参院選挙改革 「時間切れ」は許されぬ

朝日新聞 2015年05月24日

参院選挙改革 「時間切れ」は許されぬ

「良識の府」であるはずの参議院、とりわけ第1党である自民党の無責任ぶりにはあきれ果てる。

参院の一票の格差是正策を話し合う与野党の検討会で、自民党は「都道府県単位の選挙制度は極力維持する」とし、現段階で最有力なのは「6増6減」案であるとの考えを示した。

改選ごとに宮城、新潟、長野を1議席減らし、北海道、東京、兵庫を1議席増やす。それによって一票の格差は最大4・31倍になるという。

しかしこれは、最高裁が昨年11月に「違憲状態」とした、2013年の参院選の4・77倍とほとんど変わらない。野党からは「不誠実だ」などの批判が出たが、当然である。

経緯を振り返っておきたい。

最高裁は3年前、一票の格差が最大5・00倍だった10年の参院選について違憲状態と判断し、都道府県単位の区割りを見直す必要性を指摘した。

だが抜本改革はなされず、「4増4減」でお茶を濁した。ただ、改正公職選挙法の付則には、16年の参院選に向けて「選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行い、結論を得る」と明記された。

「今度こそ」と13年9月、各会派の代表でつくる「選挙制度協議会」が発足。座長を務めた自民党の脇雅史氏は昨年4月、鳥取と島根など22府県の選挙区を合区する案を「座長案」として提示した。ところが自民党内で合区への反発が強まり、脇氏は座長を事実上更迭される。

その後の自民党は第1党として議論をリードする責任をまったく果たさず、党内の意見集約すら怠った。あげくの果ての、弥縫(びほう)策とも呼べない「6増6減」案である。

この約2年間、いったい何をしてきたのか。

来夏の参院選に間に合わせるためには、今国会で改正案を成立させる必要がある。この期に及んでの自民党案提示は、小手先の改革で済ませるために「時間切れ」を狙っているのではないかと勘ぐられても仕方ない。

本来は、二院制のもとで衆院と参院がどう役割分担をするかという観点から、根本的に議論されなければならない問題だ。

だが、残された時間は少ない。合区案を含む「座長案」をめぐっては、各会派の間に議論の蓄積もある。ギリギリまで協議を重ね、一票の格差を大幅に縮減する改革案をまとめるべきだ。これほどの投票価値の不平等の上にあぐらをかいて平然としているなら、「国民の代表」を名乗る資格はない。

産経新聞 2015年05月28日

参院「6増6減」 自民は合意形成に責任を

参院の「一票の格差」是正をめぐる議論が、進展を見ぬまま時間切れを迎えかねない情勢だ。

与野党代表者による検討会で、自民党は定数の「6増6減」が有力だと主張する一方、一部の選挙区を統合する「合区」にも含みを残した。

「鳥取・島根」などを想定した合区について党内の了承は得られない。だから、6増6減を推してはみたが、他党から相手にされないため合区にも言及しておく。

腰が定まらないとはこのことではないか。来年の参院選で見直しを実施するなら、時間稼ぎはもう許されない。合意作りへ、与党としての責務を果たすときだ。

自民党は昨年10月にも、6増6減のほか選挙区の定数増と比例代表の定数減、選挙区の部分的な統合など4案について、絞り込みをせずに提示した。第一党の無責任な対応に野党は反発し、議論は今年に持ち越された。

最高裁は平成25年参院選(最大格差4・77倍)について、22年の選挙に続き「違憲状態」と判断した。6増6減だけでは、最大で4・31倍の格差が残るという。他党が「是正が不十分」と指摘するのも無理はない。

同じ与党の公明党も自民党の姿勢に批判的だ。従来のブロック制案を撤回し、合区導入による決着を主張しはじめた。

自民党が合区案に踏み切れば、与野党間の議論が進む可能性はある。合区をつくる数、定数配分などの主張に開きはあるが、具体的な折衝に入れるだろう。

もとより、こうした方法は抜本改革からは遠い。合区の一部導入に明確な理念を見いだすことはできない。格差縮小を図るだけの、つぎはぎの案ともいえる。

一方、自民党が主張する都道府県単位の選挙区を維持すれば、今後も部分的な定数是正を繰り返すことになる。該当選挙区の議員、候補らは、そのつど抵抗する。個々の反対意見に右往左往し、改革案を打ち出せないのが現状だ。

憲法改正を目指している自民党は、衆参それぞれの役割を明確に打ち出すべきだ。それにふさわしい選挙制度は、参院が独自性を発揮する土台にもなろう。

二院制をどうするかの根本の議論は避け、当面の是正策さえまとめられないなら、立法府の担い手の資格、さらには参院の存在意義にも疑念を抱かれる。

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