大胆な改革に対する市民の将来不安を払拭できなかった。橋下徹大阪市長の政治生命に直結する結果となった。
地域政党・大阪維新の会代表の橋下氏が推進してきた「大阪都」構想の賛否を問う住民投票は、反対が僅差で賛成を上回った。投票率は66・83%に上り、市民の関心の高さを示した。
これに伴い、政令指定都市の大阪市を廃止して5特別区に分割し、広域行政を大阪府に移管する制度案は廃案となり、大阪市が存続することが決まった。
橋下氏は記者会見で、「都構想を説明し切れなかった私自身の力不足」と敗戦の弁を語った。
橋下氏らは、「府と市の二重行政の無駄を省き、生み出した金で豊かな大阪を作る」と強調した。行政改革分を含め、財政効果は年155億円に上るとも訴えた。
都構想に反対する自民、公明両党などは、財政効果は年1億円にすぎないと反論した。「大阪市を分割すると、住民サービスが低下する」とも主張した。
読売新聞の世論調査では、2011年以降、賛成が多数だったが、先月27日の告示前には賛否が拮抗し、告示後は反対の方が多くなった。財政効果が不透明な中、身近な行政サービス低下への懸念を感じる人が増えたためだろう。
橋下氏は、維新だけで制度案を作成し、市議会の十分な議論がないまま住民投票に持ち込んだ。この強引な手法も批判を招いた。
大阪市は、企業の本社機能の流出が続き、「商都」としての地盤沈下が指摘されて久しい。生活保護受給者の割合も格段に高い。
今後も、大阪市の活性化に向けた議論は継続する必要がある。
道府県と政令市の二重行政は、大阪だけの問題ではない。
昨年の地方自治法改正で、16年度から知事と政令市長の「調整会議」の設置が義務づけられる。人口減時代に道府県と政令市がどう連携するか、議論を深めたい。
維新の党にとって、都構想の頓挫は大きな打撃である。最高顧問の橋下氏は、12月の市長任期満了後の政界引退を改めて表明した。江田代表も辞任する意向を明らかにした。党全体の影響力の低下は免れまい。
安倍政権との関係にも変化が生じよう。橋下氏は、安全保障政策や憲法改正で首相と考えが近く、政権との協力を重視してきた。
維新の党が今後、どんな路線を取るにせよ、「責任野党」として建設的な政策論争を政権に仕掛ける姿勢を忘れるべきではない。
この記事へのコメントはありません。