韓国MERS拡大 日本の初動態勢再確認を

朝日新聞 2015年06月20日

MERS 院内感染防止が教訓だ

韓国で中東呼吸器症候群(MERS〈マーズ〉)コロナウイルスの感染者と死者が増え続けている。

世界保健機関(WHO)は「今のところ感染(の範囲)は医療機関などに限られ、国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態ではない」としている。ビジネスや観光での訪韓をむやみに恐れる必要はない。

とはいえ、感染が広がった医療機関を訪れ、韓国政府の自宅隔離の対象になった複数の日本人が、通知を受ける前に日本に帰国していたこともわかった。

グローバル時代の今、感染症も容易に国境を越える。MERS禍から学び、備えたい。

MERSは3年ほど前に中東で見つかった新しい病気で、特効薬はまだない。中東ではヒトコブラクダがウイルスを持っており、人への感染が繰り返し起きている。

人から人へは、せきやくしゃみのしぶきを介して感染するらしい。糖尿病など持病がある人や高齢者では、重い肺炎で亡くなることも少なくない。ただ、インフルエンザほど感染力が強くはないとされる。

韓国の感染拡大は、何よりも医療関係者や海外渡航者の感染症に対する知識と警戒が重要なことを示している。

約170人に達した患者は、1人の中東渡航者を起点に広がった。5月4日に帰国後発熱などの症状を訴えて診療所を受診したが、5月20日にMERSと診断されるまで複数の医療機関で入退院を繰り返し、院内での感染が相次いだ。

抵抗力の低い病人が集まる医療機関である。院内感染の防止は、とりわけ重要だ。韓国では感染症患者と一般患者の分離や、感染症患者への見舞い制限、医療スタッフによる拡散防止などができていない医療機関があった。医療関係者や患者にMERSへの警戒心がもう少しあれば、当初から中東渡航歴に注目し、早期に感染の連鎖を止めることができただろう。

確かに、見極めが難しいウイルスではある。2日~2週間程度の潜伏期間があるうえ、初期症状は風邪と区別がつかない。

しかし、たとえ診断が遅れてもできることはある。一般的な感染予防策の徹底だ。

せきやくしゃみなどの症状がある人はマスクをしたり、袖口で口や鼻を覆ったりして、しぶきを飛ばさないこと。かからないためには手洗いとうがいを徹底して、ウイルスを体内に取り込まない習慣が有効だ。

グローバル時代の感染症対策も、かからない、早期発見、広げないの地道な努力で始まる。

産経新聞 2015年06月17日

韓国MERS拡大 日本の初動態勢再確認を

隣国の韓国で起きている中東呼吸器症候群「MERS(マーズ)」の感染拡大が終息しない。

世界保健機関(WHO)が指摘するように「初動対応の遅れ」が最大の要因だ。

日本での流行を過度に不安がる必要はないが、韓国の失敗を教訓に日本の国内対策を改めて点検しておく必要がある。正しい知識を持って冷静に対応したい。

韓国の経緯を振り返ると、5月4日に中東から帰国した68歳の男性から感染が広がり、複数の医療機関に拡大していった。

16日現在の感染者は150人以上に上り、死者も19人でている。感染は院内感染で、街中での感染は確認されていない。韓国在住で病院を訪れるなどして一時自宅隔離の対象となった日本人もいたが、1次検査で陰性であり、心配はないという。

韓国政府とともに調査したWHOによると、最初は医療スタッフがMERSの対応に不慣れで、患者に呼吸器疾患の症状が出ていても疑わず、患者の隔離に結び付かなかった。

政府が感染者の出た病院名を公表せずに混乱を招く事態もあった。また一人の患者が複数の病院を受診する韓国の習慣が感染拡大に拍車を掛けたといわれる。

日本にとってMERS対策を強化するうえで検証材料としたいことである。

感染者を入国させない水際対策だけに偏らず、日本の医療機関は適切な初動態勢をとれるか再確認してもらいたい。

国民一人一人が予防のための基礎知識を持つことも大切だ。

MERSの正体はコロナウイルスでせきやくしゃみの飛沫(ひまつ)に含まれるウイルスを吸い込んだり、ウイルスの付着した手が鼻や口に触れたりして感染する。マスクの正しい着用も進めたい。

ワクチンや治療薬はないが、大半の患者は回復している。ただ肺炎を引き起こし、重症化して死亡するケースもある。とくに糖尿病などの持病がある人や高齢者は注意を怠ってはならない。

日本の厚生労働省は今年1月に感染症法を改正し、MERSを感染者の強制入院や就業制限の行える2類感染症に位置づけた。強制措置を一方的に強いるのではなく思いやりの気持ちを持って接したい。互いに感染拡大を防ぐ、理解と協力が肝要だ。

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