安保法案 違憲の疑いは晴れない

朝日新聞 2015年06月23日

安保法案 違憲の疑いは晴れない

これで安全保障関連法案の違憲の疑いは晴れた――。安倍政権がそう考えているとしたら、間違いだ。

衆院の特別委員会はきのう、憲法や安全保障の5人の専門家から法案への意見を聞いた。

安倍首相の私的諮問機関・安保法制懇のメンバーだった西修・駒沢大名誉教授は「限定的な行使容認であり、明白に憲法の許容範囲内だ」と述べた。

西氏の主張は、日本は集団的自衛権を認めた国連憲章を受け入れており、憲法も明確に否定してはいないというものだ。

ただ、歴代の自民党内閣は一貫して「憲法上、集団的自衛権の行使は認められない」との解釈をとり、西氏ら一部の憲法学者の主張を否定してきた。

先の衆院憲法審査会でも、長谷部恭男・早大教授ら3人の憲法学者がそろって、すでに確立している政府の憲法解釈を時の内閣が一方的に変更してしまうことのおかしさを指摘した。

自民党にすれば、法制懇にいた西氏によって長谷部氏らの違憲論による衝撃を打ち消したかったのだろう。しかし、その後の党内の動揺を見せつけられた後では、説得力は乏しい。

きのうの特別委では、2人の元内閣法制局長官も、政府の解釈変更を批判した。

阪田雅裕氏は「集団的自衛権の限定的な行使が、これまでの政府解釈と論理的に全く整合しないものではない」と一定の理解を示しつつ、ホルムズ海峡での機雷除去については「限定的でも何でもない」と指摘。「歯止めをなくして、日本が戦争をするかどうかを政府の裁量や判断に委ねていいと考えている国民は誰もいない」と語った。

宮崎礼壹氏も「確立した憲法解釈を政府自身が覆すのは、法的安定性を自ら破壊するものだ」と断じた。

こうした指摘に対し、安倍首相はその後の参院決算委で「その時々の国際情勢への対応をどうすべきか。これを考え抜くことを放棄するのは、国民の命を守り抜くことを放棄するのに等しい」と反論した。

だからといって、時の政府の裁量で憲法の歯止めを外していいことには決してならない。首相の言い分はあまりに乱暴だ。

政権は、国会会期を9月27日まで延長することを決めた。通常国会の延長幅としては、戦後最長となる。異例の大幅延長は、法案が合憲だと国民を説得することに自信を持てないことの裏返しではないか。

時間をかけた議論はいいとしても、それで違憲を合憲にひっくり返すことはできない。

読売新聞 2015年06月27日

安保法案審議 戦略的な曖昧性は確保したい

危機が発生した際、自衛隊がどう行動するか。その詳細をすべて明示することは、事態対処の実効性を損ねかねない。

安全保障の世界では、戦略的な曖昧性を確保しておくことが欠かせない。

衆院平和安全法制特別委員会で民主党の岡田代表が、集団的自衛権の行使が可能となる存立危機事態の具体例を示すよう求めた。

安倍首相は、朝鮮半島有事を念頭に、日本へのミサイル発射が準備される中、監視中の米軍艦船が攻撃される例を挙げた。「ミサイル防衛体制の一角を崩そうとしている可能性がある」と語った。

他国に対する攻撃があり、日本の存立が脅かされる事例として、分かりやすい。政府がこうした具体例を示し、丁寧に説明することが国民の理解を広げよう。

岡田氏は、一連の首相答弁について「武力行使の要件としては甘すぎる。もっと明確にしないといけない」と強調した。

この主張は疑問だ。法律上、これは可能、これは可能でない、と詳細を示すことは控えねばならない。日本の手の内をさらし、肝心の抑止力を弱めるからだ。

例えば、地対艦ミサイルの射程が分かれば、敵の艦船はミサイルが届かない海域で活動し、ミサイルは無力化してしまう。射程はまさに防衛上の秘密である。

米国が、台湾有事などの際、どんな行動を取るかを曖昧にしているのも同様の理由からだ。

様々な事態に自衛隊がどう対処するかについては、時の政府が情勢を総合的に判断できる裁量の余地を残しておく必要がある。

残念なのは、岡田氏が、17日の党首討論と同様、米艦防護の可否について明確な判断を示さなかったことだ。民主党が、存立危機事態にどう対応するかを明示しなければ、議論は深まらない。

岡田氏は、中東・ホルムズ海峡での機雷掃海について、周辺海域で戦闘が行われている状況でも憲法上は可能か、と質問した。首相は、「事実上の停戦合意がない所へ掃海艇を送ることは考えられない」と述べるにとどめた。

中東での機雷掃海は、集団的自衛権行使の典型例ではなく、例外的で特殊な例だ。内容をよく整理し、冷静に議論すべきだろう。

停戦合意前の掃海は、集団的自衛権を行使するしかない一方、部隊運用上は制海・制空権の確保が前提となる。いかに海上自衛隊の高い掃海能力を活用し、国際社会に貢献するか。この観点で建設的な論議を行うことが大切だ。

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