新国立競技場 混乱収拾へ首相の出番だ

朝日新聞 2015年07月02日

新国立競技場 公共事業として失格だ

東京五輪・パラリンピックの主会場となる新国立競技場は、公共事業として失格だ。

総工費2500億円余り。3年前のロンドン五輪の主会場の4倍近いという、その巨額ぶりだけが問題なのではない。

事前の丁寧な説明と合意づくり、完成後もにらんだ長期の手堅い収支計画など、現代の公共事業に求められる基本がまったく尽くされていない。

日本は高度成長期を中心に道路や橋、上下水道などのインフラ、体育館や公民館といった施設を次々と造ってきた。それらが今、一斉に更新期を迎えている。少子高齢化と財政難のなかで国や自治体は集約しつつ維持しようと必死だが、財源確保に苦しんでいるのが実情だ。

そこから学んだ教訓は何だったか。

計画段階から情報を公開し、市民とともに議論する。費用対効果、受益と負担を厳しく見積もって投資の是非を判断する。将来の大規模改修費を織り込むことも当然欠かせない……。

ところが新競技場は、「失敗する公共事業」そのものだ。

巨大な2本のアーチを組み込むデザインを根本から見直し、一般的な競技場と同じ構造に改めると、工期や総工費はどう変わるのか。国際コンペで採用した著名建築家との契約を破棄すれば、違約金など追加負担はいくらになるのか。国民が知りたい情報は伏せられたままだ。

事業主体の独立行政法人、日本スポーツ振興センターが立てた収支計画は、すでに破綻(はたん)している。様々な事業や経費を積み上げて年に3億円の黒字と皮算用するが、これには将来の大規模改修費が含まれていない。

センター自身がはじいた改修の必要額は、50年間で約650億円。単純にならせば年13億円で、これだけで赤字転落である。年700万円のVIPルームを約50室販売し、大規模コンサートを年12回開くという計画にも、楽観的すぎるとの指摘が絶えない。

そもそも総工費の見積もり自体が迷走を重ね、開閉式の屋根を後回しにしてもなお、コンペ時点からほぼ倍増した。資材などの高騰で今後もさらに膨らむのは必至だ。

国の借金が1千兆円を超える財政難と向き合うには、歳出の絞り込みと負担増という、痛みを伴う改革が避けられない。こんなずさんな事業を許すようでは、国民は納得どころか反発するばかりだ。

政府に危機感はないのか。現行の計画は白紙に戻し、一からやり直すしかない。

読売新聞 2015年06月30日

新国立競技場 工費圧縮へ設計から出直せ

2520億円もの巨費を投じることに、果たして国民の理解を得られるのだろうか。

下村文部科学相が、新国立競技場の建設計画の見直し案を公表した。建設費は、基本設計時の1625億円を約900億円も上回る額となった。

ラグビーワールドカップ(W杯)の開幕4か月前となる2019年5月に完成する予定という。

2本の巨大アーチで開閉式屋根を支える特殊構造は、工費が膨らむ主因とされながらも、変更に至らなかった。

開閉式屋根を設けるのは、工期の関係から、20年の東京五輪後に先送りされる。屋根の設置費を除いても、これほどの額を要するとは、驚かされる。巨大アーチを用いる構造そのものを取りやめる選択肢はなかったのか。

国内の著名建築家は、工費を抑え、ラグビーW杯にも間に合う代替案を示していた。下村氏は「間に合う可能性もないわけではない」と語った。それならば、大胆な見直しを決断すべきだ。

東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長は、斬新なデザインが国際オリンピック委員会(IOC)から「大きな評価と期待」を得たと強調し、現行デザインでの建設に固執する。

しかし、メインスタジアムに巨費を投じることは、開催費用の削減を図るIOCの五輪改革の流れに逆行するだろう。しき前例を作れば、財政事情を理由に、五輪開催に尻込みする都市が出てくるかもしれない。

財源確保のメドが立たぬまま、見切り発車する下村氏の姿勢も問題である。建設費には、国費のほか、事業主体の日本スポーツ振興センター(JSC)が運用する基金を取り崩して、振り向ける。

スポーツ振興くじ(toto)の売り上げのうち、競技場建設に充てる割合は、現行の5%から10%に引き上げられる見通しだ。

東京都にも、500億円超の負担を改めて要請する。

ただし、こうした措置を合わせても、2520億円に及ばないのは明らかだ。下村氏は、寄付など「民間の協力もいただく」と述べたが、目算が甘すぎる。

JSCが12年に総工費1300億円を想定して国際コンペを実施して以降、建設費が何度も大きく変動する迷走には、あきれるばかりだ。JSCと、所管の文科省の責任は重い。将来に禍根を残さぬよう、徹底検証が必要である。

新国立競技場を東京五輪の「負の遺産」にしてはなるまい。

産経新聞 2015年06月28日

新国立競技場 混乱収拾へ首相の出番だ

五輪を開催する上で、メーン会場は開催国の国情を映す鏡になる。

新国立競技場(東京都新宿区)の建設をめぐる国や都の混乱は、2020年東京五輪・パラリンピックの開催能力に大きな疑問符をつける問題であることを、改めて指摘したい。

建設費は当初の予定を約900億円上回り、約2500億円に膨らむ見通しだ。事業主体の文部科学省は近く建設業者と工事契約を結ぶ方針だが、建設費の一部負担をめぐる国と東京都との対立に出口は見えない。

混乱を収めるには、この国家プロジェクトの責任者である安倍晋三首相が前面に出て、関係機関や国民に理解を求めるしかないのではないか。

開閉式屋根の設置先送りや、観客席の一部仮設化など、相次ぐ計画変更には国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長も懸念を示している。

20年五輪の招致に際し、IOCに「安心、安全、確実」な大会運営を約束し、「日本にやって来るアスリートにも責任を持っている」と強調したのは、他ならぬ安倍首相である。

新国立競技場の計画を前進させて世界の信頼や、招致時にみられた国内の一体感を、一刻も早く取り戻してほしい。

約500億円とされる都の一部負担に舛添要一知事が慎重なのは、住民監査請求を意識してのことだ。都側の懸念をぬぐうためにも、国は建設費や一部負担額の根拠を開示する必要がある。

将来、同じ問題を繰り返さないため、今回の混乱の経緯を検証し、責任の所在を明らかにすることも当然である。

日本の首都に国際規格を備えたナショナル・スタジアムを構え、世界的な国際競技大会を開く。そんな国民やスポーツ界の願いが、新国立競技場の出発点にあることを忘れてはならない。大観衆の大歓声は、競技に一層の感動や興奮を与える。

「新国立」を五輪に間に合わせることは、国民の願いをかなえると同時に、日本の力を世界に示すことにもなる。

「東京に任せてよかった」と世界をうなずかせることは、「信用」という遺産となって20年以降の日本を支えるだろう。その説明を尽くせば、国民や都民の理解も得られるはずだ。

朝日新聞 2015年06月29日

新国立競技場 新たな選択肢で出直せ

後世に残す国民の巨大な財産を、こんな「どんぶり勘定」で造ってはならない。ここは一度立ち止まって出直すべきだ。

2020年東京五輪・パラリンピックの主会場となる新国立競技場の計画が迷走している。文科省などがゼネコン2社と結ぶ契約額が、また一気に跳ね上がることが明らかになった。

総工費2520億円。基本設計段階から約900億円も膨らみそうだ。12年ロンドン五輪の主会場の4倍近くにのぼる建設費は、野放図に過ぎる。

文科省の所管で建設を担う独立行政法人、日本スポーツ振興センター(JSC)の見立てがあまりに甘い。国際コンペで採用したザハ・ハディド氏の案では、当初予算1300億円だったものが3千億円になる試算が出たため昨年春、延べ床面積を2割減らして1625億円に抑えたはずだった。それからわずか1年。資材などの高騰で説明できる誤差ではない。

しかも、売り物だった開閉式屋根の設置を先送りし、1万5千席分の可動式席もやめて仮設にする節約をしたうえで、この金額だから驚く。

建築費を押し上げ、工期が延びる元凶と専門家から批判されるのが、屋根を支える2本の巨大なアーチ構造だ。

今月に入り、建築家の槇文彦氏らが、アーチを造らない一般的な工法での代替案を示した。工期を短縮でき、1625億円に収まるプランだという。

それでもJSCは、現行案に固執しているようだ。その理由の一つは、設計をやり直すと19年秋にあるラグビー・ワールドカップに間に合わないとされる点だ。しかし、槇氏らの案では工期は間に合うとしている。

JSCは、ハディド氏の案が五輪の招致に貢献した点にもこだわっているようだが、重要なのは今後の有効活用だ。国際オリンピック委員会(IOC)も、開催都市にとって有益な遺産となることが大切という理念を打ち出したばかりだ。

文科省とJSCが早急にやるべきなのは、議論を国民にオープンにする形で、冷静な選択肢を示すことだ。限られた予算と工期の中で何ができ、何ができないのか。五輪後の維持費をどう賄うのか。ハディド氏も含む幅広い専門家らの知恵を集めて代替案を練り直す時である。

時間切れを理由にした見切り発車は五輪のイメージを傷つけるだけでなく、将来世代に負の遺産を残す。透明な手続きと合理的な計画で国民が納得した事業を完遂することこそが、五輪の「レガシー」となろう。

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