世界中の希少な生き物を間近に見られる水族館や動物園を維持していくには、やむを得ない選択だったと言える。
世界動物園水族館協会から、追い込み漁で捕獲したイルカを購入しないよう迫られた日本動物園水族館協会(JAZA)が、その要求を受け入れ、世界協会傘下にとどまることを決めた。世界協会は決定を歓迎している。
JAZAは先月、倫理規定に反するとして、世界協会の会員資格を停止された。イルカを追い込み漁で入手し続ければ、除名するとも通告されていた。
追い込み漁は和歌山県太地町で行われている伝統的漁法だ。金属音を鳴らして群れを湾内に追い込み、網を張って捕獲する。6年前に公開された米映画「ザ・コーヴ」の題材となり、イルカがかわいそうだという印象を残した。
世界協会の要求には、追い込み漁を批判する反捕鯨団体などの主張が色濃く反映されている。日本独自の文化を全く顧みず、漁法のどのような面が残酷なのかを具体的に説明しない世界協会の一方的な姿勢は、極めて問題である。
だが、除名された場合に、JAZAの多数を占める動物園が受ける不利益は大きい。海外の動物園から希少動物を借り受け、繁殖させるといった事業が立ち行かなくなる恐れがある。
国際的圧力の中で、JAZAにとっては、各施設の運営継続を優先した苦渋の判断だった。
JAZA加盟の約30の水族館がイルカを飼育している。その多くが太地町から調達したものだ。
今後は、水族館で繁殖させることが重要になる。米国では、水族館生まれのイルカが7割を占めるのに対し、日本は1割余りにとどまる。研究機関と協力し、繁殖技術を確立する必要がある。
繁殖には専用プールなどの整備も不可欠だ。自前で取り組むのが難しい中小の水族館に、大型施設で繁殖させたイルカを分配するなど、連携の強化が求められる。
今回の問題により、追い込み漁ができなくなるわけではない。世界協会に加盟していない中国などの水族館や、JAZAに未加盟の国内の施設は、今後も捕獲したイルカを購入するだろう。
追い込み漁は、政府による資源管理の下で、合法的に実施されている。菅官房長官は「資源の持続的な利用について、丁寧に説明していきたい」と述べた。
鯨類に関する日本の伝統文化について、国際社会の理解を得る努力を続けていかねばならない。
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