電源構成 近未来を考えよう

朝日新聞 2015年06月03日

電源構成 近未来を考えよう

2030年度の電気をどう賄うかを示す政府の電源構成(エネルギーミックス)案を経済産業省が示した。原発の割合を20~22%、再生可能エネルギー(再エネ)を22~24%にする、というのが骨子だ。

原発の現状はゼロである。福島第一原発事故への反省をもとに改定した原子炉等規制法で、原発の寿命は40年に制限されている。これに従えば30年度の原発比率は15%以下にしかならず、原発を2割以上にするには法律の例外規定を援用するしかない。構成案は、無理をして原発の比率を増やしていくことを意味する。原発回帰である。

安倍政権が言ってきた「原発への依存度を可能な限り低減する」ことこそ、15年後の未来図に盛り込むべきだ。7月にも政府案として決める予定だが、その前にパブリックコメントにかける。この未来図でいいのか。改めて考える機会である。

電源構成は、不測の事態で電気が供給できない事態にならないよう、あらかじめ電気の賄い方を考えておく目標値のようなものだ。政府はこれに基づき、実現に向けた施策を整える。再エネの課題克服に向けた施策が次々に打ち出せるような目標値が今、必要なのではないか。

宮沢経済産業相は、原発比率を2割超としたのは、①エネルギーの自給率を震災前並みに戻す②地球温暖化対策で世界に貢献する③電気料金を今以上あげない、という3点を考慮したためだという。

確かに三つの要素はエネルギー社会を考えるうえでどれも大切だ。だが、①と②は、再エネを増やすことでも対応できる。目標は今から15年後である。③についても、再エネの一層の普及を通じて価格を下げていく余地があるはずだ。

30年度より手前で電力の自由化が実現し、電源間でも競争が生まれる。リスクの高い原発は今後、商業的に成り立たなくなる可能性がある。

自由化を機に、再エネを軸にしたエネルギー産業への参入を考える企業や地域経済の核にしようという自治体も増えている。原発回帰が新しい成長の芽を摘みかねないことに、政府は留意すべきだ。

宮沢経産相は「原発比率を高くすれば、すべて(①~③の課題)が解決する」「(それでも)可能な限り低減させていった結果が20~22%」と語る。しかし、議論の出発点は「原発だけが課題を解決する方法ではない」ということにある。近未来にふさわしい電源構成を目標に据えるべきである。

産経新聞 2015年06月04日

電源構成 料金値下げの目標を示せ

家庭や企業は、これからもずっと高い電気代を払い続けなくてはならないのか。経済産業省が示した2030(平成42)年の電源構成案には、そんな危惧を持つ。

この案では、原発の電源比率を20~22%に設定し、太陽光などの再生可能エネルギーを22~24%に拡大する。

試算では、原発利用によるコストの減少を再生エネのコスト増が相殺し、15年後の全体の電力コストは、現在とあまり変わらない水準が続くという。

電気代を引き下げて国民負担を軽減するには再生エネのコスト削減が急務で、政府は固定価格買い取り制度を抜本的に見直す必要がある。安全性を確認した原発を現実に再稼働させる取り組みを強めたうえで、電気代の値下げに向けた目標を示すべきだ。

電源構成案によると、原発は今後も一定規模を活用するとした。資源小国・日本にとって妥当な選択だ。そのためには原則40年とする原発の運転期間の延長が不可欠だ。新増設を含めた、長期的な原発政策を打ち出してほしい。

一方で、水力や太陽光などの再生エネの導入を拡大し、現在の2倍に高めるとしている。環境負荷が小さい再生エネは地域経済の振興策としても期待が高いが、問題はコストだ。

経産省の試算によると、30年段階では原発の活用で火力向け燃料費は現在よりも4割ほど減少するが、再生エネの拡大に伴い、固定価格買い取り費用が今の3倍以上の4兆円規模に増えるという。

東京電力福島第1原発事故を機に全国の原発が全て稼働を停止しており、日本の電気代は東日本大震災前に比べて家庭用で2割、産業用は3割も値上がりしている。高い料金水準が将来も続く事態は、国民の理解を得られまい。

政府は、温室効果ガスの30年の排出量を13年比で26%削減する目標を掲げた。原発活用と再生エネ拡大などがその根拠だ。

だが、再生エネの急拡大には買い取り費用の増加に加え、既存の送電網の設備増強なども必要だ。参入が集中する太陽光については入札制度で事業者を競わせるなど、実情に合わせた買い取り制度の改革も欠かせない。

政府は電源構成を3年後に見直すとしているが、電気代を安くするためには3年を待たず、不断の改革に取り組むべきだ。

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