デジタル教科書 活字文化の衰退を招かないか

朝日新聞 2015年05月18日

電子教科書 教育を変える契機に

子どもがタブレット端末などで学ぶ「デジタル教科書」。

そのあり方の検討を、文部科学省が始めた。有識者会議で来年中に結論を出す。

教科書は中心となる教材で、誰もが使うものだ。それを変えることは授業、教員、教育全体を変えることにつながる。

多角的で幅広い議論がなされることを期待する。

デジタル教科書は画面でページをめくる。「紙」の教科書と違い、文字や図形だけでなく音声や動画も載せられる。

例えば英語の発音が聞け、算数で図形を動かせる。理科の実験映像も見ることができる。

授業の方法も膨らむ。ネットワークでつなげば、全員の答えを電子黒板に映し共有できる。これまでは授業で教えてきた内容を家で映像を見て予習し、教室では議論に時間をかける「反転授業」もやりやすくなる。

教師が教え込む授業から、児童生徒が自ら学ぶ授業へ。その改革の後押しにもなる。

一方で、実現するには課題も多い。一つひとつ洗い出し、丁寧に議論したい。

デジタルの光だけでなく影を見つめ、それを最小限にする姿勢が必要だ。視力への影響やデジタル依存などのデータを集めてほしい。有害情報にアクセスできない仕組みは欠かせない。

デジタル教科書はあくまでも手段に過ぎない。大切なのはどんな授業を目指すのかである。

鉛筆を使い、ノートに写すなど手を動かす機会を減らしてはならない。デジタルか紙かではなく、それぞれの良さを生かした使い方を工夫したい。

教員も指導力を高めなければならない。養成や研修から見直す必要が出てくるだろう。

目の前のハードルとなるのは、紙の教科書を前提にした検定、採択、供給の制度である。

いまの教科書の中身をタブレットに入れるだけでは意味がない。ただ、音声や動画まで含めるなら、膨大な情報を国がどう検定するかを検討しなければならない。これを機に時代に即した柔軟な検定制度を考えたい。

義務教育の場合、今の教科書のように無償で配るのか、著作物を使う場合、権利を持つ人への支払いをどうするのかといった検討も必要になる。

導入には端末やネットワーク環境の整備が条件だ。高額のコストを、いったい誰が負担するのかも問題になる。現状では自治体や学校、家庭で格差が大きい。国の支援が求められよう。

情報化のうねりは加速している。子どもたちが生きる次の時代を見すえた議論を進めたい。

読売新聞 2015年05月17日

デジタル教科書 活字文化の衰退を招かないか

社会のデジタル化が進んでも、子供たちが紙の教科書を読み、鉛筆で文章を書くことの大切さは変わらない。

文部科学省の有識者会議が、タブレット型の情報端末を使う「デジタル教科書」の導入について、議論を始めた。約1年半で結論を出すという。

有識者会議は、「導入ありき」の拙速な議論に陥ることなく、問題点をきちんと見極め、慎重に検討を進めてもらいたい。

今回の教科書のデジタル化論議の背景には、教育現場のIT化の流れがある。政府は、電子黒板の普及や児童・生徒への端末配備などを目指している。

動画や音声の機能が付いた端末の活用で、子供の興味や関心を呼び起こす効果が期待される。

独自ソフトを入れた端末を補助教材として使い始めた学校は少なくない。画面を動かしながら、立体の特徴を確かめたり、英語の正しい発音を聞いて、音読練習をしたりする学習が可能になった。

障害を持つ子供にとって、文字の拡大や文章の読み上げといった機能は、理解の助けになるという指摘もある。

ただし、教科書は、補助教材と異なり、すべての児童・生徒が手にするものだ。子供たちは教科書を通じて活字に親しみ、読み書きの基礎を身に付けてきた。

教科書がデジタル化された場合、子供たちは情報端末を自宅に持ち帰るようになる。家でも端末操作に熱中するなどして、生活のリズムが変わり、本を読む機会が減ってしまわないか心配だ。

デジタル教科書の導入が、「活字離れ」に拍車をかければ、活字文化の衰退を招きかねない。

日常的な使用が、視力や姿勢に悪影響を与える懸念もある。

日本では、教科書の作成を民間会社に委ねている。内容が学習指導要領に基づいているかどうか、政府が検定を行うことで、質を担保している。動画や音声の厳正なチェックは可能だろうか。

義務教育の小中学校で使う教科書は、国費で購入し、無償配布されている。情報端末の購入費や維持費などを、すべて国が負担するのかという問題も出てこよう。

情報端末を授業に導入した米国の一部地域では、ソフトの不備や教師の習熟不足などのトラブルが相次いだ。デジタル教科書の試験運用を進める韓国でも、目の疲れを訴える声が出たという。

様々な課題を踏まえれば、デジタル技術の活用は、補助教材にとどめておくべきではないか。

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