イルカ伝統漁 国際的圧力に屈した組織残留

朝日新聞 2015年05月22日

イルカ漁 国際理解へ努力重ねよ

「追い込み漁」は、イルカを生きたまま捕まえる伝統的な漁法だ。日本では和歌山県太地町で行われている。

その追い込み漁で捕まえたイルカを今後購入しないと、日本動物園水族館協会が決めた。世界動物園水族館協会から「追い込み漁は残酷」と非難され、世界協会の会員資格の停止を突きつけられての方針転換である。

日本協会の新方針は、加盟する約150の動物園と水族館の投票で決まった。世界協会のネットワークからはじかれると希少動物の確保が難しくなる。日本協会の会員のうち、イルカを飼育する水族館は5分の1強にとどまる。そんな事情が投票結果につながったようだ。

日本協会は「追い込み漁を否定しているわけではない。どこが残酷なのか、世界協会からは回答がないままだ」と言う。ただ、海外を中心にイルカ漁に厳しい目が向けられているのも事実だ。新方針に沿った対応を急がねばならない。

まず、イルカの人工繁殖に本格的に取り組むこと。そして、官民あげてイルカ漁に理解を得る努力を重ねることだ。

イルカの捕獲が禁止されている米国では、水族館のイルカの7割が人工繁殖だが、日本は1割余。日本協会も「購入しやすい分、人工繁殖の努力が足りなかったかもしれない」と話す。

イルカの寿命は長く、人工繁殖に切り替える時間はありそうだ。ただ、専用の設備などに費用がかさむため、小さな水族館では取り組みが難しい。実績のある水族館を中心に連携し、行政も支援を考えてほしい。

2年ほど前の統計によると、日本からは年間100頭近いイルカが輸出されており、その多くは飼育用と見られる。国内の水族館による購入頭数の5倍前後だ。漁業者の協力を得て、輸出も控えていくべきだろう。

世界協会の強硬姿勢の背景には、国際的な反捕鯨団体の働きかけがある。イルカとクジラは生物学的に違いはなく、太地町のイルカ漁も沿岸小型捕鯨とともに反対運動に直面してきた。

これらの小型鯨類漁業は国際捕鯨委員会の規制の枠外にあるが、国や県が関与して捕獲数を制限し、種の保存に努めている。地域の歴史や文化、生活と結びついていることと合わせて、粘り強く訴えていきたい。

欧米では、野生の生物を捕まえて飼い、ショーをすることを否定する動きが広がりつつあるという。動物園や水族館が生物保護の拠点としての役割を強め、伝統的な生業には理解を求める。そんな戦略が必要だ。

読売新聞 2015年05月22日

イルカ伝統漁 国際的圧力に屈した組織残留

世界中の希少な生き物を間近に見られる水族館や動物園を維持していくには、やむを得ない選択だったと言える。

世界動物園水族館協会から、追い込み漁で捕獲したイルカを購入しないよう迫られた日本動物園水族館協会(JAZA)が、その要求を受け入れ、世界協会傘下にとどまることを決めた。世界協会は決定を歓迎している。

JAZAは先月、倫理規定に反するとして、世界協会の会員資格を停止された。イルカを追い込み漁で入手し続ければ、除名するとも通告されていた。

追い込み漁は和歌山県太地町で行われている伝統的漁法だ。金属音を鳴らして群れを湾内に追い込み、網を張って捕獲する。6年前に公開された米映画「ザ・コーヴ」の題材となり、イルカがかわいそうだという印象を残した。

世界協会の要求には、追い込み漁を批判する反捕鯨団体などの主張が色濃く反映されている。日本独自の文化を全く顧みず、漁法のどのような面が残酷なのかを具体的に説明しない世界協会の一方的な姿勢は、極めて問題である。

だが、除名された場合に、JAZAの多数を占める動物園が受ける不利益は大きい。海外の動物園から希少動物を借り受け、繁殖させるといった事業が立ち行かなくなる恐れがある。

国際的圧力の中で、JAZAにとっては、各施設の運営継続を優先した苦渋の判断だった。

JAZA加盟の約30の水族館がイルカを飼育している。その多くが太地町から調達したものだ。

今後は、水族館で繁殖させることが重要になる。米国では、水族館生まれのイルカが7割を占めるのに対し、日本は1割余りにとどまる。研究機関と協力し、繁殖技術を確立する必要がある。

繁殖には専用プールなどの整備も不可欠だ。自前で取り組むのが難しい中小の水族館に、大型施設で繁殖させたイルカを分配するなど、連携の強化が求められる。

今回の問題により、追い込み漁ができなくなるわけではない。世界協会に加盟していない中国などの水族館や、JAZAに未加盟の国内の施設は、今後も捕獲したイルカを購入するだろう。

追い込み漁は、政府による資源管理の下で、合法的に実施されている。菅官房長官は「資源の持続的な利用について、丁寧に説明していきたい」と述べた。

鯨類に関する日本の伝統文化について、国際社会の理解を得る努力を続けていかねばならない。

産経新聞 2015年05月22日

イルカ入手困難 実情をさらに訴え続けよ

世界動物園水族館協会(WAZA)の通告は事実誤認と偏見に基づいてはいなかったか。孤立化をちらつかせて日本を追い込んでいく手法には憤りを覚える。

日本動物園水族館協会(JAZA)は日本伝統の追い込み漁で捕獲したイルカの入手を断念し、その旨、WAZAに報告した。決して、好んで求めた結論ではない。

続行すればWAZAから除名になる。海外との動物のやり取りに支障が生じ、希少動物の繁殖に世界からの協力が得られない。

四方が海の日本で、海洋生物だけの問題なら違う決断もあった。アフリカゾウやオランウータン、ライオンまでが「人質」に取られては打つ手はなかった。

WAZAは2004年からイルカの入手法を問題視しはじめた。漁法批判の米映画の影響も大きかったが、そもそも追い込み漁にはそこに描かれた残酷さはない。

JAZAは展示と食用とで漁法を分け、大きな群れは狙わず捕獲制限を設けるなど改善に努めた。WAZAはしかし、昨年11月の総会で会員資格を俎上(そじょう)にのせた。

それから半年足らずで停止が決議され、この間、JAZAには満足に説明の機会が与えられなかった。今度は動物園を巻き込んだ除名通告である。背後に欧米の過激な一部動物愛護団体の圧力があるとも指摘される。

警戒すべきは、イルカの食用漁法、さらには商業捕鯨が禁じられていない小型鯨類対象の沿岸捕鯨の規制などへの要求拡大である。とりわけ過激な活動家たちは実力行使で日本を封じ込めようとしかねない。一方的で暴力的なやり方は断じて受け入れられない。

イルカの追い込み漁は捕鯨と並ぶ日本の伝統文化である。人々の生活の一部になっていることは、追い込み漁の地元、和歌山・太地町など古来の漁法を伝える町に行けばわかるはずだ。

繁殖によるイルカの入手は時間と手間がかかり困難さもつきまとう。水族館は岐路に立たされた。子供の動物愛護への心や海への憧れを育むショーの実施に影を落とす。JAZA脱退を選択するところも出てくるかもしれない。

通告は受け入れたが、文化の破壊は許されない。伝統的な漁法を保護するとともに、官民協力して実情を粘り強く国際社会に訴え続けていく必要がある。

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