乗客の利便性を損ねずに、再発防止を図る。難しい課題が浮き彫りになったと言える。
走行中の東海道新幹線の列車内で、男が焼身自殺した。巻き添えで乗客の女性が死亡した。救急搬送された乗客は26人に上った。
新幹線内での火災発生は初めてである。半世紀余りにわたり、高い安全性を誇ってきた新幹線で、たまたま乗り合わせた乗客が死亡した衝撃は大きい。
神奈川県警は殺人と現住建造物等放火の容疑で捜査している。男が犯行に至るまでの行動の解明が焦点になる。
火災発生後の乗務員の対応は、おおむね適切だったようだ。
運転士は列車を緊急停止させた後、備え付けの消火器で即座に消火活動にあたった。車掌が乗客を後方の車両に避難誘導したのも、マニュアル通りの行動だった。
車両の床面やシートには、燃えにくい素材が用いられている。こうした防火対策が被害の拡大を防いだ面もあろう。
一方、女性が逃げ遅れた理由については、検証が必要である。
排煙装置が車内にないことが、煙の充満を招いたとの見方もある。設備面で改善の余地はないのか。事件の教訓を安全性の向上に生かさねばならない。
男は、油のような液体の入ったポリ容器をリュックサックから取り出して、犯行に及んだ。
危険物の持ち込みを防ぐには、空港のように、乗客一人一人の手荷物検査を実施するしか手立てはないだろう。
しかし、旅客機と異なり、発車間際に駅に着いても乗れる利便性が、新幹線の売り物である。1000人以上を乗せ、ピーク時には3分間隔で正確に運行する新幹線に手荷物検査を導入するのは、現実的ではあるまい。
JRと警察が連携を強め、ホームや車内の巡回の頻度を高めることが求められる。
東海道新幹線の大半の車両では、デッキに監視カメラが設置されているが、客室内は撮影していない。映像は原則として、トラブルなどがあった際の事後チェックに利用しているという。
犯罪の抑止効果を高めるため、設置箇所を増やすことも検討すべきではないか。
国内では、来年5月に主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)が開かれる。2020年東京五輪・パラリンピックも控えている。
テロなど不測の事態を想定した対策が急務である。
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