宮城3人殺傷 惨劇は防げなかったのか

朝日新聞 2010年02月16日

宮城3人殺傷 DV対策、見直す契機に

悲惨な結果を迎える前に、この不幸な若いカップルを引き離せなかっただろうか。宮城県石巻市の民家で3人が殺傷され、18歳の少年が、同い年のこの家の次女を連れ去ったとして逮捕された事件だ。

次女は少年と交際を続け、4カ月になる赤ちゃんもいた。一方で、少年から暴力をふるわれていると、1年ほど前から警察に相談をしていた。

宮城県警は2度にわたり少年に指導警告をした。次女にも傷害や暴行の被害届を出すよう説得したが、なかなか応じなかったという。次女は周囲から諭されて別れを決心しては、復縁する繰り返しだったようだ。

そうした2人の関係は、家庭内や近親者間の暴力を指す「ドメスティックバイオレンス(DV)」の典型といえそうだ。

恋人や配偶者から肉体的・精神的な暴力を受けながら、合間に与えられる「優しさ」や次の暴力への恐怖から、逆に相手への依存を強めてしまう。「大丈夫だから」と被害を認めなかったり、「やり直せる」と支援を拒んだりしがちになる。DV被害者に接するうえで、一番難しい問題だ。

警察は一連の対応に問題はなかったとしている。事件前夜も署員が訪れ、翌日に被害届を出す予定だった。

だが、今月に入ってたびたび少年が次女の家に押しかけ、緊急性は高まっていた。被害届を待たずに、少年を引き離すような措置はとれなかっただろうかと残念だ。

2001年制定のDV防止法は、裁判所が接近禁止を命令する手続きを定め、違反には刑事罰もある。が、これも被害者の申し立てが前提だ。

警察がDVやストーカー行為の相談を受けていながら、強い手段に出られないうちに、本人や家族の殺傷に発展した例は各地で相次いでいる。現行制度に限界があるのか、警察の対応の問題か。こんどの事件をよく検証し、教訓をくみ取りたい。

そのうえでDV対策全般をあらためて見直す必要がある。

DV防止法は原則として配偶者からの暴力が対象だ。今回のような未婚のカップルへの対応は十分ではない。

警察と専門家、行政の相談窓口、民間の自助グループが連携して支える仕組みが必要だろう。孤立する被害者に「逃げても大丈夫」と伝えることが、悲劇を未然に防ぐことになる。

加害者に対しても、処罰や隔離だけでなく、自身の暴力性に向き合わせ更生させるプログラムが不可欠だ。

警察をはじめ日本の行政機関には、家庭内や男女間のトラブルには介入しない傾向が強かった。だが、放置された暴力は、やがて子どもや周囲にも向かいかねない。社会がもう一歩、踏み込んでもいい問題ではないか。

毎日新聞 2010年02月14日

宮城連れ去り 警察対応の検証が必要

痛ましい事件が起きた。宮城県石巻市で、男女3人が刃物で殺傷され、18歳の少女が一時、連れ去られた。

宮城県警は、少女の元交際相手の解体工の少年(18)と、一緒にいた無職の少年(17)を未成年者略取と監禁容疑で逮捕した。殺人容疑でも追及する方針だ。

少女は、元交際相手の少年からたびたび暴力を振るわれ、昨年2月以後、地元署に12回も相談していた。事件当日に被害届を出す段取りになっていたというから、まことに残念と言うほかない。

男女間のトラブルが周囲を巻き込む形で事件化するケースが昨年来、相次いでいる。

千葉市で昨年7月、無職男(28)が以前交際していた女性(22)の自宅でその母親を刺殺し、女性を沖縄まで連れ去った。東京都港区では同8月、耳かきエステ店の常連客の男(41)が女性従業員(21)の自宅に押しかけ、従業員と祖母を刺殺した。

いずれも加害者のつきまとい行為について事前に被害者から警察に相談があった。そのため、警察庁は同月、男女間のトラブルも積極的に事件化するよう的確な対応を求める通達を各警察本部に出している。

通達は、警察官個人の判断で処理せず、署長指揮の下で組織的に対応することも求めている。

今回、地元署は少女に対し、被害届を出すよう繰り返し説得したり、配偶者暴力防止法に基づいて少年側に2回警告していたといい、「対応に問題はなかった」としている。

確かに、2人は仲たがいしては復縁を繰り返し、ウェブ上でプロフィルを公開する「プロフ」でも互いを必要とする書き込みをしている。

だが、被害の相談回数が10回を超えるのはやはり異常だ。配偶者暴力防止法は、被害者の申し立てにより裁判所が面会の強要やつきまといなどを禁じる保護命令が出せる。違反すれば懲役などの罰則もある。

一昨年施行の法改正で、保護の対象範囲は親族にまで拡充された。警察本部長には「暴力による被害の発生を防止するために必要な援助を行う」との規定もある。

中井洽国家公安委員長は12日の閣議後会見で「被害者から相談を受けている中、事件が起きて残念だ。警察の対応に誤りがなかったのかも含めて調べたい」と話した。

結果的に最悪の事態を招いたのは間違いない。警察が申し立てや被害届の提出に関し、もう少し主導的な役割は果たせなかったものか。また、加害者が未成年ということで腰が引けた面はなかったか。特に、通達が出た昨夏以後の対応が重要である。警察庁を中心に検証し今後の教訓としてほしい。

産経新聞 2010年02月13日

宮城3人殺傷 惨劇は防げなかったのか

耳をふさぎたくなるような惨劇である。宮城県石巻市の南部かつみさん方に男が押し入り、女性2人が刃物で殺された。次女の沙耶さんが車で連れ去られ、約6時間後に保護された。

警察は沙耶さんといっしょにいた元交際相手の少年(18)ら2人を監禁容疑で逮捕し、殺人容疑でも調べている。凶刃に倒れた沙耶さんの姉の美沙さん(20)と友人の女性は、沙耶さんを気遣っていっしょの部屋で寝ていたところを襲われた。

沙耶さんと少年は、約1年半前から交際しており、2人の間には4カ月の娘もいる。しかし、沙耶さんは、少年から暴力をふるわれ、警察に何度も相談していたという。事件の前夜にも、少年が南部さん方に押しかけ、110番通報する騒ぎもあった。警察に惨劇を防ぐ方法はなかったのか。これが誰もが抱く疑問である。

平成11年、埼玉県桶川市の路上で、女子大生がナイフで刺殺される事件があった。それまで元交際相手の兄の嫌がらせに悩んでいた女子大生が、告訴に踏み切っていたにもかかわらず、警察が捜査を怠っていたことがわかり、警察批判の声が高まった。

この事件をきっかけにストーカー規制法が成立したが、類似の事件は後を絶たない。昨年7月に、千葉市内の団地で、男(29)が女性を連れ去り、女性の母親を殺害、翌月には東京都港区で、男(41)が耳かき店員の女性と祖母を殺害する事件が起きている。

今回の事件の場合、沙耶さんから相談を受けた警察は、少年に対して警告はしていた。さらに沙耶さんには被害届を出すように勧めたが、応じなかったという。ようやく届けを出すことにした当日の朝、事件は起こった。男女間、家族内のトラブルは、デリケートな部分が多い。警察がどこまで介入できるのか、事件を防ぐルールを検討すべきだろう。

警察庁は、桶川市の事件以降、住民の訴えに極力耳を傾けるよう通達している。ただその結果、「隣の家の声がうるさい」などといった、地域社会で解決すべき問題も多く持ち込まれている。

すべてに対応するのは現実的に困難である。警察と地域社会が、お互いに責任を押しつけあうのではなく、協力して凶悪事件を防がなければならない。地域の関心を強めることや情報の共有などを考えていきたい。

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