台湾の食品規制 根拠ない強化策は撤回を

読売新聞 2015年05月19日

日本産食品輸入 台湾の規制強化に根拠はない

東京電力福島第一原発の事故に伴う日本産食品の輸入規制は、国際的に緩和の流れにある。それに逆行する動きであり、極めて残念だ。

台湾当局が、全ての日本産食品に産地証明書の添付を義務付けた。福島、茨城、千葉、栃木、群馬の5県から食品を輸入することを禁じてきた措置に、新たな規制を加えた形だ。

特定地域の水産物、茶製品、乳幼児用食品などに、放射性物質の検査も求めている。

実施直前、台湾当局は従来の検疫証明書なども産地証明書として認めるとの見解を示した。影響を抑えようという意図はうかがえる。馬英九総統も「短期的な規制措置だ」と述べている。

そうであっても、規制を強化した台湾の判断は容認できない。日本産食品の安全性に新たな問題が生じたわけではない。林農相が「科学的根拠に基づかない一方的な措置だ」として、撤回を求めたのは、もっともである。

日台関係が良好であるにもかかわらず、農相があえて世界貿易機関(WTO)への提訴に言及したのは、やむを得ない。

規制強化の背景には、台湾側の事情があるのではないか。当局は3月、禁輸対象の5県から加工食品が輸入されていたと発表した。産地を偽装した中国語のシールが貼られた製品もあったという。

これを受け、当局は新たな規制の実施を決めた。来年1月の総統選を控え、馬政権には、住民の関心が高い「食の安全」の問題に積極的に取り組む姿勢をアピールする狙いがあるのだろう。

当局は、回収した日本産食品の放射性物質検査を実施したが、当然の結果ながら、異常な例は見つかっていない。

日本政府は、原発事故後に設けた食品中の放射性物質に関する基準に従い、出荷時に安全性を厳しくチェックしている。汚染食品が出回る心配はあるまい。

こうした事実は、国際的にも認知されつつある。輸入を規制した約50か国・地域のうち、既に14か国が撤廃に応じている。

日本にとって台湾は、香港、米国に続く食品の主要輸出先だ。政府は、科学的データを示しながら台湾と対話を重ね、一連の規制の撤廃を求める必要がある。

中国は10都県の食品輸入を全面禁止し、韓国も8県の水産品輸入を禁じたままだ。風評被害の拡大を防ぐ広報活動が重要である。

「日本の食」の輸出促進に支障を生じさせてはならない。

産経新聞 2015年05月18日

台湾の食品規制 根拠ない強化策は撤回を

台湾当局は、東京電力福島第1原発事故を理由に導入した日本産食品の輸入規制を強化した。

台湾で過去4年あまり実施されてきた日本からの輸入食品に対する放射能検査では、日台双方の基準値を超えた例は一件もなかった。

それにもかかわらず規制を強める理由が、どこにあるのだろうか。菅義偉官房長官が「科学的根拠に基づかない一方的な措置は遺憾だ」と反論したのは当然だ。

台湾当局は冷静な判断に立ち戻り、根拠のない規制強化を一刻も早く撤回してもらいたい。

台湾は原発事故後、福島、茨城、栃木など5県の食品を輸入禁止とし、今回、残る42都道府県の全食品を対象に産地証明の添付を新たに義務付けた。

水産品、茶類、乳製品などでは、一部都府県産について放射能検査証明も課し、その対象は800品目を超える。

台湾側は、生産地が記された植物検疫証明書など、従来も必要とされてきた既存書類を産地証明とみなすと軟化した。これによって、日本の食品輸入が全面停止する事態は回避された。日本政府も産地証明を発行しない方針だ。

世界的に原発事故後の日本産食品に対する規制は、撤廃や緩和に向かっており、今年3月までにオーストラリアなど13カ国が規制を全廃し、9カ国が緩和した。欧州連合(EU)も近く緩和する見通しだ。

そうした中で、台湾当局に輸入規制そのものの全廃を求めてきた日本にとって、流れに逆行する今回の措置は残念であり、受け入れられるものではない。

明確な根拠がないまま貿易の規制強化を一方的に課すようでは、公正な自由貿易とはいえない。林芳正農林水産相は「世界貿易機関(WTO)への提訴も含めて、しかるべき対応を検討してゆく」と強調した。

良好な日台関係を考えれば、避けたい事態だ。

台湾は香港、米国に次ぐ日本の食品の大口輸出先で、台湾にとっても日本は最大の輸入元である。取引額も毎年増加してきた。東日本大震災では、台湾は世界最大の義援金を日本に寄せてくれた。

台湾には、合理的な判断に立ち、「食の安全」を危惧する住民らの説得に当たり、規制全廃への決断を求めたい。

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