日本人が海外でテロに巻き込まれることは、もう珍しくない。今回の検証を今後の対策に着実に生かすことが肝要だ。
過激派組織「イスラム国」による日本人人質事件に関する政府の検証委員会の報告書が公表された。後藤健二さんら2人の救出に向けた政府の判断や対応について、「誤りがあったとは言えない」と結論づけている。
人質の「救出が極めて困難なケース」だったとも総括した。
「イスラム国」は残虐で狂信的な暴力集団だ。政府が「テロに屈しない」姿勢を堅持する中、人質救出のためにできることが相当限られていたのは事実である。
報告書は、内閣官房高官らで構成する検証委の評価が中心で、自己弁護の表現も目立つ。一方で、有識者の意見も併記している。
「『イスラム国』と闘う周辺国」への人道支援を含む安倍首相の中東演説の内容や表現に関して、「問題はなかった」と明記した。
有識者からは、「イスラム国」の「脅迫の口実とされた」として「対外的発信には十分に注意する必要がある」との指摘が出た。
日本がシリア周辺国などを支援し、「イスラム国」包囲網の一翼を担うことは、国際社会の一員として当然の責務である。
無論、対外発信には細心の注意が求められるが、過激派組織の出方を慮って過剰に萎縮するようでは、「テロに弱い国」とみなされ、かえって標的にされかねない。
報告書は、今後の課題として、「言語・宗教・現地情勢等に精通した専門家の育成・活用」や「情報の収集・集約・分析能力の一層の強化」を挙げている。
近年は、中東や周辺でのテロが相次ぐ。アラビア語やトルコ語に通じ、中東に詳しい人材の養成に優先的に取り組む必要がある。
他国の情報機関と渡り合える専門家を給与、役職などで処遇し、戦略的に育成すべきだ。機密は、ギブ・アンド・テイクが原則である。関係国にとって、情報提供に値する国にならねばなるまい。
海外で日本人がテロ被害に遭う度に情報力強化が叫ばれるが、やがて忘れられる。そんなパターンを断ち切ることが大切である。
事件の未然防止のため、危険地域への無謀な渡航を制限する方法についても、検討が必要だ。
報告書は、関係者との信頼関係維持のため、人質解放の具体的な交渉内容に言及しなかった。テロ対策や安全保障への国民の理解を広げるには、もう一歩踏み込んだ検証内容の公開が欠かせない。
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