難航する環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉の合意につなげる弾みとしてほしい。
米議会が大統領に通商交渉権限を委ねる貿易促進権限(TPA)法案が上下両院で可決した。
これがなければ、TPP交渉が妥結しても、米議会に中身の修正を迫られる恐れがあった。各国が合意の前提と位置づけたTPAの成立は、大きな前進である。
交渉は最終局面に入る。残る対立点は各国とも政治的に譲りにくい難題ばかりだが、大胆に歩み寄る決断のときだ。とくに米国と日本は、今度こそ、交渉を主導すべき経済大国としての責務を果たさねばならない。
交渉に参加する12カ国は7月下旬に閣僚会合を開き、大筋合意を目指す方向だ。ここで足踏みするようでは交渉機運が急速に萎(しぼ)みかねない。遅れを許さぬ強い覚悟を共有することが肝要である。
そのためにも、日米両国は農産物や自動車部品などの関税をめぐる2国間協議を早急に決着させるべきだ。これまでは日米対立が交渉全体を停滞させる要因だった。その繰り返しは許されない。
米国は、新薬データの保護期間をめぐる知的財産分野などで新興国とも対立している。米国を除く各国には、強硬一辺倒だった米国の軟化に期待もあろうが、ここは予断を持つべきではない。
TPA法は農産物関税や知的財産保護などで米国が安易に妥協しないよう求めている。そこに米国がこだわり、歩み寄りの難しさがはっきりする事態もあり得る。
経済連携交渉は国益のぶつかり合いだ。TPPのような巨大協定で、複雑な連立方程式を解くような困難さが伴うのは当然だ。
それを乗り越えるため、日本政府は国民への説明に万全を期してほしい。交渉の状況がみえぬまま妥結しても理解は得られまい。
同時に、TPPの意義を再認識する必要があろう。TPPは21世紀にふさわしい新たな貿易・投資の枠組みを作る野心的な試みだ。経済、軍事両面での中国の台頭を踏まえ、新たな秩序をどう築くかという戦略でもある。
巨大な経済連携を構築する動きは世界の潮流であり、その先頭を走るTPPこそが国際標準になる可能性も高い。それは日本にかぎらず、各国が持続的に成長するための基盤となろう。そんな大局的な視点での交渉を期待する。
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