香港長官法案 否決の意味は極めて重い

朝日新聞 2015年06月20日

香港長官選挙 真の改革を練り直せ

近現代の歴史の中で、香港は国際経済に向かって開かれた中国の門だった。いま、そこは中国の民主主義観を国際社会に示す窓でもある。香港のトップである行政長官の選挙制度改革の行方が注目されてきた。

その改革案がおととい、香港の議会で否決された。1人1票の普通選挙を導入するのはよかったが、候補者をあらかじめ制限する仕組みだったため、民主派議員が反対した。

これで改革は白紙に戻った。この機に、香港と中国の政府は香港の多様な価値観を反映し、香港人自らが自治を決める真の改革を検討するべきだ。

これまで行政長官は、1200人の選挙委員が選んでいた。それを18歳以上の市民500万人に広げ、再来年の選挙から始めるのが改革案だった。有権者を一気に拡大するのは画期的で、世論調査では支持が反対を上回ったのも理解できる。

だが問題は、候補者を絞り込む点にある。1200人による指名委員会で2~3人の候補を決めるという。これでは従来の制度が残るも同然だ。

委員会は業界団体など親中派が支配し、中国に批判的な民主派の候補が排除されるのは確実だ。だから昨年来、多くの若者らが街頭に出て反発した。

そもそも、香港の憲法である基本法も、それに基づく選挙改革案も、つくったのは実質的に中国共産党政権である。そこには北京にとって都合の良い香港の「安定」を重視する考え方が貫かれている。

香港が英国から返還され、「一国二制度」のもとで中国の特別行政区となった97年以来、行政長官は北京に忠実な企業家や行政官出身者が務めた。この流れを指名委制度で維持することに狙いがあるのだろう。

たとえ1人1票が実現しても選択の幅は狭く、中国の眼鏡にかなった候補にお墨付きを与える役割しか果たせない。

民主派が訴えるように、立候補の資格を広く市民に開いてこそ、社会の多様な立場や意見を反映する選挙が実現できる。

そのためには、北京が方針を決めるのではなく、香港人自身に選挙制度改革を委ねることが最善だ。それこそが一国二制度下の香港自治のめざすべき方向ではないか。

大陸と比べ生活水準、教育水準がはるかに高く、成熟した社会にあって、返還から18年たっても民主化が進まないのは、やはりおかしい。再来年に間に合わないならば、次の2022年の選挙に向けて、選挙制度改革をやり直すべきである。

読売新聞 2015年06月19日

香港長官選法案 「高度な自治」は看板倒れか

「一国二制度」の名の下に、中国が約束している香港の「高度な自治」は、結局、看板倒れになるのか。

2017年の次期香港行政長官選挙に向けた選挙制度改革法案が議会で、民主派議員の反対多数で否決された。

有権者が直接投票する「普通選挙」は次期選挙では実施されず、業界団体代表らによる現行の間接選挙が続く見通しとなった。

法案は「1人1票」の直接選挙とはいえ、親中派しか立候補できない仕組みである。「ニセの普通選挙」と抗議する民主派が反対票を投じたのは、理解できる。

1997年に英国から返還された香港では、中国政府が「高度な自治」を認め、憲法に当たる基本法で「普通選挙」実施を目標に掲げたのである。

昨年8月、基本法に基づき、「普通選挙」の導入を決めたのだが、親中派主体の「指名委員会」を新設し、その半数以上の支持を立候補の要件とした。習近平政権の狙いが反中的な「民主派長官」の誕生の阻止であるのは、明白だ。

決定に反発する学生らが2か月半、道路占拠デモを行った。にもかかわらず、香港政府がその要求を無視し、中国の意向を忠実に踏まえた法案にしたのも問題だ。

中国外務省報道官は定例記者会見で、法案の否決について、「17年に香港で行政長官の『普通選挙』が行われないという結果は、目にしたくなかった」と語った。どこか空々しさもうかがえる。

今回、採決を巡る学生らの抗議デモは、昨年の「雨傘革命」ほどの規模には広がらなかった。デモの長期化による交通渋滞や経済的損害に対する一般住民の嫌悪感が強かったためとみられる。

社会の安定を乱しているとして学生側を孤立させる習政権の世論工作も、奏功したのだろう。

これを、香港の民主化を求める声が小さくなったと、習政権が判断しているなら、あまりにも浅慮ではないか。

改革プロセスをこのまま放棄することは認められない。

懸念されるのは、習政権が強権的手法をとればとるほど、民主派や学生の反発が先鋭化することだろう。深まる溝は香港の安定と繁栄を損ないかねない。そのツケはやがて中国にも回るはずだ。

習政権には、香港の「自治」を尊重し、民主派や学生らと対話を進めることが求められている。真の「普通選挙」実現へ、歩みを続けなければ、国際社会の幅広い信頼を得ることはできまい。

産経新聞 2015年06月20日

香港長官法案 否決の意味は極めて重い

香港のトップを選ぶ2017年の行政長官選挙をめぐり、形だけの「普通選挙」の導入を狙った制度改革案が立法会(議会)で否決された。

否決されたのは、有権者に1人1票の投票権を与えながら、候補者は親中派の指名委員会で選び、民主派を排除できるという仕組みだ。とても普通選挙とは呼べない。

議会が、中国の意向に沿って親中派長官しか選べない制度を拒否した意味は小さくない。

自由と民主主義という価値観を共有する国々には、住民たちが平和的な民主化運動を続ける限り、支援する道義的な責任があることを忘れてはなるまい。

中国は1997年に香港が英国から返還される際、50年間は「一国二制度」の下での「高度な自治」を保つことを約束し、香港の憲法に当たる基本法も、普通選挙の実施を目標としている。

恣意(しい)的な候補者選抜を許す制度は、「一国二制度」を骨抜きにする、明白な「国際公約」違反にほかならない。中国と香港政府には、誰でも一定の条件を満たせば立候補できる「真の普通選挙」を実現する義務がある。

この問題では、当局の決定に反発する民主派の学生や市民らが昨年9月から約2カ月半、香港中心部で大規模な街頭占拠デモを続けるなど、反対運動は大きな盛り上がりをみせた。しかし、親中派の梁振英行政長官は、妥協の姿勢をみせなかった。

「ニセの普通選挙」(民主派)を否決したといっても、次期長官選では現行制度が適用され、親中派が多数を占める選挙委員会による間接選挙が続く見通しだ。香港の民主化運動の行く手には依然、困難が待ち構えている。

香港が東アジアの国際金融センターとして安定して繁栄を続けてきたのも、「一国二制度」で保障された司法や法治の透明性があったからだ。金融や貿易の機能、人材供給など、中国本土にも大きな恩恵を与えてきた。

中国が都合良く香港の制度を曲げることは、やがて香港の衰退を招き、中国自身が困ることにもつながろう。

中国が強圧的な政策を続ければ、香港住民の民主化を求める声はより激しく再燃し、香港の繁栄と安定を損ないかねない。まず、中国が民主派への譲歩を拒む姿勢を改めることが重要だ。

この記事へのコメントはありません。

この社説へのコメントをどうぞ。
お名前
URL
コメント

この記事へのトラックバックはありません。

トラックバックはこちら
http://shasetsu.ps.land.to/trackback.cgi/event/2228/