南シナ海情勢 人工島を合法と強弁する中国

朝日新聞 2015年06月02日

南シナ海問題 中国は埋め立て中止を

南シナ海のスプラトリー(南沙)諸島で、中国が進めている岩礁埋め立ての狙いは何か。

シンガポールであったアジア安全保障会議で、中国軍の孫建国・副総参謀長が、軍事目的があることを明言した。

埋め立てについて「防衛上の必要な軍事的要請に応える」とし、建設中の滑走路を「軍民共用」とする見通しも示した。

全く容認できない発言である。この海域の岩礁は近隣国が領有権をめぐり争っている。力による一方的な既成事実化は明らかに国際ルールに反する。埋め立てを即刻中止すべきだ。

ファイアリークロス礁と呼ばれる環礁では、埋め立てによる滑走路が姿を現し、スプラトリーで最大の面積になろうとしている。これらを拠点に防空識別圏を設ける可能性がある。

中国政府が先週発表した国防白書は、陸軍よりも海軍に重点を置くとする海洋重視戦略を明確に掲げた。孫氏の発言はその線に沿ったものだ。

南シナ海への進出には、漁業資源や海底資源の確保に加え、重要海路を支配する軍事力を確立する狙いがあるとみられる。

孫氏は「海洋科学研究」「環境保護」も目的に挙げるが、埋め立ては環境破壊ではないか。他国から非難されても、制裁は受けないとの見通しがあるようだが、それは大国の傲慢(ごうまん)だ。

中国はこうした活動を「自国の主権の範囲内」としている。その前提には、南シナ海の大部分をU字形に囲った「9段線」内に歴史的優先権があるとする主張がある。中国で流通している地図にはその線が国境のように引かれているが、国際法上、説明がつくものではない。

習近平(シーチンピン)政権は、周辺国との外交の方針として「誠実」や「互恵」を掲げたはずだ。東南アジア諸国連合とは、南シナ海問題の平和的解決をめざす合意を重ねた経緯もある。力任せの行動が信頼を損ねている事実を自覚するべきだ。

中国の動きを受け、東南アジア各国が海軍力の強化に動いているのも心配だ。フィリピンは実効支配する島で軍事基地を強化し、ベトナムも岩礁の埋め立てをしていると伝えられる。中国を牽制(けんせい)する米軍の行動も緊張を高めかねない。

この海域で実効支配する島を持つ台湾は最近、領有権争いの棚上げと、資源の共同開発などを提案した。中国との関係で国際協議に加われない立場ではあるが、傾聴に値する。

南シナ海を穏やかな海に戻す努力をすぐに始めなければ、事態は悪化するばかりだ。

読売新聞 2015年06月02日

南シナ海情勢 人工島を合法と強弁する中国

アジアの安全保障秩序に挑戦する中国の姿が浮き彫りになった。南シナ海の平和と安定を取り戻すために、関係国は結束しなければならない。

アジア諸国などの国防相や軍事専門家らが議論を交わすアジア安全保障会議がシンガポールで開かれた。中国が南シナ海のスプラトリー(南沙)諸島で急ぐ岩礁の埋め立てが焦点になったのは、当然の流れである。

カーター米国防長官は講演で、埋め立てについて、「地域の緊張の原因だ。その速度や規模を深く懸念する」と中国を非難しつつ、即時中止するよう強く迫った。

埋め立てた人工島の軍事基地化が加速し、海上輸送路(シーレーン)が脅かされかねない、との判断からだろう。

会議に合わせて、中谷防衛相と、カーター国防長官、アンドリューズ豪国防相が会談し、埋め立てに対する「深刻な懸念」を共同声明で示した意義は大きい。

中国の一方的な現状変更の実態を幅広く訴え、国際社会の対中圧力を高めることにつなげたい。

問題なのは、中国が米国に対峙たいじしようとする姿勢を露骨に表したことである。

中国軍の孫建国副総参謀長は会議での講演で、埋め立ては「完全に主権の範囲内であり、合法で道理にかなったものだ。航行の自由には影響しない」と強弁し、米国の中止要求を拒否した。

人工島の造成についても、孫氏は軍事目的であると公言した。南シナ海での防空識別圏設定の可能性を問われて、「上空での安全がどの程度脅かされているかなどを総合的に判断する」と述べ、否定はしなかった。

国際法の根拠がないまま、南シナ海を「中国の海」として囲い込み、米国の影響力を排除しようという底意がうかがえる。

習近平国家主席は「アジアの安全はアジアの人々が守る」とする新たな構想「アジア安全観」を掲げ、安保秩序の構築を主導しようとしている。しかし、独善的な行動で地域を不安定化させているのは、中国自身ではないか。

中谷防衛相は「東南アジア諸国連合(ASEAN)の警戒監視能力を向上させることは極めて重要だ」と講演した。中国の脅威に直面するフィリピンやベトナムなどの軍や海上保安機関への支援を拡充する考えを示したものだ。

各国の能力向上は南シナ海の安定に欠かせない。日本は米国やフィリピンなどと連携し、中国に自制を促していく必要がある。

産経新聞 2015年06月05日

比大統領来日 「平和の海」へ安保協力を

国賓として来日中のフィリピンのアキノ大統領が、中国の露骨な膨張主義の矢面に立つ国のトップとして、南シナ海情勢の深刻さを唱えた。

アジア太平洋地域の厳しい現実が反映されており、重く受け止めたい。尖閣諸島の領土・主権を中国に脅かされている日本にとっても、ひとごとではない。

両国が連携を深め、南シナ海を「平和の海」であり続けるようにすることが重要である。日本は巡視船の供与などを通じ、フィリピンの沿岸警備隊や海軍の能力向上支援を一層加速すべきだ。

安倍晋三首相とアキノ氏との首脳会談では、中国を念頭に安全保障協力の強化で一致した。極めて妥当である。

注目したいのは、アキノ氏が東京都内での講演で、南シナ海で岩礁を埋め立て、軍事基地の建設を強行する中国を、第二次世界大戦直前のナチス・ドイツになぞらえて批判した点だ。

「大国の米国が『関心がない』といえば、他の国の野心を食い止めるものはない」と語った。力の空白は、領土拡張の阻止を困難にするとの意味合いだ。

同盟国である米国はもとより、オーストラリアなど主要な友好国とも連携し、南シナ海に関心を向ける重要性について認識を共有することが求められている。

国際ルールを無視した中国の海洋進出は、日本の安全や国益を大きく損ないかねない。南シナ海の航行の自由の確保は、原油、天然ガスの安定的な輸送をはじめ、日本にとって死活的に重要だ。

フィリピンが抵抗をあきらめ、南シナ海での中国の軍事的影響力が強まれば、日本にとり、安全保障上も経済上も極めて深刻な事態となる。

アキノ氏は安倍政権の安全保障法制見直しについて、「審議に最大限の関心と強い尊敬の念を持っている」と述べた。安保関連法案が、地域の平和にも役立つという意義を評価したものだろう。

フィリピンは先の大戦の激戦地だった。アキノ氏は国会演説で戦後の日本による大規模な政府開発援助(ODA)に触れ、「過去の傷を癒やす以上のことを成し遂げ、真に利他的な意志をもって行動した」と謝意を表明した。

アキノ氏の任期は来年6月までだが、価値観を共有できる友好国の関係を長く保っていきたい。

産経新聞 2015年06月02日

南シナ海 対中抑止へ多国連携図れ

中国人民解放軍の孫建国・副総参謀長が、南シナ海で岩礁を埋め立てて進める人工島建設について、軍事利用が目的の一つだと明確に認めた。

シンガポールで開かれたアジア安全保障会議での発言だ。孫氏は「中国の主権の範囲内で、合法で正当かつ合理的な活動だ」と主張し、米国の建設中止要求にも応じない姿勢を示した。

南シナ海を軍事支配し、西太平洋での海洋覇権確立につなげるという中国の野心を裏付けるものである。放置すれば、米軍の展開や民間を含む航行・飛行の自由を脅かす中国の軍事拠点や防空識別圏が出現しかねない。

国際ルールを無視した中国の行為は「力による現状変更」だ。地域の安全への重大な脅威となる暴挙を座視することはできない。

カーター米国防長官は会議で、改めて中国に中止を求め、中谷元(げん)防衛相は「わが国を含め周辺諸国は不安を抱いている」と厳しく批判した。中国への警戒と懸念が、日米豪防衛相会談などの機会でも表明されたのは当然である。

カーター長官は、中国と東南アジア諸国連合(ASEAN)が南シナ海の紛争回避に向けて協議中の「行動規範」について年内に結論を出すよう促した。だが、ASEANだけでは中国の暴走をとめるのは難しかろう。

米国を中心に、危機感を共有する日本やオーストラリア、ASEANの関係国は結束し、対中抑止力を強化する道を早急に検討すべきだ。

経済協力などをテコに東南アジアの国を個別の交渉で懐柔しようとする中国には、やはり多国間の協力が不可欠だ。

米国はこの数カ月、人工島建設の即時中止を要求する一方、領海と認めないため人工島の12カイリ(22キロ)以内で米軍の艦船、偵察機を活動させると警告した。

だが、中国は自制のそぶりすら見せず、2年ぶりに公表された中国国防白書では、南シナ海での米国との摩擦を念頭に「海上での軍事衝突」の可能性に言及した。

日本の取り得る手段はいくつかあろう。南シナ海での警戒監視活動について検討に着手すべきときではないか。ベトナムやフィリピンなどASEANの関係国に対する沿岸警備隊への巡視船供与や海軍との共同演習など能力向上支援も有効だ。

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