだ。

定時運行と事故の少なさから、新幹線は日本の安全の象徴といわれる。車内で油をまき火を付けるという行動はおよそ予測しがたい。だが、被害が出た以上、国と鉄道各社は事実関係を調べ、安全対策に改善の余地がないか、考えるべきだ。

人が悪意で起こす行為を、未然に防ぐことは難しい。

スペインと英国では04~05年に列車爆破テロがあり、多数の犠牲者が出た。海外の事件を受け、日本の鉄道もテロを想定した対策を進めてきた。

東海道新幹線では、新型車両のデッキに防犯カメラを設置した。乗務員や警備員が車内を巡回して不審物をチェックしているほか、警察との合同訓練も実施してきた。

だが結果として、今回の事態は防げなかった。

欧州の一部の国や中国では、列車の乗客の手荷物を乗車前に検査している。ただ新幹線は海外より運行本数が際立って多い。東海道新幹線は1日42万人が利用し、1時間に最大15本が発車する。空港並みの手荷物検査をするには要員や場所の確保にコストがかかり、乗客の利便性もそこなわれる。

駅や車内の警戒をこれまで以上に強め、疑わしい荷物は念入りに中身を確かめる。そうした日常の警備できめ細かく目を光らせるのが現実的だろう。

警察と協議し、より抑止効果が高いやり方を考えてほしい。

日本の鉄道は、72年の北陸トンネル火災事故や、03年に韓国・大邱(テグ)で192人が死亡した地下鉄放火事件を踏まえ、燃えにくい車両づくりに取り組んできた。今回も新幹線の車両全体が炎上することはなかった。一方、女性の死因は気道熱傷で、煙や熱気を吸ったとみられる。

新幹線の乗務員は、乗客が押した非常ブザーで異変に気づいたという。放火されても人的被害を最小限に抑えるため、煙感知器の設置や、排気設備の強化など、ハード面での改良も検討していく必要がある。

新幹線は多くの国民の日常の足だ。痛恨の被害を、より一層の安心につなげてもらいたい。

読売新聞 2015年07月02日

新幹線放火殺人 利便性損ねずに再発防ぎたい

乗客の利便性を損ねずに、再発防止を図る。難しい課題が浮き彫りになったと言える。

走行中の東海道新幹線の列車内で、男が焼身自殺した。巻き添えで乗客の女性が死亡した。救急搬送された乗客は26人に上った。

新幹線内での火災発生は初めてである。半世紀余りにわたり、高い安全性を誇ってきた新幹線で、たまたま乗り合わせた乗客が死亡した衝撃は大きい。

神奈川県警は殺人と現住建造物等放火の容疑で捜査している。男が犯行に至るまでの行動の解明が焦点になる。

火災発生後の乗務員の対応は、おおむね適切だったようだ。

運転士は列車を緊急停止させた後、備え付けの消火器で即座に消火活動にあたった。車掌が乗客を後方の車両に避難誘導したのも、マニュアル通りの行動だった。

車両の床面やシートには、燃えにくい素材が用いられている。こうした防火対策が被害の拡大を防いだ面もあろう。

一方、女性が逃げ遅れた理由については、検証が必要である。

排煙装置が車内にないことが、煙の充満を招いたとの見方もある。設備面で改善の余地はないのか。事件の教訓を安全性の向上に生かさねばならない。

男は、油のような液体の入ったポリ容器をリュックサックから取り出して、犯行に及んだ。

危険物の持ち込みを防ぐには、空港のように、乗客一人一人の手荷物検査を実施するしか手立てはないだろう。

しかし、旅客機と異なり、発車間際に駅に着いても乗れる利便性が、新幹線の売り物である。1000人以上を乗せ、ピーク時には3分間隔で正確に運行する新幹線に手荷物検査を導入するのは、現実的ではあるまい。

JRと警察が連携を強め、ホームや車内の巡回の頻度を高めることが求められる。

東海道新幹線の大半の車両では、デッキに監視カメラが設置されているが、客室内は撮影していない。映像は原則として、トラブルなどがあった際の事後チェックに利用しているという。

犯罪の抑止効果を高めるため、設置箇所を増やすことも検討すべきではないか。

国内では、来年5月に主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)が開かれる。2020年東京五輪・パラリンピックも控えている。

テロなど不測の事態を想定した対策が急務である。

産経新聞 2015年07月02日

新幹線火災 乗客の協力が惨事を防ぐ

東海道新幹線は昨年、開業50周年を祝った。国土交通省によれば、開業後初めての、新幹線の列車火災事故である。

71歳の男が走行中の車内で可燃性の油をかぶって焼身自殺し、巻き込まれた女性も亡くなった。26人が救急搬送され、ダイヤは大きく乱れた。

神奈川県警が殺人と現住建造物等放火容疑で調べている。「世界一安全な乗り物」といわれる新幹線だが、悪意の犯行を防ぐ手立ては難しい。来年に主要国首脳会議(サミット)、5年後には東京五輪の開催を控え、テロの標的となる恐れもある。事件は、どんな教訓を残したか。

今回の事件ではまず、無関係な乗客を巻き込んだ身勝手な犯行を憎むべきだ。一方で悲惨な状況下にあって、運転士は前後のトンネルを避けて列車を停止させ、自らも負傷しながら消火した。

乗客らは混乱の中でパニックに陥らず、互いに助け合いながら後方の車両に移動した。こうした勇気ある冷静な行動がなければ、被害はさらに拡大したろう。

延焼を最小限にとどめ、煙を遮断することができたのは、2003年の韓国大邱市の地下鉄放火事件や04年のマドリードの列車爆破事件の教訓を経て、車両間のドアや天井、座席などの素材改良を進めてきた成果でもある。

事件は未然に防げなかったか。JRは3キロを超えるガソリンなどの持ち込みを禁じているが、容疑者は約10リットルのポリタンクをリュックサックに入れて乗車した。

発見には空港並みの手荷物検査が有効だろうが、東海道新幹線は1日約42万人の乗客を運ぶ。一人一人の検査を実施すれば長蛇の列を生み、現実的ではない。乗客の利便性と100%の安全を両立させることは極めて困難だ。

当面は乗務員による見回りの強化や防犯カメラの増設、集中管理を進めたい。五輪など厳重警備の実施期間には警察官、警備員を増強する「見せる警備」も必要だろう。爆発物や可燃物を機械的に検知できるゲートシステムの開発や、探知犬の育成などにも効果を期待したい。

いずれも一般乗客の理解を必要とする。今回の事件では乗客同士の避難誘導などが被害の拡大を防いだ。乗客一人一人の目と行動に期待をこめて、普段から緊急時の行動について協力を求める車内アナウンスを徹底してはどうか。

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