NPT会議決裂 核兵器の非人道性を訴えたい

朝日新聞 2015年05月24日

核会議決裂 拡散への危機感高めよ

核兵器の拡散を食い止めるのは、地球を次世代へ渡す全世界の責務である。

その道筋を話し合う5年に1度の国際会合が、何の成果も出せずに終わった。ニューヨークで続いていた核不拡散条約(NPT)の再検討会議である。

加盟国の合意をまとめる最終文書をめぐり決裂したことは、NPT体制の持続性に大きな疑問符をつけることになった。

国際社会は、重大な危機感をもたねばなるまい。今後、NPT体制の修復をめざす努力を各国が一段と強めるべきだ。

同時に、必ずしも会議の合意だけに頼らず、協力できる国々で核廃絶をめざす活動を盛り上げることにも力を注ぎたい。

会議の決裂は、表面的には中東の非核化をめぐる文言が主因だった。イスラエル寄りの立場をとる米国などがアラブ主導の文言に同意しなかった。

だが、事態の本質は中東問題ではない。最も深刻な問題は、核保有国と非核国の対立の溝が、もはや隠し通せないほど深まったことにある。

会議で、核兵器の非人道性を強調する非核国の主張に対し、核保有国は次々と難色を示し、表現を弱めることに腐心した。

NPTは核保有を米ロ英仏中にだけ認める代わり、その5カ国に誠実な核軍縮交渉を義務づけている。だが実際には、軍縮に消極的どころか、核による脅しを発言する国まで出て、非核国の不満は高まっている。

NPT非加盟のイスラエルやインド、パキスタンはすでに核を保有し、北朝鮮の身勝手な核開発も続いている。これ以上、核に走る国を許しては一気に連鎖反応が起きかねない。世界の状況は危うさを増している。

ただ今回の会議では、核の非人道性の論議が正面から取り上げられ、各国の理解が進んだ。非人道性を根拠に核を違法化する「核兵器禁止条約」など、新たな法的枠組みを探る動きを日本ももっと後押しすべきだ。

日本が提案した広島、長崎への各国指導者らの訪問も、地名は削除されたものの趣旨は最終文書案に盛り込まれていた。

日本政府は、核保有の5大国を含む世界の指導者や軍縮専門家、若者らを招き、非人道性を積極的に訴え続けてほしい。

日本を含め、安保面で他国の「核の傘」のもとにある非核国には矛盾がつきまとう。だとしても、被爆国日本が非人道性に口をつぐむことは許されない。

最終文書案に従い、安保上の核兵器の役割を減らす。そして核兵器の違法化をめざす。その目標へ率先して進むべきだ。

読売新聞 2015年05月24日

NPT会議決裂 核兵器の非人道性を訴えたい

核軍縮・不拡散の体制強化に向けた関係国の合意形成の難しさが改めて露呈した。

5年に1度の核拡散防止条約(NPT)再検討会議が決裂した。最終文書を採択できなかったのは、2005年の前々回以来である。

直接の原因は、核を保有するとされるイスラエルを想定した「中東非核地帯構想」に関する国際会議を、来年3月1日までに開くとした最終文書案を巡る対立だ。

エジプトなど中東の一部の国がこの問題に固執したのに対し、米英などが「独断的な期限だ」と反対し、全会一致による採択が不可能になった。

対立の構図は10年前と同じだ。190の加盟国が様々な論点で、もっと柔軟に歩み寄らなければ、会議の存在意義が問われる。

核軍縮を巡る保有国と非保有国の対立も目立った。軍縮の停滞に不満を抱く急進的な非保有国は、核保有を禁じる法的措置や核廃絶の目標期限設定を求めた。

NPTの空洞化に対する危機感が、新たな法的枠組みを模索する動きに発展したのだろう。

オバマ米大統領は「核兵器なき世界」を提唱したが、米露は依然、世界の9割を超す計1万5000発以上の核弾頭を保有する。英仏中にも核放棄の動きはない。

保有国側は、核削減の法的義務や「核兵器不使用」の約束を断固拒否した。核軍縮の機運の低下が懸念される事態だ。

ただ、核兵器の非人道性への認識が広がった点は前進である。

日本など159か国の提案を踏まえ、最終文書案に「核使用がもたらす壊滅的な非人道的結果への深い懸念」を明記することで関係国の合意も成立した。

世界の指導者や若者に広島、長崎への訪問を促す文言が最終文書案から削除された問題では、日本が粘り強く復活を求めた。その結果、被爆者の体験を共有することの重要性を確認する表現で、削除を主張した中国と折り合った。

被爆地訪問の教育的効果を強調する文言が最終文書案に残ったことは、巻き返しを図った日本外交の一定の成果と言える。

核保有国である中国が「日本は自らを加害者ではなく、被害者として描こうとしている」などと主張し続けたことは認められない。軍縮協議の場に歴史問題を持ち込むことは筋違いである。

日本は、北朝鮮の核の脅威とも向き合っている。関係国と緊密に連携し、NPTの実効性強化へ積極的な行動を続けたい。

産経新聞 2015年05月26日

NPT会議決裂 核保有国の責任は重大だ

世界の核軍縮・不拡散にとりわけ重い責任を負う核保有国に真剣さが感じられない。

ニューヨークの国連本部で約1カ月にわたり開かれた核拡散防止条約(NPT)再検討会議は、最終文書に合意できないまま閉幕した。

NPTは、米露英仏中の5カ国に核保有を認める代わりに、核軍縮交渉に誠実に取り組むことを義務づけている。多くの欠陥が指摘されるものの、現状では核拡散を阻止する唯一の国際的な枠組みだ。

会議の決裂は核軍縮への機運を後退させ、NPT体制そのものへの信頼を崩壊させかねない。核保有国の責任は重大である。

今会議では中東非核化構想をめぐる不一致が決裂の直接的な原因だったが、協議の難航の最大の要因が、核保有国と非核保有国との根深い対立にあったことを忘れてはなるまい。

核軍縮の停滞に不満を持つ国の一部が、核廃絶の期限を設定しようとして紛糾したのは、そのあらわれだ。

世界の核弾頭の9割を保有し、核軍縮を主導すべき立場にある米露はウクライナ問題などをめぐり関係が冷却化し、軍縮交渉も停滞している。

それどころか、プーチン露大統領は「ロシアは偉大な核大国」と言い放ち、昨年のクリミア併合の際には核使用の準備も指示したと述べて、米欧を恫喝(どうかつ)する厚顔ぶりさえ示した。

核弾頭250発を保有すると推定される中国は実態を一切公表せず、5カ国の中で唯一、核戦力を増強しているとみられる。

核保有国のこうした振る舞いに非核保有国が不信感を募らせるのは当然だ。特にロシアと中国の姿勢は、NPTの精神を踏みにじるものだ。

NPT脱退を一方的に宣言し、公然と核・ミサイル開発を進める北朝鮮に対する歯止めは利かず、事実上の核保有国とされるイスラエルやインド、パキスタンのNPT加盟のめどもたたない。

「核兵器禁止条約」の検討を進めるべきだとの主張も出たが、世界の核兵器の状況をみれば一気に禁止するのは現実的ではない。

戦後70年の今年、唯一の被爆国である日本の果たすべき役割は大きい。国連総会などあらゆる機会を捉えて、核軍縮・不拡散を訴えてゆくべきだ。

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