東京電力福島第一原発の事故に伴う日本産食品の輸入規制は、国際的に緩和の流れにある。それに逆行する動きであり、極めて残念だ。
台湾当局が、全ての日本産食品に産地証明書の添付を義務付けた。福島、茨城、千葉、栃木、群馬の5県から食品を輸入することを禁じてきた措置に、新たな規制を加えた形だ。
特定地域の水産物、茶製品、乳幼児用食品などに、放射性物質の検査も求めている。
実施直前、台湾当局は従来の検疫証明書なども産地証明書として認めるとの見解を示した。影響を抑えようという意図はうかがえる。馬英九総統も「短期的な規制措置だ」と述べている。
そうであっても、規制を強化した台湾の判断は容認できない。日本産食品の安全性に新たな問題が生じたわけではない。林農相が「科学的根拠に基づかない一方的な措置だ」として、撤回を求めたのは、もっともである。
日台関係が良好であるにもかかわらず、農相があえて世界貿易機関(WTO)への提訴に言及したのは、やむを得ない。
規制強化の背景には、台湾側の事情があるのではないか。当局は3月、禁輸対象の5県から加工食品が輸入されていたと発表した。産地を偽装した中国語のシールが貼られた製品もあったという。
これを受け、当局は新たな規制の実施を決めた。来年1月の総統選を控え、馬政権には、住民の関心が高い「食の安全」の問題に積極的に取り組む姿勢をアピールする狙いがあるのだろう。
当局は、回収した日本産食品の放射性物質検査を実施したが、当然の結果ながら、異常な例は見つかっていない。
日本政府は、原発事故後に設けた食品中の放射性物質に関する基準に従い、出荷時に安全性を厳しくチェックしている。汚染食品が出回る心配はあるまい。
こうした事実は、国際的にも認知されつつある。輸入を規制した約50か国・地域のうち、既に14か国が撤廃に応じている。
日本にとって台湾は、香港、米国に続く食品の主要輸出先だ。政府は、科学的データを示しながら台湾と対話を重ね、一連の規制の撤廃を求める必要がある。
中国は10都県の食品輸入を全面禁止し、韓国も8県の水産品輸入を禁じたままだ。風評被害の拡大を防ぐ広報活動が重要である。
「日本の食」の輸出促進に支障を生じさせてはならない。
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