骨太方針 「二兎」追う道筋を見せよ 成長への過大な期待許されぬ

読売新聞 2015年07月01日

骨太方針決定 アベノミクスを深化させよ

◆成長と財政再建の両立が肝心だ◆

脱デフレを確実にするとともに、人口減少に対応して日本経済の成長力を底上げする。

そのためには、経済政策「アベノミクス」をさらに深化させる必要がある。

政府が、「経済財政運営と改革の基本方針」(骨太の方針)と、成長戦略「日本再興戦略」の第3弾を閣議決定した。

民間活力を引き出す規制緩和などで高い成長を実現し、財政赤字の解消や社会保障制度の再構築など構造問題の解決を図る。経済成長と財政再建の二兎にとを追う基本戦略を堅持したのは妥当である。

◆生産性の向上に軸足◆

安倍首相は、骨太方針と成長戦略を取りまとめた経済財政諮問会議で、「経済財政の一体改革を、不退転の決意で断行していく」と強調した。

アベノミクスの効果で、景気は緩やかに回復している。

だが、デフレ脱却は道半ばだ。「失われた20年」に確実に終止符を打つには、「3本目の矢」の成長戦略を加速し、日本経済の基礎体力を強化することが重要である。

今回の成長戦略は、需要不足の解消に重きを置いてきたアベノミクスが、人口減少など供給面の制約の克服を目指す「第2ステージ」に入ったと位置付けた。

労働力が減少する中で成長を続けるには、生産性向上が欠かせない。民間企業による設備、技術、人材への投資拡大による「生産性革命」によって、稼ぐ力を高める方向性は適切だろう。

成長の主役はあくまで民間企業である。経営者による「攻め」の決断を後押しする政策支援を、さらに拡充することが大事だ。

戦略には、企業に投資を促すため、官民の対話の場を設けることが盛り込まれた。時宜にかなった対応と言える。

大幅な賃上げにつながった政労使会議のように官民が連携し、好循環経済を目指す手段として有効に活用したい。

◆規制緩和の深掘りを◆

ただ、成長戦略の策定は、3年目に入ったこともあり、全体に施策が小粒な印象は拭えない。

解雇を巡る金銭解決制度の導入や一般住宅を宿泊施設として活用する「民泊」の解禁なども、検討方針を示すにとどまった。

共通番号(マイナンバー)の利用範囲拡大や、職業訓練の充実など、既存政策の延長線の域を出ないメニューも並んだ。

イノベーション(技術革新)を担う人材の育成を目指す「特定研究大学」や、産学連携で人工知能などの専門人材を集める「卓越大学院」の創設は、着想は悪くないが、肝心の中身が不透明だ。看板倒れにならないだろうか。

実効性が高まるよう、具体策を練り、強力に推進することが求められる。

過去2回の成長戦略は、法人税実効税率引き下げに道筋をつけたほか、農業、労働、医療などの分野で岩盤規制の改革に着手し、一定の成果を上げた。

しかし、検討過程で各府省や業界団体の抵抗を受け、改革が中途半端になったり、先送りされたりしたケースも多い。企業の農地所有の解禁などが典型だ。

規制緩和を先行的に導入する「国家戦略特区」についても、経済界から進捗しんちょくが遅すぎるとの指摘が出ている。

成長戦略や規制改革は、そもそも長い時間と手間がかかる取り組みである。

目新しさを追うより、一度は手をつけたものの、積み残しになった課題を真剣に洗い直し、地道に実現を図るべきだ。

中長期的な成長力の向上には、財政再建も避けて通れない。

健全な財政基盤がないと、景気悪化などへの機動的な政策対応が困難になる。

◆歳出削減が物足りない◆

今回の骨太方針に盛り込まれた財政健全化計画は、実質2%という高成長率が実現し、税収が大幅に増えることを前提としている。このため、肝心の歳出削減は、踏み込み不足に終わった。

最大の焦点である社会保障費の抑制策も、検討課題の列挙にとどまった。給付削減や負担増に必要な制度改正の時期や内容を明示していないのは問題だ。

痛みを伴う改革の必要性を国民に正直に訴え、理解を得ることこそが、政治の責任である。安倍首相の指導力が問われる。

夏以降、2016年度予算案の編成作業が本格化する。歳出削減の具体策を積み上げ、財政再建へ着実な一歩を踏み出せるかどうかが、その試金石となろう。

産経新聞 2015年07月01日

骨太方針 「二兎」追う道筋を見せよ 成長への過大な期待許されぬ

極度に悪化した財政を立て直すことは、経済を安定的に発展させるために欠かせぬ基盤である。

その道筋として政府の「骨太方針」が基本に据えたのは、経済再生と財政健全化を両立させる「二兎(にと)を得る道」の追求だ。

民間企業の投資や人材育成を促して生産性を高め、持続的な成長を果たす。それに伴う税収増を財政収支の改善につなげる。この方向性は妥当といえよう。

問題は実現可能性である。骨太方針は歳出改革に踏み込まず、成長頼みに過ぎている。その成長戦略も、3%以上の名目成長率を目指すのに十分なのか。

≪首相は改革の覚悟語れ≫

「二兎を追う」には、一兎も得られないことを警告する寓意(ぐうい)がある。それは極めて困難な道だと認識しなければならない。問われているのは、政治の責任で政策を確実に実行する覚悟だ。

折しも、東京五輪のメーン会場である新国立競技場の総工費が基本設計時より900億円も膨らんだ。消費税負担が増すなか、こんなことを繰り返すようでは財政への国民の信任は得られまい。

財政の厳しさを国民に丁寧に説明し、痛みを伴う改革の必要性を絶えず語ることも大切だ。

ギリシャでは、国民に聞こえのいい「反緊縮路線」を崩さないチプラス政権のもと、財政危機で国民経済が大混乱に陥っている。安倍晋三首相にはこれを他山の石としてもらいたい。

骨太方針は平成32年度までの財政健全化計画が最大の柱だ。首相が昨秋、消費税率を10%に引き上げる時期を29年4月に延期した際に策定を表明した約束である。

1千兆円超の債務残高を抱える日本の財政は、言うまでもなく先進国で最悪だ。借金返済がかさめば、本来使うべき予算にもしわ寄せがいく。今は超低金利だが、成長に伴って金利が上昇すれば利払い費も膨らむだろう。

しかも高齢化に伴う社会保障費の膨張はさらに本格化する。32年度の基礎的財政収支の黒字化目標は一里塚にすぎず、その後を見据えて今から改革を急ぐべきだ。

計画は、歳出抑制の「目安」として今後3年の歳出増を1・6兆円にとどめると明記した。

目標の明記は数字ありきの削減につながる懸念があり、当初は見送る方向だったが、何の数値もないようでは緩みが生じかねないと判断したようだ。重要なのは、実態を無視した機械的な削減に陥らないよう留意しつつ、毎年の予算で改革の成果を着実に積み上げることだ。

それには、計画で個別改革に具体性を持たせるべきだったが、この点は不十分だといえよう。

社会保障分野は、支払い能力に応じて負担を求めるなど、痛みを伴う改革が避けられない。計画には、豊かな高齢者に負担を求める仕組みや、外来時の定額負担などの検討項目を羅列したが、結論を得るべき時期すら明示していない。これでは計画というより、論点整理である。

≪地方の別枠加算終了を≫

地方財政も同様だ。リーマン・ショック後に自治体の財源不足を補うため導入した地方交付税の別枠加算などは制度の存続すら疑問だが、計画は「危機対応モードから平時モードへの切り替えを進めていく」と記すにとどめた。地方創生が重要なら、リーマン後の特別措置を廃止した上で、改めて必要な事業に配分すればいい。

景気が悪いときは財政で支え、好転すれば財政再建に取り組むのが本来の姿だ。骨太方針は、今の経済について「四半世紀ぶりの良好な状況」と指摘した。ならば歳出改革をもっと本格化させるべきだが、実際には計画は成長に伴う税収増への期待が顕著だ。

何よりも前提の経済成長率を名目3%、実質2%としたのは楽観的すぎる。日本の潜在的な成長率は0%台にすぎない。名目1%台半ばと堅めの前提を置けば、7兆円も多い収支改善が必要だ。

2年後の消費税率10%への引き上げで景気が悪化すれば、計画どころではなくなるはずだ。政策目標で高めの成長を目指すのはわかるが、財政再建はもっと慎重にみるべきだった。

その上での成長戦略である。法人税実効税率の20%台への引き下げなど道半ばの課題を確実に進展させたい。安全性が確認された原発の再稼働によるエネルギーの安定供給も成長の基盤となろう。

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