米中対話 オバマ氏の要求は当然だ

朝日新聞 2015年06月28日

米中対話 力と力の競争でなく

新たな大国が台頭し、既存の覇権国との対立の果てに紛争へと発展するパターンは、何度か世界史に現れた。

では米中はどうか。この問いを多くの政治指導者が頭の片隅に置いていることだろう。

主要閣僚が顔をそろえる米中戦略・経済対話が、今回で7回目になった。これまでより重みを増す形で注目されたのは、両国の力のバランスが、より拮抗(きっこう)の方向へ進んでいるためだ。

この対話は中国市場の開放を狙う米国が発案し、協力関係を演出する舞台ともなった。オバマ政権が安全保障にも議題を広げると、中国の国力増大とともに対立点が大きくなった。

現在の主要な争点は、サイバー攻撃と南シナ海である。「人権」などの価値観的なテーマと異なり、力のぶつかり合いになりかねない局面に入っている。

バイデン米副大統領は開会時の演説で「責任ある競争者」たれと中国側に呼びかけた。国際社会において中国が公正な競争相手となるのは大いに歓迎だ、という意思表示である。

この論法は中国側に受け入れやすい面があろう。楼継偉財務相は「世界経済成長への寄与率は中国が30%、米国は10%」と、世界経済の牽引(けんいん)役としての貢献を強調した。

中国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)も、米国中心の世界銀行など国際金融組織と併存しつつ、国際開発に役立つ可能性がある。

共通の利益を比較的見いだしやすい経済面に比べれば、安全保障問題の溝は深刻だ。

とりわけ心配なのは南シナ海である。領有権問題が絡み合う中、中国による一方的な岩礁の埋め立てや施設の建設は、地域の安定を損ねている。

今回の対話の中で、中国は一つの約束をした。東南アジア諸国連合(ASEAN)との間で過去に交わした合意に沿い、法的拘束力を持つ「南シナ海行動規範」をつくる交渉を前に進めると表明した。

確実に実行してもらいたい。南シナ海は世界屈指の重要海路でもあり、各国から深刻な不安の視線が注がれていることを中国は忘れてはならない。

「責任ある競争」とは、力と力の競争でなく、関係国の信頼をどれだけ勝ち取れるかの平和的な競争であるべきだ。

対話に出席した楊潔(ヤンチエチー)国務委員は「両国の協力面は競争面よりずっと大きく、競争を協力に変えることができる」と語った。その見識を行動で示してほしい。新興国と覇権国との紛争は決して不可避ではない。

読売新聞 2015年06月26日

米中戦略対話 「責任ある競争相手」に程遠い

海洋やサイバー空間で独善的な行動を続ける中国に、ルールを守り、大国としての責任を果たすよう、米国が厳しくクギを刺す場となった。

第7回米中戦略・経済対話がワシントンで行われ、双方の閣僚級が2日間、安全保障から経済まで幅広い課題を巡って議論した。

南シナ海のスプラトリー(南沙)諸島での中国による岩礁埋め立てと軍事施設の建設について、ケリー米国務長官は「米国は航行、飛行の自由に大きな国益をもつ」と述べ、中止するよう要求した。

中国の楊潔チ国務委員は「海洋問題で領土主権と権益を守る」と反論した。国際法の根拠のないまま、南シナ海を「自国の海」として一方的に囲い込もうとする中国の姿勢は到底容認できない。

中国政府は今月中旬、埋め立てを「近く完了する」と表明した。習近平国家主席の訪米を9月に控え、米国との対立を一時的に緩和したい思惑があったのだろう。

だが、埋め立てによる「砂の長城」はすでに築かれている。3000メートル級の滑走路や軍事施設の整備などを続ける方針にも変化は見られない。このままでは、対中不信が高まるばかりだ。

経済分野では、ルー財務長官が「米企業の機密情報や特許技術を盗み取るサイバー攻撃を中国政府が支援していることを深く懸念する」と批判を一段と強めた。

楊氏は「各国がサイバー情報を共有するため、国際的な行動規範の構築に取り組むべきだ」と語ったが、サイバー問題に関する米中の作業部会は中断している。真摯しんしな対応とは言えまい。

オバマ大統領も、海洋進出とサイバー問題で中国側に「懸念」を伝え、「具体的措置」をとるよう促した。大統領が直接、中国に善処を求めた意義は小さくない。

中国側は「新しいタイプの大国関係」構築に向けて、領土・主権など双方の「核心的利益」を尊重することを改めて訴えた。バイデン副大統領は「責任ある競争相手」になるよう戒めたという。

中国が米国と対等の「大国関係」を実現したいのなら、まず相応の責任を果たすべきだろう。

一方、米中が気候変動や人材交流など様々なテーマで合意できたのは成果だ。気候変動対策では、技術協力拡大でも一致した。中国は今月中に、温室効果ガスの排出削減目標を公表するという。

排出量で世界1、2位の中国と米国は着実に削減を進めねばならない。問われるのは、協調関係の演出ではなく、実績である。

産経新聞 2015年06月26日

米中対話 オバマ氏の要求は当然だ

米中閣僚による戦略・経済対話がワシントンで開かれ、米側は、中国に南シナ海での岩礁埋め立てや軍事施設建設の中止を改めて要求した。

オバマ米大統領は中国代表団と会談し、「緊張を緩和する具体的な措置」を取るよう求めた。大統領自ら、中国指導部に直接懸念を表明するのは異例だ。

南シナ海での人工島の造成、軍事拠点化は断じて容認できないとの断固たる姿勢を鮮明にしたものであり、オバマ氏の発言を支持する。国際ルールに反した中国の海洋進出は力による現状変更である。領有権を争う周辺国との緊張を高めており、看過できない。

米政府はこれまで、各レベルで中国に警告を発してきたが、オバマ氏は「非生産的」と非難するにとどめていた。大統領が自ら「海洋での行動に対する懸念」を伝えた意味は大きい。

米中対話を前に中国外務省は、埋め立てが「近く完了する」と発表したが、言い逃れにすらなっていない。米側が批判を強めたのは当然だ。

中国の楊潔●(ようけつち)国務委員は閉幕式で、「中国は領土主権や海洋権益を守る断固とした決意を再確認した」とオバマ氏の呼びかけを無視し、従来の主張を繰り返した。

中国が聞く耳を持たないなら、より強い牽制(けんせい)が必要となる。米政府は、人工島を中国領と認めないため、米軍機や艦船の12カイリ以内への派遣の可能性にも言及している。これも有力な選択肢だ。

周辺海域の警戒強化も重要である。米国や周辺国との連携で、日本の果たす役割も、少なくはないはずだ。

地域の安全保障問題を話し合う8月の東南アジア諸国連合(ASEAN)地域フォーラム(ARF)など、あらゆる機会を使って批判の声を上げるべきだ。

オバマ氏は、中国政府の関与が疑われるサイバー攻撃でも緩和措置を求めたが、中国側は攻撃を否定し、この問題でも対立は平行線のままで終わった。

中国側は米国に「新型大国関係の構築」を持ちかけているが、それならまず、「大国」にふさわしい振る舞いを求めたい。

習近平国家主席は9月、初の米国公式訪問を控えている。中国が今後も南シナ海での軍事拠点づくりを進めるなら、それは対立確認の場としか、なり得ない。

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